シデン VS 相良! 大空中戦?!
こちらは東京湾から南に下った太平洋の上空、雲の遥か上、高度50キロを超える成層圏。
物理的な法則とか全く無視のシデンと相良の戦いが、いよいよ佳境に入っていた。
この戦いはロケーション的には空中戦だが、遠距離からの雷撃や炎弾の撃ち合いに加えて、体当たり、殴り合い、嚙みつきまで、何でもアリな闘争心のぶつかり合いになっていた。
どちらかというと、双方とも肉弾戦の方の手数が多い。
つまり、距離を取っての飛び道具の撃ち合いじゃ勝負が決めきれないので、要は如何にして相手をパワーで捻じ伏せるかが主体の戦いになっていたのである。
そして、この戦いはシデンが優勢に進めていたが、
『オレが全力でやっちまったら、地上に被害出しちまうからなぁ~ あ~面倒臭ぇ~ 』
特に超能力合戦に関しては遠慮気味にならざるを得ない。
射線や威力に配慮しながらの戦いが煩わしそうである。
一方の相良は全力。
取り込んだ魔力結石の魔力をフルに開放して、何に気兼ねすることも無く戦いを続けていた。
だが、部は良くない。
『くそ! たかが犬っころのくせに! 』
相良は口惜しそうに吐き捨てた。
これまで致命傷は避けられてきたが、全身にかなりの数の手傷を負っているし、時速数百キロの速度で行われる空中戦は、戦いの経験豊富な相良であっても初めてのことなので、気力、体力共に消耗が激しかった。
気がつけば、手加減しているはずのシデンに押され気味である。
『だが、まだオレは十分に戦えるぞ! 』
飲み込んで一体化した魔力結石の力により、筋力や火力が増強され戦闘能力は数段階アップしていたし、出血や傷のダメージは最小限に抑えられ、消費したエネルギーも一定の間を置いたら回復した。
『田舎臭ぇクソ鬼の小僧が、他人の力に頼ってて好い気なもんだなぁ! 』
位置取りを考えながら水平移動中の相良、その直上からシデンの一撃が降ってきた。
ガリガリッ!
硬質なオーガの背中の皮膚が切り裂かれる音。
飛び散る血飛沫が真っ赤な飛行機雲のように航跡を引いた。
前後の足指の爪を猛禽類のそれに近い形で変化させ、敵を抉るシデン得意の近接攻撃の威力である。
『グゥッ! 』
たまらず、高度を下げてジグザグ飛行に移る相良。
その後を追い掛けるシデン。
『いい加減に観念しやがれ! このクソ鬼! 付焼刃な能力なんかじゃオレに勝てるわけねーだろ! 』
『煩い! お前の手緩い攻撃など、オレには効いてないぞ! 』
『ほほう! それじゃあ、いたぶるのは終わりにして、そろそろ止めを刺すとすっか! 』
『やれるもんなら、やってみやがれ! 』
『それな~ 殺られ役のザコが言うセリフだわ! 』
大気の薄い高高度を飛行しながらなので、音声による会話など成立しない。
この二人の会話は、もちろんテレパシー的な能力による念話である。
戦うなら黙って戦えば良いのだが、念話なのでチャンネルを開いていれば言葉にして思ったことは駄々漏れになるのである。
『フッ! ザコと言えば、お前が眷属にした娘のことな。』
『んんっ? 』
言葉が聴こえるというのは、時として戦いの邪魔になる。
ついつい、聴こえた言葉の意味を無意識に理解しようとしてしまうので、集中力を途切れさせてしまうからである。
だから、それを狙って相手の動揺を誘う言葉を放つのが有効な時もある。
『今ごろ、オレの部下たちに、かわいがられているはずだぜ! 』
『はぁん? 』
『ありゃ、なかなか良い女だからな、強くて役にも立ちそうだから、ホントはオレの女にしたかったんだけどな、部下どもから掻っ攫ってやろうと思ってたらお前が邪魔するんで、結局は部下どもに預けて来ちまった! 』
相良が唾液を啜り上げるような音を交えて、シデンを挑発する。
『おい! ふざけんじゃねぇぞ! 』
『ふざけてねぇし! 今ごろ、お前の眷属はオレの部下たちに素っ裸にひん剥かれて、股開いて地面に這い蹲されてんだろうよ! 』
カッカッカッ! と、高笑いしてみせる相良。
『このゲス野郎め! 』
相良はシデンの動揺を誘ったつもりだった。
こっちの世界の神族が、自分の眷属を我が子のように慈しむことを知っているので、シデンが紗耶香を汚すような言葉には敏感に反応し、逆上するに違いないと踏んでのことである。
怒りに任せてシデンが突っ込んできてくれたら、カウンターで最大出力の炎弾を放ってやる。
魔力結石で強化された今の自分の最大出力なら、街一つ焦土に変えられるほどの、核兵器並みの破壊力を持つ炎弾が放てるはずだった。
だが、その目論見は外れていた。
シデンと紗耶香の間には精神的なパスが通っている。
さっきまでは相良のシールドが邪魔で途切れていたが、今は回復している。
だから、相良がどんな出任せを言ったって、今の紗耶香がどんな状況にあるのか丸分かりである。
相良が期待するほど逆上していないし、至って冷静に敵の動きを見ながら次の攻撃を考えていた。
それにシデンは、ここまでの戦いを優位に進めてきたため余裕もある。
どんなに相良がパワーアップしても、自分には及ばないことを戦ってみて実感できている。
もちろん、自分の眷属を汚すような物言いには当然のように腹が立っているので、容赦など一切するつもりは無い。
そういう意味では闘志全開である。
そんなシデンに、相良は必殺の一撃を放とうとしているのだが、
『来やがれ! 犬っころ! 』
シデンの攻撃を避けるためのジグザク飛行からクルリと反転。
追い掛けて来るシデンの真正面に位置取って空中で停止した。
『む? 』
相良が短い詠唱をブツブツと唱えると、それを警戒し慌てて減速したシデンの目前に、突如凄まじい光と超高温を放つ巨大な火球が出現した。
『これでも食らいやがれっ! 』
そう相良が叫んだ途端、成層圏を揺るがす大爆発が起きた。
高高度核爆発!
