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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
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白き古都 6


 ロビーの騒ぎが収まったのを見計らい、レイは一人でその場から抜け出した。 ジョシュアにはお手洗いに行くと伝えておいたのでついて来たりはしないだろう。

人気のない廊下に出て、アンチュリエへ連絡を取る。

だが、誰も応答しない。 幹部はおろかカリオストロまで。

「認めざるを得ませんわ」

 この異常現象。 そして先ほど聞いたクラウンの話。

日本が以前、魔法使いを実験に使っていた。

恐らく日本を裏で操っているのはアンチュリエなのだ。 「魔法の情報を日本に極力与えなかったのは、魔法使いに不信感を与えるため……。 少ない情報で、魔法使いを信じようなんてまず思いませんもの」

 自分の手帳にメモを書き込んでゆく。 頭の中を整理させるためだ。

「アンチュリエの人間が通信に応答しないのも、この氷雪化のせいですわね……。 アジトが大きな魔力貯まりになっているのがここからでもわかる。 この氷雪化は……」

 その時だった。

真後ろから人の気配がした。 全く気づくことなく、背後まで接近を許していたのだ。

レイは咄嗟に振り返り、その人物の喉元へ小さなナイフを突き刺す。

「っ、あ……」

 愕然とした。 だがそれより先に思ったことが一つある。 背後にいたのはどうしても知られたくない人間だったのだ。


「お前が最近コソコソしてンのはよーくわかってた」


 癖っ毛の髪。 小さい頃からずっと一緒だった想い人。

「敵だったのかよ、お前」

 ジョシュアだ。 彼は握りこぶしを作り、レイを真っ直ぐに睨みつける。

「答えろ!」

「……あなたには関係のない話ですわ」

「しらばっくれんなよ!」

 ガン! と壁を殴る音。 強く拳を突きつけたせいで、ジョシュアの指から血が滴り落ちる。 レイはそれを見て、少し怯んだ。

「どっからだ、どこから間違えた? アンチュリエがやべぇ組織だってことくらい、馬鹿なオレでもわかってンだよ!」

「最初からですわ。 私はアンチュリエのスパイとしてヴァチカンへ所属した。 でも気が変わったの。 今はヴァチカンに所属する、アンチュリエへのスパイとして……。 二重スパイとして動いているの」

「なんでそんなことオレになにも言わねぇんだよ!」

 ジョシュアはレイに詰め寄る。

「言ってどうなりますの? 何もできないでしょうあなたは!」

「ちげーよ! たしかに、確かにオレはなんもできねぇかもしんねぇ! でも、でもよぉ……!

 もしお前に、レイに何かあったらどうするんだよ! お前が怪我でもしたら、オレは兄貴にどんな顔して会えばいいんだ! オレがヴァチカンに来たのは確かに、魔法使いとして腕を磨くことだ、世界を救うためだ! でも! 同時にお前を守るためにオレはここにいるんだよ! わかるか!?」

 今にも泣きそうな顔で、そう言われたレイはハッとした。 そして思う。

『馬鹿みたい。 どうしてここまで他人のために』

 フィアンセでもない自分のために、どうしてここまで。

だから思うのだ。


──ああ、いっそフィアンセがジョシュアだったらよかったんだ!!


「ほんとに、昔からそうでしたわね……」

「は?」

「変えることはできないとわかっていても、でも……そうであってほしいと願ってしまうのは、わたくしのダメなところかしら」

「何言ってんだお前」

「アンチュリエは祭星を狙っていますわ。 彼女のクレアシオンとしての力を。 その力さえあれば、カリオストロをより強大な力にすることができる。 だからこうやってヴァチカンに混乱を招くような真似をした。 黒闇宗をも巻き込む真似を!」

