双星の灯火 2
「……じゃあ、応接室へ行くといいさ。 僕はまた暫くここで……ん?」
再び窓際へ向かおうとしていた星夜の服を祭星が引っ張る。
「い、行かないの? その、もっとお話しできるのかなって、楽しみにしてる、から……」
星夜は祭星を見てぽかんと口を開けていた。 驚いているようだ。
「僕のことが嫌いじゃないのかい?」
「えっ? どうして? 私の考えが分かるんだったら、私があなたのことを嫌いだと思ってないことくらい、すぐ分かると思うけれど……」
祭星の言葉に、星夜はクスクスと笑った。 その笑った顔は、祭星に少し面影が似ていた。
「ほな、応接室に行こか。 お茶も用意するわ」
そう詠斬から言われ、一同はとりあえず今の部屋から出ることにした。 蓮が廊下に出た瞬間、窓の向こうから一際大きな轟音が響いてきた。 外は荒れ狂う吹雪でよく見えない。
「悪化しているみたいだな」
「これもハデスが?」
「せや」
詠斬は窓の向こうを見つめた。 真っ白で、一メートル先も見えやしない窓の向こうを。 すると、リオンの魔力の中に隠れていたペルセポネがスゥと姿を現した。 そして窓のすぐ近くまで行くと、聞き慣れない言葉を発した。
蓮にもリオンにも、それが一体どこの言語なのかわからないだろう。 しかし祭星には、たしかに聞き取れた。
【ハデス、すぐに楽にさせてあげますからね】
舌を巻くような発音。 この世の言語ではないとわかっているのに、その内容が理解できるのは一体何故だろうか。 不思議に思っていると、星夜が小さく囁いた。
「アレはおおよそ人間には理解できない言語だ」
「理解、できない……」
「うん。 なぜ君や僕があの言葉を理解できるのかは……、わかるだろう?」
それはこの二人は人間ではないから。 二人に流れる魔物と天使の血が本能的にあの言葉の意味を教えてくれるのだろう。
それを考えると、いよいよ化け物じみてきたなと祭星は思うと同時に、それでも自分を好いてくれる仲間がいることに改めて感謝する。 それに、これからは一人じゃない。
星夜を見上げて、祭星はにこりと微笑む。 白い雛菊のように優しく可愛らしい笑顔を見て、星夜はつられて笑った。
「おいそこ〜。 二人だけの世界に入るのは誰もおらんにしとき。 蓮が妬くで?」
「妬いてない。 寧ろ嬉しいさ」
茶化す詠斬を追い越して、蓮が先へ進みながら祭星と星夜を振り返ることもなく続ける。
「俺は祭星のそばにいる事はできるが、気持ちまで共有はできない。 同じ存在にはなれない。 祭星は自分の生まれに疑問を常に持っていた。 ……俺は、そこまで踏み入れれるような度胸なんて、まだ持ってない。
それと……祭星はよく隠し事をするからな。 星夜がいれば隠し事も早々出来なくなるだろう」
素直じゃないなあ。 と詠斬が蓮の頰に指をさせば、蓮は彼の手をすぐに振り払った。
外は荒れ狂う吹雪だとしても、世界が凍りつく手前だとしても、ここにいる誰一人として決して焦る事はしなかった。 焦っても仕方がないことと、このメンバーならば、氷雪化の原因を止めれると、皆が分かっていたからだろう。
やがて、詠斬が廊下の先にある扉を開くと、香ばしいにおいが蓮の鼻腔をくすぐった。 この香りは焙じ茶だろうか? 部屋は随分と広く、東洋風の調度品が置かれ、話し合うのにぴったりな大きさの円卓がある。 その円卓の上には温かそうな湯気を立てる茶器が。
「遅かったな、ヴァチカンの者たちよ」
「キングさん!」
すでに椅子に座っていたのは強靭な身体をしたくすんだ赤い髪の男性。 キングだ。
「キング、ありがとなお茶まで入れてもろうて」
「お前が遅いからだ」
あの強靭な身体でお茶を淹れたと思うと、そのギャップに驚いてしまう。 祭星はそう考えながら誘導されるがままに椅子に座る。 その横で星夜が彼女の思考を読み取って笑いをこらえていたのは内緒だ。
円卓の椅子は全部で八つだった。
キング、詠斬、リオン、ペルセポネ、蓮、祭星、星夜の順で座る。 ゼクトは蓮の真後ろに立ったままだ。
最後の一つの席は一体。 と思っている時に、見慣れぬ少女が姿を現した。
紫色の髪の毛、髪の内側は蒼く光り、結晶のようなツノが全部で六本生えている。
背中には蝶の翅が煌めくように存在していて、その翅に不釣り合いなほどの龍の尾がスカートの下から覗く。
ふわりふわりと宙を飛び、少女は最後の椅子に座って辺りを見渡した。 身長は140cmほどだろうか?
「おかし、たべないの……?」
「アメリヤ、お茶会ではないよ」
「むぅ……。 かえって、いい?」
「だめや。 アメリヤも大事な仲間やさかい、ちゃんと聞いとくんやで」
「むぅ」
ぷくーと頰を膨らませる少女。 眠たげな瞳をした少女は、仕方がなさそうに焙じ茶を飲んでいた。
「えーっと、先に自己紹介からやな。 オレは詠斬、っちゅーか、遠凱王一彦や。 今はここ黒闇宗の総帥をさせてもろうとる。 よろしゅうな」
詠斬は礼儀正しく立ち上がって面々に頭を下げた。 続いて、詠斬はそのまま隣にいるキングを紹介する。
「こいつはキング・フォン・ルーガニア。 図体はデカイけど趣味は押し花作りや」
「キングだ。 先日は手荒な真似をしてしまってすまなかった」
「んで、祭星の横におる白いのが星夜。 顔に似合わず毒舌なのがたまにキズや。 特技は口喧嘩」
それを聞いた星夜が納得いかなそうに腕を組む。
「詠斬、君はそんなに僕を怒らせたいと見た」
「おーこわこわ。 こんなんじゃどっちが上司かわからへん」
あしらうように咳払いをし、先ほど来たばかりの蒼い少女を見る詠斬。
「こん子はアメリヤ・ファラーシャ。 あとで詳しい事は話すけど、アンチュリエの実験で生まれた子や。 龍と蝶を掛け合わせてできたキメラのような存在の生き物。 あんま言葉が理解できへんけど、めちゃくちゃ強いで。 今は黒闇宗で保護してるんや。 ほらアメリヤ、みんなに挨拶や」
「アメリヤ、です……。 わたし、すごい力持ち、だからがん、ばる」
むん!とガッツポーズを決める少女。 詠斬はうんうんと頷いて、満足したようだった。
「以上がこっちのメンバー。 じゃあ次はそっちやけど、データは全部知ってるから飛ばしてええか?」
「ああ、問題はない」
リオンがそういうと、詠斬はじゃあ次やな。 と話を進める。
「何から話せばええか。 まずは黒闇宗とは一体なんなのかを知るべきやろうか? ちょっと長い話になるが、ええか?」
皆が頷くと、詠斬は焙じ茶を一口飲んだ。 そしてヴァチカン、黒闇宗、アンチュリエのことについて話し始めるのだった。




