私、撃っちゃった?
(気付かれた? )
そりゃあ、気付くに決まってる。
私がいきなり喋らなくなって、動かなくなって、焦りが顔に出ちゃってるんだから、洲崎がどんなに馬鹿でも、これはチャンスかな? とか思うだろう。
なんで、私がこんなになってるのかは知らないだろうけど、洲崎には原因なんて知らなくっても良いこと。
この隙に、背後で待機中の巨大イカが触腕をひと振りすれば洲崎の逆転勝利、その一撃で私はお終いである。
(もう、ダメだ! 殺られる! )
戦いの真っ最中、敵を目前にして身体が動かないんじゃ、どうしようもない。
シデンは雲の上でパワーアップバージョンの相良と戦っているだろうし、こっちにまで手が回るはずがない。
あと一歩のところまで、洲崎を追い詰めていたというのに、
(口惜しい! )
こういうシチュって、マンガやドラマじゃ良くアリなんだけど、結末は大抵2種類。
主人公キャラなら、誰かが都合良く救けに来てくれたり、隠された凄いパワーが発動して再々逆転って感じ。
それ以外のキャラなら、無念の思いを抱いて殺されちゃうって結末。
残念ながら、救けに来る者のあては無いし、隠されたパワーは既に発動しちゃってる。
(やっぱ、無念の思いを抱いて死ぬ方? )
せっかく戦う心構えができたのに、抱えるのは無念どころの話じゃない。
今までのヘタレで過ごした無駄な日々、殺された人たちの仇も討てず、この先に洲崎が犯すであろう人殺しを止められないことなど、
(こりゃもう、化けて出てやるぞ! ってレベルでしょ! )
悪霊? いや怨霊かな? になって、絶対に洲崎を祟り殺してやる!
(って、アレ? )
巨大イカも洲崎も、どちらも全然攻撃してこない?
(何? なんなの? )
現状、意識を失う直前で、なんとか持ちこたえている私だったが、ギリギリ目も見えるし耳も聴こえている。
だから、唐突に訪れた静けさに、もの凄く違和感を感じていた。
パラパラと埃が舞い落ちる音が聴こえる以外、まるで時間が停まったようである。
(もしかして、馬鹿が何か考えてる? )
洲崎の行動はイマイチ読み切れないが、自分が勝てそうになったら調子に乗って偉そうなセリフをぶつのが、これまでのパターンだったような気がする。
今回もそれか? と思ったら、やっぱりそうだった。
「ククッ! ファーハッハーッ! 」
洲崎が笑っていた。
おそらく、それは私に聞かせるための笑いである。
(こいつ、マンガやアニメの観過ぎなんじゃない? )
芝居がかった、胸糞の悪くなるような嫌な笑いだった。
今、私が動けたなら速やかに洲崎の口を引き裂いていただろう。
「まあ、キミの実力じゃ僕には勝てなかったってことさ。」
私の現状は、洲崎の実力には何の関係も無いのだが、ヤツは自分が私に有効打を放ったように勘違いしているらしい。
テーザーガンを命中させた以外には何もしていないのに、この男は、どんな都合の良い思考回路を備えているのだろう?
「さぁて、本来ならキミは僕のモノになるはずだったんだけど、残念ながら生かしておく気にはなれなくなっちゃったんだよね。だって、僕にこんな酷いことをしてくれたんだから、これは許せないよ。」
洲崎は、そこで言葉を切り、一つ深呼吸した。
そして少し溜めた後、
「ン、フォゥ! ・・・ンッ! ンギャーーーーーーーーーーッ! 」
凄まじい悲鳴が上がった!
それを発したのは洲崎の口。
(え、はあ? )
呆気に取られた私の目の前で、洲崎は左大腿部に深々と突き刺さっていた杭を抜き取ったのだ。
今まで、情けない姿ばかり見せていた洲崎にしては、思わず目を瞠ってしまうほどに気合と凄味の効いた行為だったが、そんなことは絶対に無茶であり、戦っている最中にすべきことではない。
別に、洲崎を心配する気はサラサラ無いが呆れはする。
杭を抜いたら即出血が始まるだろうし、下手すれば引っこ抜く痛みで気絶するかもしれない。
そういうのは、戦いがひと段落したり、間が空いたりした時にするもんだって戦争映画やアクション映画を観たら分かるもんなのにねぇ。
でも、残念ながら洲崎は気絶してくれなかった。
「ぼっぼぼぼっ、ぼ、僕の強化された、に、肉体をもってすれっ、ばっ、こっ、こんな傷なんて、んてことない、ないさ、うっくぅ。」
目に涙、顔中に脂汗、呼吸も荒く、肩を上下させ、杭を握る手はブルブルと震えていたけど、そんなことを口にするだけの気力も残ってるらしい。
「こいつも、やっぱバケモノってことだ。」
良く見ると、杭を抜いた穴から、吹き出すはずの出血が無い。
筋力なのか、超能力や魔法の類いでも使ったのか、洲崎は自力で傷を閉じたようだった。
何度も息を吸ったり吐いたりを繰り返しながら、痛みも制御しようとしている。
そして、それらがある程度落ち着いたらしい。
「ヒッヒッヒィ~ この杭、キミにも刺してあげるからねっ! さぁて、何処に刺そうか? 手? 足? それともぉ・・・グフフッ! 」
これまでに何度も見せつけられた厭らしい笑みを湛え、洲崎が左足を引き摺りながら近付いてきた。
ちょっとでも身体が動けば最後の抵抗ができるのに、今の私には憎しみを込めて睨みつけるぐらいしかできそうにない。
でも、そんなのは頭のおかしな洲崎には却ってご褒美になってしまいそう。
「それじゃあ、リクエストが無いみたいだから、最初は僕と同じく脚からいこうかなぁ! 」
遂に洲崎が目の前までやってきた。
私は、もう一歩も動けないから退くこともできない。
洲崎は左足を引き摺っているが、ノロくても動けているので、すっかり勝ち誇った顔をしている。
(この顔、荒川河川敷の時にも見たっけ。)
ナツキを人質に取って、それまでの劣勢を引っ繰り返して優位に立った時にも同じ顔をしていた。
こんな顔を見ながら殺されるなんて最悪!
