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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
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終末の合図 1

 イタリア、路地裏に位置するその場所の地下に広がっていたのは、巨大な施設だった。 この場所こそ、アンチュリエの本部。 さまざまな実験や儀式を行う、神聖な場所だと彼らは言う。

 だが、その実験室も今は瓦礫に埋もれている。 赤いランプが点滅し、耳を劈くようなサイレンが鳴り響く。 その中で、男性が小さな少女を蹴り飛ばそうとしていた。

怯えた様子の少女を、エルフの男性が咄嗟にかばう。 エルフは眼前にいる男性をギロリと睨みつける。

「オレはあいつらをここに呼び出せと言ったはずだが、何をベラベラと余計なことまで。 殺されたいようだな……」

「ふん」

 エルフの男性、ファルシュは自分の妻であるリイナを退がらせ、男を鼻で笑った。

「メイビスと言ったか。 お前こそ、何もわかっていないようだな。 たしかに、今のままでは撤退も不可能だ。 だが、クレアシオンやアークナイトが駆けつけるより以前に……、あの魔力に気づけてないのか?」

 ファルシュがそう言った瞬間、メイビスの後ろに突如として黒い球が出現した。 辺りの空気が一瞬で変わり、魔力がピリピリと張り詰める。 耳鳴りのような音が響いて、不気味なほどの黒い球から一人の男がずるりと現れた。

 赤い長髪、格式高い聖歌隊の隊服に、鈍い光を反射する黒色のリボルバーが二つ。 紫色の蠱惑的な瞳は、メイビスを見据え、形の良い唇がキュッとつり上がる。 銀の靴を響かせて、彼はその場に降り立った。 彼がサッと髪を払えば、黒い球体は液状化し、ドロリと形を崩して床を侵食してゆく。

「ご機嫌麗しゅう、アンチュリエのメイビス」

「ヴァチカンの聖騎士……!」

「メイビス、君はどうやら……、私の娘に手を出そうとしているんだとか?」

 ヴァチカンの聖騎士、クラウンはタンッと一歩足を踏み出すと、メイビスの前から姿を消した。 それを見て、メイビスが臨戦態勢に変わる。 だが、メイビスは目を見開いた。 瞬間的に距離を詰めるのであれば、魔力を探知すれば良い。 どこに姿をあらわすかなど、それで簡単にわかる。 だが、どれだけ魔力を探知しようとしても、クラウンの魔力がどこにも無いのだ。 あるのはあのファルシュと、少女の魔力のみ。 本当にいなくなってしまったのだろうか、神経を張り巡らせてうかがうメイビスの後ろ、クラウンが回り込み、姿を現して彼の背中をリボルバーで撃ち抜いた。

「ぐっ……! 貴様ァ……!! 完全に魔力を消しているのではないな、魔力の生産を止めている……!」

「なんだ、頭は良いんだな」

 クラウンは道化師のようにケタケタと笑う。 薬莢が二人の間に転がり、銃口からは煙が細く立ち昇った。 

 魔力の気配を消す。 それ自体は難しいことではない。 訓練を受ければ習得できるものだ。 近年では、訓練を受ける必要もなく、魔法具で気配を一時的に消すことができたりもする。 だが、クラウンが行ったのはそのような簡単なことではない。 彼は魔力の気配を消した上で、体内の魔力生産を止めたのだ。

魔法使いの力の源である魔力。 それは体内から生み出され、血をめぐり、体全体を支配している。 魔法使いが日常的に生活をし、魔法を行使するのも魔力があってこそ。 その魔力の生産は絶えず行われているが、それを一時的と言えども止めてしまえば。

 中途半端な魔法使いでは、一瞬で死ぬだろう。 魔力の生産、非魔力保持者でいう心臓を止めているのだから。 魔法使い達の間でも、魔力の生産を止めるのは愚か者のすること、馬鹿げたことだと言われている。

 そんな馬鹿げたことを、この聖騎士の男はやってみせる。 息を荒げる事もなく、まるで呼吸と同じように容易いと言わんばかりに。

 メイビスはうんざりした顔で息を吐く。 魔力の気配を消された上で、魔力の生産まで止められたら、それはもう居場所のつき止めようもない。 気配を消されても、それを感知する方法はある。 だが源を絶たれれば、感知の使用もない。

