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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
28/64

騎士は誰の為に 1

 西條空港に到着した一行は、大型の旅客機をみて口をぽかんと開けていた。 リオンは笑いを堪えきれずに、肩を震わせてその様子を見守る。

 とにかくデカイのだ。

「これ本当に飛ぶんですか……?」

「飛ぶとも。 普通の旅客機と違って魔力で飛ぶんだ。 サイズなんてあってもなくても同じさ」

 既に他の魔法使いたちは慌ただしそうに離陸の準備を始めていた。 そんな中、二人の魔法使いがリオンの元へ歩み寄り、臣下の礼をとる。

どちらも赤髪の隊員だった。 二人とも何処の所属かわからない隊服を着ている。 そのうちの一人は、セレモニーの際に祭星が違和感を覚えたあの青年だった。

「ん、ああ。 君たちもきていたのか。 助かるよ」

 リオンは二人を見てパッと顔を明るくさせ、四人に向き合う。 それを合図に、祭星は蓮の腕からスッと降りた。 蓮も止めることはしなかった。

「紹介しよう。 私の部下だ。

 男の方はノックス・アドルフ・デイビッド。 階級は准尉。

 女の方はリュヌ・アドルフ・デイビッド。 階級は同じく准尉だ」

 ノックスは礼儀正しく頭を下げ、リュヌはふふと妖しく笑って手を小さく振った。

蓮が二人の名前を聞いて、訝しげに尋ねる。

「お二人共、デイビッド家なんですか」

 そういったのは無理もないだろう。 ノックスが頷くと、口を開く。

「君たちがアナスタシアの事について聞いたというのは、リオン様からお聞きした。 安心してほしい、僕たちもアナスタシアを討とうと策を練る者だ。 リオン様の部下になったのもその為だ」

 それに続くように、ゆっくりとした口調でリュヌが答える。

「旅客機の中で、色々お話ししましょうねぇ。 まずは……ワタシ達が、西條を直さないと。 だけど」

 はて。 西條を直すとは? と言ったように祭星が首を傾げると、ノックスはまた少し寂しそうな笑みを浮かべる。

「……よく見ているといい。 君ならば目を輝かせて見るはずだと、僕は……、そうずっと思っていたんだ」

 ノックスはタンっと混凝土を蹴って、空港の屋上へ飛ぶ。 それに続くようにリュヌもヒョイと飛び上がった。

風が吹く中、リュヌは愉快そうに笑ってノックスの頰に人差し指を指す。

「うふふ、あはは! さっきの表情、写真に撮ってユラちゃんに見せたくなるくらい最高だったわよぉ? お兄ちゃん?」

「やめろやめろ! 僕の婚約者に一々僕の写真を送るな!」

 顔を赤くする実兄を見てさらに楽しくなってくる妹。 リュヌは腹を抑えてその場に笑い転げそうな勢いだった。

「しかも、しかも! さっきの……! 『君ならば目を輝かせて見るはずだと、僕は……、ずっと思っていたんだ』って!! あっはははは! ひぃー! かっこつけ、カッコつけてるのがもう、あは、あはははあ!」

「うるさいぞリュヌ! 僕だってやっと話せた末の妹にカッコくらいつけたいんだ!」

 それを聞いてひとしきり笑ったリュヌが目の端の涙をはらって、うんうんと頷く。

「それが試験管違いの妹でも?」

「当たり前だ」

「記憶が混在してても?」

「関係ない」

「お父様の血しか繋がっていなかったとしても?」

「半分繋がってる。 それはつまり僕らの妹だ」

「お父様の望まぬして産み出された妹だとしても?」

 リュヌがそう尋ねると、ノックスは静かに天へ手を掲げる。

「でもあの子は僕たちの妹だ、リュヌ。 理由はそれだけだ。 アナスタシアを殺すのも、お父様を助けるのも。 そして末の妹を支えるのも。 全ては血の繋がりがあるからこそ。

