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必要さえあれば、私は殺れるんだ・・・

 『逃げたってなぁ、どうせお前の行き先は分かってんだぞ! 』


 既に攻撃が届かない程に遠く離れてしまった相良の引く航跡を眺めながら、シデンは忌々しそうに言い捨てた。


 このまま、後を追うべきか?

 追って、ヤツが事を起こす前に止めを刺してしまうべきか?


 『いや、そう急ぐことも無いだろう。いくら道具が揃ったって簡単に開けられる異世界の扉じゃあるまいしな。』


 魔力結石を手に入れた相良が目論むのは、こっちの世界と異世界を隔てる扉を開くこと。

 両世界の境目を失くし、異世界の種族たちを呼び寄せ、こちらの世界を蹂躙させ支配させること。

 

 『それにゃ最低でも丸1日は掛かるだろうから未だ余裕はある。その前にオレはこっちで急ぎやっとくことがあるんだ。』


 そうと決めたシデンは、相良の向かった先と同じく、日本の東京をめざした。


 だが、目指す場所はちょっと違う。

 同じ東京でも、相良が目指したのは都下。

 シデンは江東区夢の島を目指している。

 そこでは、今も未だ紗耶香が相良の部下たちと戦っているはず。


 『主(おや)として眷属(むすめ)の戦いを見届けてやらにゃならんからな。』



 ◇



 んでもって、こちらは東京湾岸、夢の島。


 (あ~あ、手が痺れちゃった。)


 初めて撃った拳銃の引き金はとても硬かった。

 反動も予想以上に凄くてビックリ。


 でも、たぶん上手に撃てたんじゃないだろうか?

 両手で握って、銃口を前に向けて、引き金に指を掛けたら、ちょっとした引っ掛かりを感じたけど、構わずに引き切ったら弾が出た。

 想像してたよりも大きな音がして、耳が痺れたし、頭の中が暫くグワングワンしていた。

 狙った相手が2メートルほど後ろに吹っ飛んでったので、間違いなく命中している。

 ほぼゼロ距離で撃ったのだから、当たるに決まってるんだけど。


 私に撃たれたヤツ、言うまでも無く洲崎なんだけど、最初は何が起きたか分からずに呆けっとしていた。

 でも、直ぐに自分の腹に空いた穴に気付いて泣き喚き出した。


 (馬鹿みたい! )


 こいつが今まで何人殺したことか。

 こいつのせいで何人が傷付いたことか。

 それなのに、自分が傷付けられたら、痛くされたら、無様にも大声出して泣き喚くわけだ。


 しかも、


 「だぁ、助けて! 許してぇ! もうぅ悪いことはぁしばせぇ~んからぁ! 」


 ですって。

 まったく、汚らしいったらありゃしない。

 開いた口が塞がらない。


 (煩いから、さっさと止め刺さなきゃね。)


 泣き喚く洲崎を呆れ顔で眺めていたら、何か背後が騒々しくなっていた。


 (そういえば、巨大イカが私を狙ってたんだっけ? )


 でも、何か様子が変?

 振り返るだけの体力が無いんで、雰囲気で掴んだんだけど、なんか苦しんでるっぽい。


 (もしかして、そういうこと? )


 やっぱ、召喚したモンスターは召喚主とリンクしてるんだね?

 洲崎が撃たれて苦しんでるから、巨大イカも苦しんでるわけだ。


 (って、ことは? )


 やっぱ、RPGの召喚獣と一緒で、洲崎の息の根を止めたら、巨大イカも死んじゃうってのアリなんじゃない?

