大食い女子高生キャラなんてヤダよ~っ!
最後に見た汐見さんは生きているのが不思議なほどの重傷を負っていた。
急いで病院に連れて行かなきゃ、手遅れになるほどの・・・
(私、気を失っていた時間はどれぐらい? )
時計が無い。
あっても目が霞んでて見えない。
現在の時刻を聞きたいけど、声が出ない。
(どうしよう! たいへんだよ! 誰か汐見さんを助けて! )
もう親しい人が亡くなるのを見るのは嫌だ!
私の力で助けられる人がいるなら、一人残らず助けたい!
そのために、私は覚悟を決めて戦ったのだ!
小鬼を、洲崎を手に掛けたのだ!
(動けーっ! 動け身体っ! 動け口っ! )
それまで大人しくしていた私が、いきなり深刻な顔をしながら口をパクパクさせ始めたので、付き添ってくれている救急隊員の女性が驚いた。
「どうしたの? もう、ここは安全なのよ。何も心配いらないのよ。」
そんなことを心配してんじゃない!
緊急事態だってのに、私の能力ってホントに不便だ。
こんなの、いっぱいご飯を食べたら即解決できるのに、そんな簡単なことが、今はできない!
(もーっ! シデン! お願い! 助けてよ! )
相良との戦闘は終わったのか?
未だ継続中なのか?
全然分からないけど、他に頼るべき相手がいない。
シデンなら、口が利けなくても強く念じれば伝わるはず。
『おお、良いけどさ。何すれば良い? 』
なんか、めっちゃ近くからシデンっぽい返事が聴こえた。
この、やる気あるんだか無いんだか良く分からん言い方は正しくシデン。
これだけクリアで濃いテレパシーなら、絶対傍にいるはず。
(通じた? シデン、聴こえてんの? )
目が役に立たないので、シデンが傍にいたとしても確認のしようがない。
だが、その問題は救急隊員の女性のおかげで即解決した。
「まっ! マカミさまぁ―っ! 」
大きな声出してパニクっているのが、見えなくても分かった。
間違いなくシデンは傍にいる。
私以外には、シデンじゃなくてマカミなんだもんね。
それにしても、汐見さんもだけど、ワンコに様付けしてんのって、なんか変。
ってかマカミって、けっこう有名なの?
知ってる人多いの?
なんて、呑気に考えてる場合じゃなかった!
(シデン! 聴こえてんでしょ! )
『あっそうか! お前、今はガス欠で口きけないのかぁ~ 』
そこ、今更気付くことか?
そんなん見たら分かるだろうに。
(口だけじゃなくて、目も霞んでるし、指一本動かせないのよ! )
『そりゃな、魔力結石を奪われたんで、補助バッテリーが無くなっちまって、完全EMPTY状態になってんだわ。ってことは、何か食い物持って来いってことだな? 』
それは、そうしてくれたら有難いんだけど、その前に、
(汐見さん! 大怪我した汐見さんを、ここから少し離れた場所に隠しといたの! 見つけて、病院に連れてってほしいの! 大至急! )
“あじさい” の皆が殺されたのと同じ日に、汐見さんまで亡くなってしまうなんて、そんなこと絶対にあってはならない!
『汐見って、公安外事4課の汐見だよな? 』
シデンが知り合いっぽい言い方をした。
『知り合いつーか、仕事仲間? そんな感じ。』
仕事ってなんだ?
ワンコのくせに仕事あるんかい?
まあ、面識があるなら話が早い。
(その汐見さんが死にそうなの! コンテナヤードのゲートを出て直ぐの、停めてあるフォークリフトの中に隠して来たけど、すごく出血してたし、早く助けなきゃ! )
病院行く前に、出血や怪我なんかはシデンのウルトラパワーで何とかして欲しかったりする。
そのことも一緒にお願いしたら、
『重機の運転席に乗せられてた汐見なら、つい今し方救急車に放り込んどいたが、それで良いんだろ? 応急処置もしといたから、まあ死にゃしないだろ。』
シデンはあっさり即答。
(ホント? 汐見さん無事? )
『おお、無事だぞ。1週間も寝てりゃ全快だ。』
その力強い一言を聞いたら、胸がジンと熱くなった。
良かった! 本当に良かった!
