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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
39/64

少女の望む明日 2

 アークナイトのリオンの自室。 そこはフロア全てが彼の部屋であり、入れる者はほんの数名だ。

クラウン、その息子達、リャウレンにエルドリッジ、そして王。

リオンは書類をまとめ、それらを満足そうに眺めた後に椅子から立ち上がる。 デスクのランプを消して、エレベーターへと向かった。

 アナスタシアのおかげでボロボロになったヴァチカンだが、ノックスとリュヌが復元魔法を使って元の美しい白亜の塔へ戻っていた。 それには相当な魔力が必要になったわけで、今彼らは休暇中だ。 あと二週間はゆっくりと休んでほしいと、王から通達が来た。

 先日のイリスとの戦いでの死亡者は二十人、今回のアナスタシアの一件では百人が死んだ。

それでも世界は進んでいく、ヴァチカンはいつも通り、任務に励む隊員の姿が見られる。

魔法使いといえども、全員が全員万能なわけではない。 優秀なわけではない。 不運な者はいつどこにだっているのだ。

 エレベーターが目的の階に着いたことを告げる。 リオンはエレベーターを降りてしっかりとした足取りで会議室へと向かった。

ドアを開ける、中にはいつもの四人が待っていた。

「遅刻っすよリオンさん」

「ああ、すまないすまない。 ちょっと書類に戸惑ってしまって」

「書類? 言っていただけたらお手伝いしますよ」

 コーヒーを白いカップに注ぎながら気の利いたことを言ったのは蓮だ。 やはりいつもは無愛想な表情だが、彼はよく気が回るのだ。

「ありがとう。 じゃあ次からは君にも声をかけようかな」

「はい。 書類仕事は得意なんで。 高校の頃よく反省文とか書かされましたから」

「ちょっとちょっと、それは自慢にならないよ蓮!」

 そう横から入ってきたのは祭星。

「体の調子は大丈夫かい、祭星?」

「あっ! ご迷惑をかけてすみませんでした。 もう元気です。 今まで一週間寝ていた分、みんなに追いつけるように頑張らないと」

「ふふ、気合が入っているな。 結構結構。 それで、今日みんなを呼び出したのは報告があるからなんだ」

 リオンが書類を机におき、スッと祭星の前へ差し出した。 そして胸ポケットから美しいブローチを取り出す。

そのブローチは青い結晶がついていて、光の角度で深い青に変わり、キラキラと輝いている。

祭星が書類を手にとって覗き込む。 全て筆記体で書かれた英文。 だが下の方にはアーサーの名前とヴァチカンの朱印。

 ザッと読んだ祭星が息を飲んだ。 手元からは書類がパサリと机の上に落ちた。

横にいたレイがその書類を拾って読んで、同じような反応をする。

「杯 祭星。 君をヴァチカンの中尉に命ずる」

 リオンがブローチを渡す。 そのブローチは中尉になったから与えられるものではなかった。

「それはやっと出来上がってきた、群青の色を持つ者に渡される物だよ。 所謂証明証みたいなものかな。 それがあると、まあ周りからチョッカイを出されることはなくなるだろう。 陰口は増えるだろうけどね」

 祭星がブローチをまじまじと見つめて、隊服の襟につけた。 それがあるだけで随分と偉い人に見えるから不思議だ。

「これを準備するのに時間がかかっていたんですね」

「いや? 時間がかかったのはもっと別の書類だ」

 リオンはフッと笑うと、蓮に書類と羽ペンを手渡す。

部隊のことについてだろうと思った蓮は書類に目を落としてその内容を確認して。

「……は?!」

 驚愕の声を上げてリオンを見た。 どうやら部隊のことについてではないらしい。

その様子を見たリオンが笑みを深める。 周りの三人は驚きすぎてそれから何も言わない蓮を覗き見た。

「書いてある通りだよ、蓮」

 リオンはどこからともなく、ネクタイピンを取り出した。 そのネクタイピンには彼の家の紋章が刻まれているようだった。


「私の養子になってほしい」


 これには祭星もひっくり返る勢いで驚いた。

レイとジョシュアは暫く口を開けたまま見守っていたが、途中で「そういうことか」と納得をし始めていた。 彼らは名家の出だから、リオンの行動がよくわかるのだろう。

「リオンさん、奥様はいらっしゃらないのですよねたしか」

「ああ。 アークナイトとして働きづめでね。 嫁を迎えるなんて暇はなかったんだ。 でも私の家はこれでも貴族だ。 跡取りがないんじゃ問題なんだよ。 だから蓮、君にお願いしたいんだ」