 手にした拳銃に未だ弾は沢山残っているはず。

 これは、直ぐに殺ってみるしかない。

 

 「やっ、やめろよ! 冗談だろ? 撃たないで! もう無理だから! おっお腹に穴が開いて、血がいっぱい出てるんだよ! 助けて! 嫌だ 死にたくない! 」


 私が、ゆっくりと銃口を向けたら、洲崎が両手を合わせて拝み始めた。

 それが、とっても格好が悪くて無様に見えた。


 (お前さ、もう死んじゃえよ。世の中の迷惑なんだからさ。)


 コレ、ホントは言葉にしたかったんだけど、もう口が動かなくなっていたから無理。

 だから、無言で引き金を引いて、2発撃った。


 流石に離れて撃ったら簡単には当たらないもんだ。


 1発目は大外れ!


 洲崎の手前の地面に当たってアスファルに穴を開けた。


 でも、2発目は命中っ!


 泣きながら命乞いしてた洲崎の鬱陶しい顔面に大当たり。

 人相も分からんくらいのグシャグシャにしてやった。

 私を何度も嫌な気持ちにさせる、あの厭らしくて気味の悪い笑顔を浮かべていた洲崎の顔面を潰してやったので、けっこう溜飲が下がった。


 でもね、実は心臓を狙ったんだよね~


 当たったのは完全にまぐれ、超ラッキー!


 結果はオーライだけど、やっぱ素人に銃なんて無理だわ。


 ところで、これは私にとって初めての“殺人”。

 小鬼殺しとは全然違う、同族殺しってヤツ。

 めちゃめちゃ重たい事実がそこにあった。


 でも、なぜだか心は穏やかだった。


 落ち着いてるし、冷静だし、動揺なんて微塵も無い。

 能力でメンタルが強化されてるせいかもしれないけど、洲崎を殺したことについて、私の中では既に必然性が理解できていて、十分に納得済みのことだった。


 (その必要があれば私は殺れるんだ・・・ )


 以前、シデンが言ってたとおりになった。

 あのワンコ、意外に侮れなかったな。


 さて、洲崎が片付いたんだから、そのお友だちはどんな感じ?

 

 (イカは? )


 うーむ、残念ながら消えてはいなかった。

 洲崎が死んだことで、却って呪縛が解けてしまったみたい。

 勝手に暴れ出してるっぽい。


 (これは、かなりヤバいかも。)


 もう、私は逃げられないどころか、ボチボチ気を失うところ。

 

 (困ったなぁ。)


 流石に、これ以上は何も考えられない。

 視界がフェードアウトしていく。

 真っ暗になっていく。


 (あれ? )


 真っ暗な中で、ドカン! バカン! ズドン! とか、爆発音が聴こえたような気がした。


 (何の音なんだろう? )


 そこで、意識はフェードアウトした。



 ◇



 「野次馬集まって来てるぞ! こっちに近づけさせるな! 」


 「マスコミ関係者は見つけ次第、全員拘束しろ! 」


 「第3班はゲートを車両で塞ぐんだ! 急げ! 」


 「東雲、辰巳、夢の島、全域で安全確認! 」


 「krakeの死骸、処理作業始まりました! 」


 目覚めたら辺りが騒然としていた。

 いや、騒然としていたから目覚めたのか。


 「おっ! 気付いたか、お嬢さん? 」


 知らない女の人の声。

 目が霞んでいて良く見えない。


 「キミ、よく頑張ったよ! 流石にマカミ様の眷属だね。」


 マカミ様って、シデンのことだよね。

 なんか褒められてるんだけど、それに受け答えすることができない。

 目は覚めたけど、体力と気力は未だEMPTYランプが点滅したままである。


 「間もなく救急車が入れるようになるからね。もう少しの辛抱だよ。」


 今、気付いたけど、私が寝ているのは薄い毛布が敷かれたストレッチャーの上。

 ベルトで固定されているので移動の途中だったみたい。

 でも、今は動いてないみたいだけど。


 (それじゃ、この女の人は救急隊員ってことか? )


