0話 転移、そして転生
いわゆる現代日本。
秋月遥希は高校の2年生をやっていた。
首都圏でそこそこ真面目に勉強をしつつ、毎週コンテストでコーディングをし、ヒマがあれば適当に問題を解いたりラノベを読んで現実の知識と組み合わせて空想をするような日々を送っていた。
趣味でコンテストに出だしたのは中学時代に数学が好きでネット上の問題に手を出していたところたまたまオンラインコンテストサイトの存在を知り、色々触った結果一番馴染んだのがこれだったからだ。
それ以来中の上程度の実力と評価されるくらいになっていた。成績も悪くない感じである。
「この後ゲーセン行こうぜ」
「大会本戦出場できるといいな」
「いいなじゃねえよ出るんだよ!」
「ねえ、これどうやって解くの?」
「ああそれはねこういう公式があって…」
「まぁほぼ自明だけどね」
「あはは…」
「林業で利益が出るようにするために補助金を入れて、その元手として森林による経済効果を推定して徴税すると全体として改善するかもじゃない?」
「あ〜なるほどな。確かにそれなら悪影響を減らせるかもな。でも調査コストが大きくね?」
「それは未来への先行投資ってことで。」
「まぁそれはありかもな」
クラスで仲の良いというか話し相手をしてくれる古田拓人と適当に流れるニュースと今までで学んだ知識諸々を組み合わせた空想を話して過ごす休み時間。
通っている高校は一応進学校に分類される公立高校で、割と放任、自分でやっとけスタイルである。
だから皆思い思いの時間を過ごすがそんな中俺はかなりマイペースな話題を振っていた。
幸い内容はある程度伝わるようなものを選んでいたのもあってそこそこ面白がってくれていたらしい。
そんな休み時間が終わり、次の地理の授業が始まる時間になって皆が席に戻ってきた時、突如として教室に魔法陣が現れる。
周囲を見ても皆目線を落として驚いているようだったので信じられないが現実らしい。
「?!こういうのって本当に観測されてないだけで実在してたのかよ?!」
そのような驚きと共に意識が途切れたーーーー。
次に目を覚ますとそこは広間のようであった。
高い石造の天井。
よく見ると上がバルコニーのようになっていて見下ろしている人々がいることがわかる。
服装的にかなり高貴であることが推察される。
(異世界ってなんでこうも中世ヨーロッパ風という感じで典型的なんだ?もしかしてむしろそう仕組んでるのか?だとしてらそれはそれで面白いけど一旦置いといて…意図的に召喚されたっていうことは軍事利用するのが目的なのだろうか。だとすると相手が情報を伏せると見るべきか。とりあえずちょっと身の回りの確認を…と、なんだこれ?よくわからない粒子みたいなのが飛んでいるがこれってもしかして魔力とかそういう不思議パワー系のやつかな?まぁ物理が不思議パワーじゃないかは議論の余地しかないが。)
「皆さん、召喚に答えていただき誠にありがとうございます。」
上から抑揚のない、通る声が響く。
「あなた方はこの世界を守るべく召喚させていただきました。もし応じていただけるのであればこの国を守護する勇者となっていただきたいのです」
「どういうことだ!」
「もう少し事情説明を詳細におねがいしたい!」
(言語が通じるのか。というより明らかにこの粒子が反応してるよな。このおかげなのか?)
その後、クラスでまとめて事情説明を受ける。
ここはアストラル王国というらしくどうやら魔物と呼ばれる、「魔力」を取り込み強力に変異した動物の脅威にさらされており、特に強大な「魔王」なるものが攻めてきているのだという。
そしてそれから人類世界を防衛する守護者になってほしいと。
どうやら召喚された人々には強力な能力が宿り、スキルと呼ばれているとのこと。
この世界の人々でもスキル自体は発現するのだがその質や発生頻度を鑑みると召喚した人々の方が強くより確実な戦力になると。
(まぁそのまま飲み込めはしないし一旦そう仮定しておいて調べるしかないか。)
スキルの確認が行われた。
俺のスキルは《魔力操作》というらしい。
…相手の顔に嫌そうな雰囲気を感じるあたりおそらくそんなに強いものでないと思われているようだ。
他の人ーー新田梓が《読心術》、高橋直哉が《剣聖》のスキルを持っているのを確認された時は嬉々としてどのような効果があるのか、事例から説明していたのを見るにかなり扱いに差があろうことは見て取れる。
はぁ…。
まぁ運が肝心な時に限ってよくないのはいつものことだ。
それにまだスキルがどのようなものでどういう効果があるのか把握できていない。
それまでは話半分で聞いておくことにしよう。
実際使って効果を検証できないと評価のしようがないし。
その後歓迎会的なのが開かれる。
料理が運ばれる。
異世界らしく魔物の肉を合成に使った肉料理や炒めもの等が出される…まぁ、流石に現代日本のご飯の方がおいしいか。
正直微妙ではあったがこんなものと受け入れる。
翌日からは訓練…なのだが、格差がひどい。
当たりとされたスキル持ちの生徒は食事や周りの使用人、あてがわれる装備など最上のものが用意されているようだが俺に回ってきたのはギリギリ折れないかどうかの粗悪な鉄の剣とくたびれた鎧。
もちろん時間にも規律にも厳しくなんなら暴力も日常茶飯事といった具合である。
正直きつい。
なんとか耐える打開策にならないかと睡眠時間の一部はスキルの確認に回していた。
数日後、周囲に浮かぶものに対して働きかけや操作ができることがわかった。
もしかして自分に取り込んだら強化とかできるのかと思いやってみると身体強化らしきことができ、多少痛みとか傷もマシになった。
バレると面倒そうなのでバレない程度に発動する。
一週間後、ハズレ組に魔物討伐の初任務が回ってきた。
一応同伴部隊もいるようだが練度を見るに正直頼りにならなさそうと素人目線でも見て取れた。
そして現れたのはーーー巨大な熊のような、赤い巨躯に鋭い蹄。どうみても凶悪な相手だった。
しかも同伴部隊の方はヘラヘラ笑いながら撤退していったようである。
(これ多分逃げようとしても追撃されるから闘うしかなさそう…?)
他のクラスメイトの方はとっくに恐怖に心を塗り潰されてしまったらしくまともに戦えそうになかった。
幸いこっそりスキルを多少まともに運用できるようになったし恐怖心よりも好奇の感覚に満ちていたため戦うことはできそうだ。
自分の剣を携えて、絶望との戦いが始まったのだった。
とりあえず斬り合いをしてみようと剣を向け切り掛かる。
一撃目で理解する。
(膂力ははるかに負けてる!まぁそうだろうけど!《魔力操作》で身体強化を限界までやればギリギリ踏ん張れる、な!)
その後なんとか打ち合いながら攻撃の隙を探る。
5撃目、全力で力を入れた攻撃で上体を起こした隙をつき剣を突き立てようとしーーーー折れた。
(うおおーーーーい!!!)
こうなってはまたはじめからやり直しだ。
クラスメイトが手放した剣を適当に一本拾う。
しかし。
(魔力がもうなくなるーーーか。)
そう。身体強化に使っていた魔力だがもう体に残っていないような感覚なのだ。
(何かできないかーー。 これは…もうなんでもいい、倒せれば!っと。これは…?)
そのとき、体の奥底でまだ眠っているエネルギーがあるように感じた。
直感的にそこからエネルギーを思いっきり取り出そうと試みてーーーー
大爆発と共に意識が暗転した。