最後に残った力を振り絞って洲崎を睨みつけた。
視線で敵が殺せたら良いのに・・・
『サヤチっ! 』
まただ!
ナツキの声が聴こえた!
洲崎には反応が無いので、聴こえているのは私だけ。
私の頭の中で、親友が呼び掛けている。
『大丈夫、勝てるよ! 』
こんな絶体絶命のピンチに、いきなり話し掛けてきて何を言い出すのか?
(何言ってんの? 大丈夫って? 勝てるって? どう考えたって無理じゃん! )
私の親友は、そんな根拠の無い無責任なことは言わないと思う。
これは本当に、ホンモノのナツキの声なのか?
ナツキの声色を借りた私の心の声なんじゃないだろうか?
もしくは、私を惑わす敵の魔法か何かなんじゃないのだろうか?
それとも、私の頭が変になっちゃって幻聴を聞いているのだろうか?
『そんなんじゃないって! 大丈夫なんだから! 信じて! 』
いったい、何を信じれば勝てると言うのか?
『もーっ! サヤチのバカっ! 黙って言うこと聞けーっ!』
ナツキに怒鳴られた。
頭の中でだが、思わず顔を顰めたくなるぐらいの甲高い声で怒鳴られてしまった。
そういえば、知り合って以降、ナツキには何度も怒鳴られた。
気が短い彼女は、私が優柔不断な態度を取った時とか、同じことを何度も繰り返し失敗した時なんかは、
(そうなのよ! こんな感じで耳がキーンってするくらいの甲高い声で怒鳴るんだわ~ )
今は耳がキーンとはしていないが、頭の芯がビリビリして、ついでにお腹の辺りにも響く感じ的なぁ・・・あっ!?
「神月さーん、ウヒヒヒッ! 良い顔見せてね! 良い声も聞かせてね! そんじゃあ、いっくよーっ! 」
洲崎が若干腰を落とし気味にして、私のキュロットを捲り上げ、剥き出しになった左脚の太腿に杭の先を当てた。
そして、ニヤニヤと厭らしく笑いながら杭を突き刺そうと腕に力を・・・!
ダッダーーーンンンンンンンンン~~~~~~ン!
凄まじい音。
そして衝撃。
「あれ? 」
と、これは洲崎の声。
今まで私の真ん前に立っていたはずなのに、一瞬で2、3歩離れた地べたに尻餅を突いている自分に気付いて呆然としていた。
手にしていた杭は私の足元に転がっていて、残念ながら脚には刺さっていない。
「え? え? え? えーっ?! 」
洲崎は何が起きたのか直ぐに理解できないようで、首を傾げながらモソモソと手を動かし、自分の鳩尾の辺りを探っている。
そして、遂に気がついた。
「ギャーッ! 」
先ほど足に杭が刺さった時と同じく、悲鳴を上げながら地面に転がり、丸くなって悶えている。
但し、今度のは痛さ苦しさが段違いだろうけどね。
「ふぅーっ! 」
これは私の溜息。
これにて大逆転! 危機は見事に回避なんだけど、もう気絶するギリギリ手前なんで、なんの感慨も湧いてこない。
何となく洲崎の無様な姿を冷静な目で見下ろしながら、
(この拳銃、引き金グッと引いたら直ぐに弾出るんだ~ 怖いわ~ )
なんてことを、ボンヤリ考えていた。
そうなのである。
私の手には汐見さんから預かって、懐に隠し持っていた自動拳銃グロック19が握られていたのである。
それでもって、洲崎の腹のド真ん中に穴を空けてやったのだ。
いやはや、辛うじて手や指を動かすことができたのは、とっても幸いだった。
そして、私がすっかり忘れてたコレの存在を思い出させてくれたのはナツキの声なんで、もちろん感謝、感謝、大感謝である。
こういうのも隠されたパワーが爆発したってことになるんなら、なんか、今回の私って主人公っぽい大逆転ができちゃったみたい。