 レイはそう言って、手帳をパラパラとめくる。

「わたくしは今からアンチュリエに乗り込みますわ。 もう、もう我慢なりません。 カリオストロのことを、あの子のことを隠し通してきたアンチュリエを許せない……! 確かにわたくしは最初はヴァチカンの敵でした。 でも祭星と共に過ごすにつれて、本当に正しいものがどちらなのかわかりました」

 そう早口でまくし立てて、レイはジョシュアとしっかりと向き合う。 彼女の意思の強い瞳が、ジョシュアを射抜くようだった。

ジョシュアは吸い込まれるような瞳を見つめ返した。

「ジョシュア、ついてきてくださいますか?」

「当たり前だ」

 彼女達が決意を固めたのを確認したかのように、クラウンとエルドリッジが後ろから姿を現した。

「話は聞かせてもらったよ。 今すぐ部隊を編成して任務実行に移そう。 内部を詳しく知っているのはレイだけだ。 先頭を頼めるか?」

 クラウンの言葉にレイは力強く頷いた。 エルドリッジに連れられて二人は作戦会議室へと向かっていった。 クラウンはその姿を見送って、指をパチンと鳴らす。

すると足元に魔法陣が刻まれて、白い獣が姿を現した。 フェンリルだ。

「フェンリル、屋敷の魔物達はどうだ?」

『異常はない……。 皆安全な場所へ避難している』

 他人には唸るような鳴き声にしか聞こえないであろう彼の声は、クラウンにだけ通じる言葉だ。 クラウンがフェンリルを使い魔として使役しているからだ。

クラウンは少し考えた後、腰の革鞄から古い羊皮紙を取り出すと、そこに書かれている複雑な魔法陣に羽ペンで何かを書き足してゆく。

フェンリルはただそれをみて、全てを理解したように一度尻尾を振った。 一度かと思えば二度、そして三度。

「そんなに嬉しいか?」

『そのつもりはない』

「尻尾に出ている。 お前自身が嬉しがっているのであれば、私も安心してお前を送り出せる」

 羊皮紙をフェンリルの首輪に括り付けたクラウン。 彼の頭を撫でてやり、胸の体毛に顔を埋める。

「百年だろうか……? 長い間、一緒にいてくれてありがとうな。 次からは私の可愛い白娘を守ってあげてくれ」

『言われなくとも、お前からの願いであれば喜んで彼女を守ろう。 そしてお前も。 我の守る主人に変わりはない』

 フェンリルはぐりぐりと顔をクラウンへ擦り付けて、遠吠えをするとスゥと姿を消した。

先ほどクラウンが書き足したのは使い魔継承の魔法だったのだ。 これであのフェンリルは祭星の使い魔へ継承される。

クラウンは続いて床をつま先でトントンと鳴らす。 すると彼の影を奪うようにザワザワと黒き獣が形を成した。

「ダンテ、出番だ」

『待ちくたびれたよ。 五十年ぶりの仕事だね』

「やっとアンチュリエの尻尾をつかんだ」

『へぇ、興味深い。 派手に暴れてもいいんだろう?』

「いいや、援護に回れ」

 彼が歩みを進める。 影がクラウンの足元を巻きつき、そして漆黒のブーツが彼の足元を纏った。 踵が純銀のそれは、特殊な魔法を扱う魔法具。

カツン、と踵をふみ鳴らす度に、その足元からは蒼い稲妻が疾る。 銀を鳴らす事で特殊な魔法を操る魔法具は、この世に四つしか存在しない貴重なもの。

『ふぅん、随分やる気じゃないか。 まあいいや、キミがそこまで怒ってるのも珍しい。 見てるだけでも十分楽しめそうだ!』

 影から影へと移りながら、ダンテはケタケタと嗤う。

クラウンは口元をフッと緩めながら、ネクタイを緩めて囁く。

「可愛い可愛い娘に手を出すんだ。 丁重にもてなして、暴れてやろうと思ってね……」

 窓に映る白銀の世界に、赤く麗しい髪が蝶のように舞っていた。

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