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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
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優しい魔物 3


 何気なく、祭星が自室に備え付けられていたテレビをつけると、丁度ヴァチカンの会見が行われているようだった。 大勢の記者に囲まれているのはリオンだ。 本来ならば広告塔としても動いているクラウンが有事の際の会見を行うのだが、今回は彼がいないのだから、リオンが出席せざるを得ないのだろう。

王は結界を維持している。 こういう場にはあまり顔を出さない。

 適当に聞き流しつつ、祭星は自分の手を見つめる。 メフィストを使い魔として使役したのはいいものの、それで何が変わったのかまだ感じ取れない。

『次は天界かい? どうするんだい』

「えっと、ペルセポネさんがアクセスをとってくれるそうなの。 だから連絡が来るまで待つしかない感じかな」

『ふーん、ペルセポネか。 まあ、彼女は正常な考えしてるし大丈夫だろ』

「……ペルセポネさんも言ってたけれど、天界の人たちってそんなに野蛮な考えの人が多いの?」

 メフィストはソファの感触を確かめて、ゆっくりとそこに座る。 いつのまにか廊下に出ていた蓮が帰ってきて、缶コーヒーを持っている。 買ってきたのだろう、やはり気が利く。 祭星の分はココアを買ってきているところも気が利いている。 メフィストはコーヒーを受け取り、フタを開けた。

『アイツらは天使だからね、自分を神の忠実なしもべと思ってるからさ。 デカいんだよ、態度が。 自分達の考えは間違ってないと思ってるし、自分勝手な奴が多い』

「イメージだと、魔物の方がそんな感じなんですが……」

『ははっ! そりゃそうだろうね、でもボクらは元々同じなんだよ。 魔物も天使も、本質は同じだった。 神の忠実なしもべ、神を讃えし者。 遥か昔の話さ。 祭星、キミはボク達魔物がどうして人間界に侵攻をするかわかるかい?』

「わかりません……」

 そういえば考えたこともない話だ。 人間界に侵攻し、人間を襲うのは決まって魔物だけだ。 天使という存在はなかなかお目にかかれない。 それこそ幽郭の庭にいるペルセポネが、祭星にとっての初めて見る天使だ。 魔法使いが討伐するのは決まって魔物ばかり。

メフィストは『まあそんな反応だとは思ったよ』と鼻で笑う。

『魔物と天使、それはもともと聖なる神を讃えていた。 だがある日、神が消えてしまった。 殺されたんだ。 全ての始まりはそこからだ。 神に仕えていた者達は二つに分かたれた。 ルシファー率いる闇の眷属と、ミカエル率いる光の眷属。 二つの眷属はお互いを疑い、殺したがっているワケだ。 神が何者かに殺されたのは、光の眷属が護衛を怠ったからだと、闇の眷属が討伐し損ねたからだと』

 それを聞いていた蓮が、缶コーヒーをテーブルに置いて、本棚から地図を取り出した。 その地図は一般的に使われているものではなく、魔法地図と言われているものだ。 世界中の魔力脈や龍脈、魔鉱石がどこにあるのかが書かれており、魔界と天界がどこに位置するかも書かれている。

蓮はそれをテーブルに広げて、なるほど、と唸った。

「魔界は地下にあって、天界は空の上。 魔物が天界に攻め入るのならば、人間界を通るしかない」

『そういうこと。 で、魔界から人間界までの距離も結構あるんだよ。 その間、魔力が尽きかける下級魔物が殆どだ。 だから魔物は人間を襲うんだよ、人間の血肉を喰ってしまえばそれも魔力に変換できるからさ』

「……それだけのために、人間は襲われている」

 祭星がそういうと、メフィストは静かにコーヒーを飲んだ。

『キミにとっては、魔物が天界へ攻め入るのはそれだけのこと、そう考えられるだろうけど。 魔物にとってはそうじゃない。 逆に魔物にとっては、人間を殺すことなんて、そっちの方がそれだけの事。 立場が違えば意見も変わる、考えるだけ無駄さ』

「メフィストくんも人間を?」

『まさか。 ボク達ネフィリムは元人間だったり親が人間だ。 人間に手をあげるわけないだろ』

 メフィストはそういうと、祭星の目をまっすぐ見つめる。 大きなツリ目に吸い込まれそうだった。

『祭星、キミはちゃんと理解をした方がいい。 人間、魔物、天使。 三種族は考え方がまるで違っているんだよ、キミらにとっての常識は魔物にとっての非常識だ。 人間には他人を思いやり慈しむ心があるけど、魔物には無いに等しい。 だから争いが起こるんだろう?』

「わかってる……わかってるつもりだけど、すぐ理解をするのは難しいよ」

『ま、すぐにとは言わないさ。 それにこういうことに関しては、そっちのキミの方がきちんと理解してるだろ?』

 メフィストは携帯端末を観ていた蓮に話題を振る。 蓮は上の空で「あぁ」と呟いた。

祭星とメフィストが顔を見合わせた。 普段の彼は人が話している最中に携帯端末を触るような人ではないので、祭星が首をかしげる。

「どうしたの?」

「ん、ああ……。 レイから連絡があってな、どうしても話したいことがあるから今から会えないかって」

「レイ? そういえば別の任務があるって聞いたけど……」

 時計を見ればいい時間だ。 思えば今日は散々な一日だった。 氷雪化の謎を探るべく京都に行き、ハデスのことを知り、そして魔界にまで赴いた。 一気に事が進みすぎだと、祭星がため息をついた。

するとドアをノックする音が聞こえる。 ドアを開ければ、レイが立っていた。

「ごめんなさいねこんな時間に。 ねぇ、二人とも食事は済ませたかしら」

「まだだよ、さっき帰ってきたばっかりで」

「そう、ちょうどよかった。 話が長くなりそうだから、夕食も兼ねてどうかしら?」

 レイはそういって、黒いカードを取り出した。 流石は貴族の令嬢だ。 その後ろからジョシュアもひょっこりと顔を出してくる。

「ジョシュア、おかえりなさい」

「おう、ほらさっさと着替えて行くぞ。 あんま悠長にしてる時間はねェんだろ? 予約、夜の八時からなんだと」

「え?! じゃあ早く着替えないと!」

 クローゼットを開く祭星。 蓮も着替えるために部屋を後にする。 自室に戻る最中、廊下に出ていたレイとジョシュアに静かに声をかける。

「薄々勘付いてはいたが、やっと話す気になったんだな、レイ」

「……ほんと、貴方には敵いませんわ。 祭星がどんな反応を示すかはわかりません、貴方も、わたくしにどういった感情を持つのかもわかりませんけれど……。 でも、きちんと包み隠さず全てをお話し致します」

「そうか、もっと早くに教えてもらっても良かったんだがな」

「というと?」

 蓮は自室の鍵を開けて、レイに向かって少し笑みを作る。

「仲間だろ、もう少し頼れ」

「……!」

「じゃ、すぐ着替える」

 部屋に入っていった蓮。 ジョシュアはそんな彼を見送って苦笑する。

「ほんと最初と比べて変わったなぁアイツ」

 ぶっきらぼうだった彼を思い出す。 本当に性格が丸くなったものだ。 

レイは、真実を話せば直ぐにでも叩き切られてしまうのではないかと、少し緊張をしていたので、ほっと胸をなで下ろすのであった。

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