第18話 生身の妖精
カードと鉛筆を御所望の妖精女王のために、今度は踏み切りを渡ってカバンを拾いに行った。服が乾くのを待ちながら、何枚も、何枚も、やりとりを重ねた。
→いつ、僕だときづいたの?
←最初から。すぐわかった。
→どうして言ってくれなかったの?
←きづいてくれないのが悔しかった。それに、思い出を壊したくなかった。
←なまの自分をみせたくなかった。
→あの夏、なにがあったの?
←いろいろ。姉のこととか彼氏のこととか、いろいろ。親父とケンカした。
←なぐりやがった。
→あれから会えなかったのはなぜ?
←家出したから。
→いまは?
←知ってるくせに。もうすぐりこんする。
→どうするの?
←実家へ帰る。
→ユナちゃんとマキちゃんは?
←いっしょ。
→親父さんとは仲直りした?
←した。結婚式で。よろこんでたのに。
→また会える?
そのカードを見て、みどりさんの手が止まった。濡れた緑色の髪をいじりながら、その毛先をじっと眺めていた。
ほんの数分が、長く長く感じられた。
白い手がのろのろと動いて、新しいカードを持ちあげ、何事か書きつける。
←これはあたしじゃない。まぼろし。
←ざんこくだよ、シュウちゃん。
←さよなら。
立ち上がったみどりさんがのろのろと斜面をあがっていく。酔っているような足取りで。ふわふわとしたような、その後ろ姿に僕は、
「……絵を描きます。みどりさんと、ユナちゃんとマキちゃんの絵を」
と声をかけた。一瞬、立ち止まったみどりさんは、しかし、振り返ることなく行ってしまった。ただ、その前に、ほんの少しうなずいたように思えた。
草いきれに、石鹸とアルコールの匂いが混じっていた。新しい夏の匂いだ。