そして続けざまに、彼はクラウンの漆黒のブーツを見て、恨めしく舌打ちをした。

「貴様、ソレは」

「知ってるだろう? ダンテの怒り。 この世に四つしかない、魔法具」

 クラウンは踵の銀を踏みならした。 蒼い雷が辺りを奔り、クラウンがニヤリと笑う。

「お前は私の娘を利用しようとしたんだ。 手を出そうとしたんだ。 私の、可愛い可愛い娘に……。 だから丁重にもてなしてやる」

 クラウンは気配を消さず、メイビスの懐へ。 腹に銃口を突きつけた。 メイビスは咄嗟に飛び退き、剣を取りだす。 流れるような動きでクラウンの喉元へ剣を振りかざせば、赤毛の彼はリボルバーでそれを弾き返した。 もう片方のリボルバーのトリガーを引く。 鈍い発砲音、メイビスは即座に手を振り払って宙に魔法陣を展開させた。 重力と速度を操る魔法だ。 小さな魔法陣が銃弾の射線上に展開され、銃弾がその陣を通る度に速度が落とされ、次第に地面へ落ちて行く。

 メイビスはその合間に、自分の胸ポケットに入っていた羊皮紙を取りだす。 そこに描かれている魔法陣に血を二、三滴垂らすと、中型魔物が這い出てくる。 魔物はメイビスの命令も聞いていないのに、目標違わずクラウンに牙をむいた。

 馬のような姿をした雄々しい魔物に、クラウンは銃弾を浴びせた。 銀色の弾は魔物の脚に命中したが、魔物は勢いを落とさない。 彼はすかさず地面を蹴り、身体を回転させながら後ろへ飛び退いて、壁を蹴って魔物に自ら突っ込んだ。 彼が踵をつけた壁からは蒼い稲光が奔り、辺りを粉々に砕く。

「その程度で楯突こうというのか」

 クラウンはそう吐き捨てて、リボルバーの弾を込める。 先程とは違う、金色で赤の刻印が入った弾。 たった一発を込め直し、魔物の眉間目掛けて引き金に力を込めた。

空を引き裂くような音。 その弾丸は寸分違わず魔物の眉間を貫き、魔物は醜い咆哮をあげながら崩れ落ちた。 だがこれで終わりではなかった。 魔物の崩れたその背後から間髪入れず、メイビスが剣をクラウンへ突き立てる。

「クラウンさん!!」

 リイナの金切り声が響く。 ポタリと血の落ちる音が遅れて聞こえ、続けて。

「……きさ、ま……! 貴様も、大概バケモノだぞ……!!」

 メイビスの狼狽する声が聞こえた。 彼の放った一撃は、クラウンを貫いてはいた。 だが彼はそこに立っているのだ。

クラウンは血を吐き出すと、メイビスの腕を力ずくで掴む。

「死んで、たまるか……。 私を殺すのは、あのお方だと決まっている、だから、お前に殺される予定ではないッ!」

  クラウンはそう声を荒げると、ある魔法を発動させた。 その気配を察知したメイビスが、思わず目を見開く。

「クラウン、貴様……!!」

「《終末を告げる獅子 千年を喰らう兎 全ての因果は巡り 終の蛇は尾を放す》」

 カタカタと彼の周りに黒い球体が浮かび上がる。 異常なまでに魔力濃度が上がり、メイビスは顔色を変えた。

「ファルシュ! リイナを連れて逃げろ!」

 クラウンがそう言うと、ファルシュはリイナを抱えて地上への出口へ。 彼に抱えられたリイナは、必死で叫ぶ。

「待って! それを発動させて、祭星さんになんて説明を、誤魔化せたりしませんッ!!」

「いいや、あの子ならきっとどうにかするさ! だから私は心置きなくコレを発動できる! いいかリイナ、必ず伝えてくれ! 絶対に、祭星が来るまで封じ込めておくと。 急がなくていいから万全の状態で──」

 クラウンが悲しそうに微笑む。


「祭星が万全の状態で、アルトストーリアを扱えるようになって、助けに来いと……!」


 刹那、世界から音という音が消え去った。 地球全体を覆うような、無音の振動が起きたと思えば。

氷に覆われていたはずの世界が、いつもの風景に戻っていた。

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