 どうやら洲崎を撃った後で、エネルギー切れで気を失ってしまっていた私を拾ってくれたらしい。


 「でもね~ 怪獣が暴れたから地面がズタズタでさ。」


 そのせいで、現在ストレッチャーは立ち往生中ってこと。

 巨大イカが巻き散らした瓦礫の撤去待ちらしい。

 私の付き添いに女性隊員を一人残して、他の隊員は救急車の誘導に回っているとのことだった。


 (そう言えば、イカって、どうなったんだろ? )


 現状を詳しく知りたいが、視界はボンヤリだし、口が利けないので質問することもできない。


 (でも、音は聴こえる。)


 正常時ならば私のスーパー聴力が威力を発揮するところだが、エネルギーの足りない今は常人並み、いや以下かもしれない。

 ストレッチャーの上で、耳を澄まして情報収集するのが精一杯だった。


 (どうやら、周りで忙しそうにしてるのは自衛隊の人たちが中心みたいね。)


 飛び交う軍隊調の会話と、その中に出てくる車両や機材の呼び名で何となく分かった。


 (そういうの、仁太くんに随分仕込まれたからなぁ。)


 自衛隊員たちの会話の中で、巨大イカだの情報も聴こえてきた。

 対戦車弾(LAM)でバラバラの残骸になったとのこと。


 (それなら一安心だ。)


 怪獣だか魔獣だか知らないけど、現代兵器の前では所詮は只の生き物だったということだ。


 (それにしても、市街地で自衛隊がロケット砲なんか撃って大丈夫なの? )


 巨大イカなんて馬鹿げた怪獣相手なら納得の武器なんだけど、日本の法律は敵に優しく味方に厳しいから、そんな威力のある武器の使用許可が下りたなんて信じられない。


 (でも、会話の内容から察するに、この人たちは異世界のバケモノの存在を予め知ってる人たちなのよね? この女の人も私をマカミさまの眷属なんて言ってたし。)


 自衛隊が知ってるということは日本国の政府も知ってるということなので、この現場に出動する際に対戦車弾なんて装備を持ち込むことについても国のお墨付きがあるということである。


 (異世界のバケモノ対策には重火器が必要だって、国も自衛隊も理解してるんだね。)


 そんなの、公安が動いているんだから当たり前のことだった。

 国を挙げての “異世界からの侵略対策”、本当にお疲れさまです。


 「Boggartの死骸回収中に発見した人間らしきモノの射殺体の扱いはいかがいたしましょうか? 頭部の損傷が激しく、男性であること以外、身元も年齢も不明です。」


 「おそらく、そいつは手配中の “ T ” のうちの一人だ。出動前に公安から連絡を受けてる。後で身元照合するからBoggartの袋とは別にしておけ。」


 これは自衛隊員、上官と部下の会話。

 知らない単語 “ボガード” ってなんだろう?

 人の名前っぽいけど?

 最近CSで見た古い映画に出てた “キミの瞳に乾杯” 的な人?

 そうじゃないよね。

 たぶん私が殺った小鬼のことなんじゃないか?

 それならば、頭部の損傷が激しい人間らしきモノの射殺体って洲崎のことだ。


 (でも、“ T ” って何? )


 洲崎のイニシャルじゃないし、何かの暗号? 符号?


 まあ、自衛隊とかプロの人たち同士の会話なんだし、一般人が聞いたって分かんない単語くらいあるだろう。


 (・・・あれ? 私、何か大事なこと・・・あったはず? )


 プロ、プロ、プロ?

 プロと言えば野球じゃない!

 プロといえば本職? 本職といえば警察? 警察といえば公安・・・?


 (わーっ! )


 とっても、とっても大事なことに気付いてしまった。

 っていうか、思い出した!

 呑気に盗み聞ぎしてる場合じゃない!


 (しっ! 汐見さん! ゴメン! )


 ちょっと、エネルギー切れでボーっとし過ぎてた。

 大怪我してる汐見さんを重機の運転席に隠したままだった。


 (たいへん! どうしよう! 5分で決着付けるって言ったけど、その後のこと考えてなかった! 誰かに伝えなきゃ! )

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