第16章:「疎外者たちの怒りの守護」
第16章:「疎外者たちの怒りの守護」
金曜日 午前7時55分
教室の空気は重かった。
暑さのせいではない。
湿気のせいでもない。
それは、凝縮された“怒り”だった。
男子たちの、抑圧された怒り――嫉妬と劣等感の塊。
明け美はいつも通り無表情で教室に入った。
内心では魂を引きずりながら、無言で席に座り、ノートを開いた。
(今日は誰にも話しかけられず、触れられず、下着を視線で剥がされることもなく、化学の宿題をして、静かに死にたい…)
――もちろん、それが叶うわけがない。
最初に入ってきたのは、ミウ。
まるでステージに向かうアイドルのような登場。
キラキラと光る髪、イタズラっぽい笑顔、校則ギリギリの短いスカート。
「おはよ~、アケミくん♡」
ジュースの紙パックを机に置き、後ろの席に座る。
教室の男子たち:
「またミウかよ!?」
「なんでいつもあいつのとこ行くんだ!?」
「意味がわからん…」
次に現れたのは、リカ。
低めのヒールに、ピッタリした制服。
ボタンがギリギリのブラウス。
甘くて強い香水の匂い。
まるでスローモーションの女優のように通路を歩いてくる。
「おはよう、沈黙の王子様♡」
耳元でささやくリカ。
「今日も…あまり着てないよ、制服」
ウインク付き。
明け美は目を閉じた。
(もう抵抗する気もない… 魂は三回目の不意打ち訪問の時点で肉体を去ったよ)
――そして、最後に登場するのは…アリサ。
女王。リーダー。圧倒的存在感。
完璧に整った制服。輝く金髪。
氷のように冷たい…けどどこか艶っぽい笑み。
先生が出席簿から顔を上げた。
「…ん?アリサもか?」
「はい。副校長からの指示で、“グループ間交流”の一環として、本日から一週間、臨時クラス補佐として参加します」
「…交流?」
「優秀生徒による観察・指導プログラムです」
男子たちが小声でうめいた。
(どう見ても建前だろ…)
アリサはゆっくり歩き、明け美の隣を通り過ぎ、二列後ろの席に座った。
「心配しないで、アケミくん」
小声で囁く。
「今日はただ…観察に来ただけよ。戦略家としてね」
⸻
授業中
ヒソヒソ声は止まらなかった。
男子たちは、まるで裏切られたカルト教団の信者のような目で見つめ合っていた。
「…全員いるじゃん」
「学校の美人ランキングTOP5のうち、3人があいつ狙いって、何事!?」
「アレか?金持ちか?悪魔と契約したか?フェロモン風呂にでも入ってるのか!?」
親友のハルトは、哀れみの眼差しで明け美を見ていた。
「兄弟よ… お前、このままだと校庭に磔にされて、嫉妬の神への生贄になるぞ…」
明け美は何も答えず、心の中で考えていた。
(僕のせいじゃない… 彼女たちを誘ったわけでもない…何もしてない…よね? それとも、僕の“静かな絶望オーラ”が引き寄せてるのか…?)
⸻
放課後・校舎裏の通路
明け美は裏口からこっそり出ようとしていた。
友人たちは校庭で待っていたが、ひとりになりたかった。
…だが、その前に“奴ら”が現れた。
5人の男子。
体格のいい2年生。
怒った表情、だらしない制服、そして“フラれ続けた者たちの怒り”を顔に貼りつけていた。
一人が明け美の前に立つ。
「お前が、アケミってやつか?」
「ええ。でも…探してるアケミじゃないと思います」
無気力に答える明け美。
別の男子が軽く肩を押す。
「調子乗ってんのか? お前、女に囲まれてさ」
「呼吸してるだけです」
「それが問題なんだよ! 何もしないのに好かれてるとか、ふざけんな!」
一番体格のいい男が腕を組む。
「お前、敵を増やしてるんだぞ。体育の時間とか、カメラのないとこ…気をつけろよ」
明け美はため息をつく。
「本気で、四六時中不安に包まれてる男が羨ましいのか…?」
「――羨ましいわ!!!」
全員が叫んだ。
そして、1人が明け美の襟に手を伸ばしかけた、その時――
鋭い女の声が響いた。
「彼に、何か用かしら?」
アリサだった。
その後ろに、リカとミウが腕を組んで立っている。
「え、いや…ちょっとだけ…」
しどろもどろになる男子。
アリサはゆっくり歩いて彼らの前に立つ。
「警告は一度だけ。アケミは“私たちのもの”よ。もし彼に触れたら…私が相手になるわ」
男子たちは後ずさった。
「…覚えてろよ」
1人がつぶやく。
「いいわよ、覚えといて」
アリサが微笑む。
「そのかわり――歯が残ってるうちに帰りなさい」
男子たちは舌打ちしながら去っていった。
明け美はその場に立ち尽くす。
「…ありがとう?」
「別に、あんたのためじゃないわよ」
リカが冷たく言う。
「私たちの“獲物”に、他の誰かが手を出すのが嫌なだけ」
「獲物…?俺、今狩猟期間中の鹿みたいな扱いされてる!?」
ミウが後ろから肩を抱いてきた。
「アケミくん、最近モテモテだね~♡ でも気をつけて?この調子じゃ、ボディーガードが必要になっちゃうかも」
アリサはウィンクして言った。
「それか、弁護士ね」
明け美は目を閉じて、また一人で考えた。
(…僕を“所有物”みたいに守ってるってことは――これは“保護”なのか、それともただの“縄張り主張”なのか…)
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