空気が殆ど無いので爆発音は微かだが、その輝きの強さと大きさ、衝撃波の広がりによって威力の凄まじさが分かる。
もし、これを地上で用いていたなら、都市の一つや二つ忽ち蒸発させていただろう。
但し、直接ではないが、この爆発は地上にも間違いなく被害を及ぼしている。
爆発により発生したガンマ線(X線)が大気層の電子を叩き出すコンプトン効果を起こし、これによって発生した電磁パルス(EMP)が、爆心地直下の半径数百キロに渡って電子機器に大規模障害を及ぼすだろう。
こんな攻撃、地上に配慮する必要のない相良だからこそ可能な攻撃である。
『これで、犬っころも蒸発したか? 』
相良にとって、電磁パルスなんてどうでも良かった。
今、どこの上空にいるのかは知らないが、地上に及ぼした影響なんかにも興味は無かった。
シデンを仕留められたか否か? それだけが関心事だった。
『どうだ? 』
空気の希薄な成層圏では爆炎も直ぐに薄れてしまうが、
『いない! 』
シデンの姿は消えていた。
『犬っころめ! 蒸発しやがったか? 』
相良は自分の放った快心の一撃で、シデンが消し飛んでしまったと確信した。
そして、勝利の雄叫びをあげるべく口を半分開いた瞬間、
『うっしゃーっ! 』
耳を劈く気合。
続いて、凄まじい衝撃が襲ってきた。
バキッ! ベキッ! ブチッ!
相良が勝利を確信できたのは一瞬だけ。
その喜びは自らの右腕が肩口から切断され、千切れ飛ぶのを目撃したことで失われた。
『ウギャーーーッ! 』
雄叫びを上げるはずだった相良の口から飛び出したのは悲鳴。
『こんなトコで核爆発なんて、迷惑なことしてんじゃねーよ! 』
今、飄々とした物言いで、勝利を確信していたのは相良ではなくシデンだった。
相良の右腕を切断したのは、もちろんシデンの一撃!
その凄まじい突進力!
相良に目にはシデンの動きが全く見えなかった。
『グゥッ! 』
蒸発させたとばかり思っていたシデンの声が頭の中に響いてきて、相良は肩口を押さえながら、通り過ぎて行った敵の姿を求めて四方を目で追いかけた。
すると、数キロ離れた先から高速で相良目掛けて接近する黒い鏃のような塊が見えた。
それが見る見るうちに大きくなっていく。
『一発目は外したが、次は外さんぞ! 』
再びシデンの声が聴こえた。
黒い鏃のように姿を変え、殺気満々で突進してくる、シデンの声だった。
シデンの突進一発目で相良は右腕を失ってしまった。
さらに第二撃でとどめを刺すべく、シデンは行き過ぎた数十キロ先で制動を掛け、180度回頭すると再び相良に向かって超高速で迫っていた。
『嫌だ! 無理だ! 勝てない! 』
相良の全身を恐怖が襲った。
怖い! 怖い! 怖い!
死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!
これまで、ヤツを犬っころなどと馬鹿にした口を利いていたが、今まで何度戦ってもシデンには到底勝てる見込みなど見えなかった。
だが、魔力結石を取り込んだことで、今度こそは勝てるのではないかとの期待を持った
しかし、やっぱり敵わなかった。
実力差は歴然だった。
『オレ一人じゃ無理だ! 仲間だ! 仲間を呼んでヤツと戦わなければ! 』
戦略的撤退!
オレには野望がある!
皇帝を殺してオレが種族の頂点に立つ!
オレには、それだけの実力があったはず!
それなのに、オレは、なんでこんな破目に陥っているんだ!
こんなところで死ぬのか?
冗談ではない!
相良は、残された自身の力と、魔力結石から注がれるエネルギーの両方を最大限利用して推進力とし、この場からの逃亡を図った。
シデンを相手にするには、単独では無理。
シデンがある程度自由に動ける成層圏という場所で戦ったのも悪かった。
それならば、異世界の門を開いて同志を呼び込んで、シデンが全力を出し切れない人里の近くで再び挑むことにしよう!
『見ていろよ! 犬っころ! 』
相良が捨て台詞を残し、全速力で向かった目的地は、日本の東京都下、西多摩郡にあった。