汐見さんが死んだら、私の心は今度こそ壊れてしまったに違いない。
(シデン! ありがとう! )
泣けてきた。
身体も口も動かないし、目も見えないけど、涙はいっぱい出た。
『何、泣いてんだよ。汐見の心配よりも、まずは自分の心配しろ。』
ああ、こいつは所詮ワンコだから、人間のデリカシーが分かってない。
しかも、デリカシーが微塵も感じられない発言を尚も容赦無く重ねてきやがる。
『ちょっと、そこのお姉さん。悪いんだが、食い物買ってきてくれないか? 』
「え? 私ですか? 」
それまで、マカミさま相手に畏まって控えていたらしい救急隊員の女性に、いきなり会話を振って、 “そこのお姉さん” 扱いで使い走りにしようとしてる。
「あの、私は責任もって患者を病院に搬送・・・ 」
『ああ、こいつにそういうの必要無いから大丈夫! 』
救急隊員の職務を問答無用で思い切り遠くへ放り投げられてしまった感じ。
「でも、そんな・・・ 」
躊躇する救急隊員の女性だったが、
『病院連れてったってダメだ。こいつは怪我もしてないし、腹が減って動けないでいるだけだから。なんか買ってきて腹いっぱい食わせりゃ、そんでOKだから。』
( 「 えーっ! 」 )
なんてこと言うのよ! この馬鹿ワンコ!
年頃の乙女に、現役JKに、腹減って動けないとか、腹いっぱい食わせりゃOKとか、普通言うか?
「あの、食べ物って、どのような? 」
救急隊員の女性は怪訝な顔をしている。
そりゃあ、気絶してストレッチャーで運ばれるレベルの空腹ってどんだけなのよ? って思うよね。
『コンビニので良いから、おにぎりやパンなら30個ほど、それに大きめのチョコバー10本、スナック菓子10袋ってとこか。これで20000キロカロリーぐらいにはなるだろ。ああ、それと初めはモノを食おうにも動けないだろうからゼリー飲料も5本くらいあったら良いな。』
「・・・ 」
絶句してるよ!
そりゃするって!
「あの、この娘が一人で食べるんですか? それ。」
17歳のJKが、20000キロカロリーも一食で摂取するわけないじゃん!
『ああ、こいつなら、そんぐらいペロリだぜ。』
・・・言いやがった。
(ふざけんな! このクソ馬鹿ワンコ! 人に言うことじゃねーだろ! )
事実だからって、言って良いことと悪いことがある。
その区別がつかないのは、知恵の足りないワンコゆえなのか。
『てめぇ、オレがせっかく気ぃ使ってやってんのに、知恵が足りないとか、クソ馬鹿ワンコとか、好き勝手言いやがって! 東京湾に叩き込むぞ! 』
(無抵抗のか弱い乙女を海に叩き込むなんて! それが神さまとか言われてるヤツのやることだっての? もっと、ちゃんと労われ! ちゃんと気ぃ使え! それと多感な女子高生を陥れる大食い疑惑訂正しろ! )
『あ? 大食いは疑惑じゃなくて、事実だろ! 何言ってんのお前? 』
くっ! 口惜しい!
いくら事実だからって、そんなバカげた量を私が食べるなんて、そんな恥ずかしいことを暴露されるだなんて!
今、身体が動かせたら大暴れしてやる!
この辺一帯、巨大イカに負けないぐらい、メチャクチャにしてやる!
「あの、私、本当に買い物行けば良いんでしょうか? 」
救急隊員の女性には、私とシデンの罵り合いは聴こえてないが、この場に漂い始めた殺伐とした空気を感じ取ることはできたらしい。
だから、さっきは患者の傍から離れられないとか言ってたのに、いつの間にか少しづつ後退りを始めていて、けっこう不自然な距離を開け、戸惑いながらのお伺いであった。
『ああ、行ってきてくれ! ここ出たら近くにセブンかデイリーあるから、どっちでも良い。領収書忘れんなよ。後で、こいつに払わせるから。』
シデンの容赦無い命を受け、救急隊員の職務から一時離れた女性の方は、小走りで食料品の買い出しに向かっていった。
たぶん、納得はできていないと思うが、この場に漂う不毛な空気から解放されたので、その足取りが立てる音は幾分か軽かった。
こんな馬鹿ワンコでも、私以外の人からすれば神さまらしいので、その言うことには無茶でも従うわけだね。
(けどさ・・・ )
あの、救急隊員の女性、絶対に皆に言うよね!
職場の同僚、家族に友だち、言わないわけないよね。
だって、面白いじゃん!
おにぎり30個食う大食いJKなんて、異世界のバケモノよりも珍しくて笑える生き物だしっ!
(もうヤダ! サイアク! )