「でも俺は日本人ですよ」

「問題ないさ。 結局、私が必要としているのは跡取りという存在がいるということだけだ。 私は魔法使いだから老いを止めることだってできる。 アークナイトは危険な任務が多いから、もしもの時があったら跡取りがいないままじゃ貴族としては大問題なんだよ」

 大丈夫、死ぬつもりはないから。 とリオンが片目を瞑って付け足した。

蓮は今まで見たこともないような難しそうな顔をしていた。 隊長の任をもらった時より難しそうな顔をしている。 それほどまでに慎重に決めておきたいのだろう。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

 すると横から祭星が尋ねた。

「その理由だけで、蓮を養子にしたいのなら……。 私は嫌です。 って、私が決めることでもないんですけど……。

 蓮はずっと一人だったから、その、あの……」

 あわわわ、と目をぐるぐる回しながら祭星が言う。 ブローチをつけて偉く見えるようになっても、やはり中身は変わらないままなら意味ない。

「み、見かけだけの跡取り息子にする為だけに蓮を養子にしたいんだったら、私絶対許しません! わわ、わ、私は蓮の保護者とかそういうのじゃないけど、か、かっ……、彼女! だから、そういうの、気にします!」

 顔を真っ赤にして祭星が勢いに任せてそう言った。 それを聞いて蓮までも少し顔が赤くなっているようだった。

リオンはそんな二人を見て微笑ましく思いながら、最初に言っておくべきだった。 と口を開く。

「私は、蓮を本当の息子として迎えたい。 ただ……もう何百年も独り身だった私だ。 父親というものがどういうものなのか、わからないしこれから学んでいきたいとは思っている」

「大丈夫です」

 蓮がそう言って、書類に自分の名前を書き記す。

「俺が怪我をした時、リオンさんはとても心配してくれましたよね、急いで日本に来てくれましたよね」

 リオンがキョトンとした顔で頷く。 蓮は滅多に見せない笑顔を作る。

「だったら、もうそれで十分です」

 書類に朱印を押して、リオンへ手渡した。 彼の手の中で書類はカサカサと形を変えて、小さな鳥の姿へ。 そしてそれは会議室の窓から外へ飛び出して行った。

「では、これからよろしく頼むよ、蓮」

「はい。 リオンさん」

 流石に今すぐに父と呼ぶのは難しいだろう。 だがこうやって声をかけて、それに返してくれるこの事が、リオンは何よりも嬉しかった。

 見計らったようにドアをノックする音が響く。 入って来たのは赤い髪の男性、クラウンだった。

その姿を見て、起きて一度も彼に会って話をしていないことに気がついた祭星は弾かれたように立ち上がる。 そして慌てた様子で頭を深く下げた。

「ご、ごめんなさい! その、挨拶が遅れてしまって……!」

「気にしないでくれ。目覚めたばかりだろう、私も忙しくしていた」

 クラウンはリオンと目を合わせると、祭星を指差して淡々と言葉を口にする。

「借りるぞ」

「どうぞ。 もう昇格の書類は渡し終わりましたから」

 クラウンが祭星に手招きをする。 祭星は不思議そうな顔をして仲間に短く挨拶を交わしてクラウンと共に部屋を後にした。

レイとジョシュアはその様子を見て、本当にもうアナスタシアがクラウンの中にいないことを再確認した。 今のクラウンは必要以上に言葉を交わそうとしない、あまり笑うこともしなかった。

「クラウンさんはいつもあんな感じなのですか?」

「そうだな。 元々はあんな感じだ。 静謐と言われるくらいだからな。 親しい者には笑顔も見せるがな」

 なるほどクールな男性といったところだろうか。 あの蠱惑的な瞳といい、整った顔立ち、肉つきがよくスタイルの良すぎる身体。 落ち着いた佇まいと心を掴んでしまう魅惑的な声。 モデルのような話が来るのも頷ける。 というか、どこかで確かに見た事がある顔。 それも三十年以上前の映画だったような。

レイはそう思って手帳を開く。 映画鑑賞が好きな彼女は、今までに見てきた映画を手帳にまとめて持ち歩いているのだ。 パラパラとページをめくり、とある映画のタイトルを見て声を上げる。

「クラウンさん、昔は俳優業でしたのね……。 思い出しましたわ、ハリウッド映画の大スターではありませんか!」

「そういえばそうだったな! 三十年以上前の話だろう? 暇つぶしに俳優になったって聞いた」

 懐かしそうに言うリオンに蓮が思わずつっこむ。

「いやいや暇つぶしで普通俳優になれませんよね」

 三人はますます、クラウンへの謎が深まって行くばかりであった。

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