 魔物の血肉、天使の卵が混じっていようとも、杯 祭星は僕たちの大切な家族だ。

 ……やるぞ、リュヌ」

 兄の横顔を満足そうに見て、リュヌはふふんと鼻を鳴らす。 そして杖を構えて西條全体へ魔法陣を広げる。

「「対なす力ここに在り」」

 その詠唱は凛と澄んでいて、沁み渡るように西條へ響いた。



 詠唱は四人にも届いていた。 そして鈴の音が響くように、辺りに光が溢れて、崩れ落ちていたはずの家屋やビル群が創り直されていく。

祭星は目を見張った。 そして目の前の光景を信じられないというように焼き付ける。

初めて見た。 噂には聞いていたが、これが復元魔法。

壊れた物を直すだけではなく、治療にも度々使われる魔法。 万能だが扱える魔法使いは少なく、創造魔法と同じように扱えるだけで特別視されるもの。

 創造魔法の使い手として、復元魔法をこうやって目の前で見ることができ、肌で感じることができるのに興奮を覚えた。

「す、すごい……! すごいね、蓮!」

「あ、ああ」

 ぴょこぴょこと飛び跳ねる祭星。 蓮としては、傷口がまた開くのも嫌なので落ち着いていてほしいのだが。 それは無理な相談だろう。

「お楽しみのところ悪いけど、もうそろそろ出発の準備が終わるから中に入ってくれー。 会議室があるからそこで待っててくれ。 今回の戦闘の話もそうだが、あの二人も交えて祭星の事について話をしよう。 妨害はかけてあるから安心してくれ」

 え! と残念そうな声を上げる祭星を、蓮は引きずるようにして旅客機の中へ入り込んだ。 祭星は目に涙をためて「二度とない魔法を最後まで見れるチャンスだったのにぃ」とぼやいていた。

 中はこれまた豪華だった。 だが座席に座った魔法使いは殆ど既に眠っていた。 皆疲弊していたのだろう。 四人は起こさないように細心の注意をはらいつつ、会議室の扉をあけて、そそくさと中へ入った。

普通の小部屋の様に見える会議室。 この様なものが飛行機の中にあるのだから驚きだ。 ふわふわとした二人がけのソファに祭星は腰掛けて、その隣にレイが座った。 こうなると必然的に蓮とジョシュアが隣同士になるのだが、特にお互い文句も言わずにソファへ座る。

「あら、随分素直になりましたのね、二人とも」

「まあ悪い奴ではないだろうからな」

 蓮はせっかく座ったソファから立ち上がって、部屋の端の方にあったサービスドリンクに手をつける。

「何がいい」

「オレはコーヒーな。 砂糖一つで」

「ではわたくしもコーヒーを、そうね、ミルクを一つ入れてくださる?」

 英国の二人だからてっきり紅茶とでも言うと思っていた蓮は、拍子抜けした様な顔だった。 慣れた手つきでコーヒーを淹れ始め、自分の分のカップも用意する。

「祭星は」

「っふぁ?! あー、っと。 うん、私もコーヒー……かな?」

「無理すんな。 お前はオレンジジュースでいいだろ」

 許可も取らずに既にグラスにオレンジジュースを注いでいた蓮は、無愛想に答えた。 祭星は頰を膨らませてフイとそっぽを向いた。 隣に座っていたレイは妹をなだめる様に祭星の頭を撫でて、蓮に提案する。

「ねえ、コーヒーにミルクとお砂糖を入れてカフェオレにしてあげてはどう?」

「どちらかといえばカフェモカの方が良さそうだ」

 蓮はそう言いながら四杯目のコーヒーを入れ、温めた牛乳を注いでチョコレートを一欠片入れてゆっくりとかき混ぜる。

それを見てレイは「なんだ、最初から作ってあげる気満々だったんじゃない」と密かに思った。

 テーブルに蓮がカップをそれぞれの前に置いた。 祭星の前には二つ並んでいたが。

コーヒーを飲むジョシュアと蓮。 レイはミルクを入れて優雅にカップに口をつけた。

祭星は恐る恐る温かなコーヒー……、ではなくカフェモカと言うらしいものを舐める様にちびちびと飲んで。

「うぇえええ!」

 喚いた。

その様子を向かいの席で見ていた蓮は思わず吹き出しそうになったコーヒーをなんとか抑えて、流し込む。 そしてやれやれと言った感じで頭を抑えた。

「お前なぁ。 人が淹れてやった飲み物に対してうぇえええはないだろう!」

「だってだってだって! 美味しくないんだもん!」

「あらら、一口ちょうだいな。

 ……、うん、美味しいわよ? 蓮、気を落とさないでね。 ちゃんと美味しいわ。 祭星の舌がお子ちゃまなのよ」

「うわーん! なにおう! なにおう!」

 オレンジジュースをストローで不機嫌そうに飲みながら、祭星は蓮をジッと見つめる。

それに気づいた彼はニヤリと微笑んでカップをススッと祭星の前へ押しやった。 隣に座っていたジョシュアはソファの肘掛に肘を立てて頬杖をつきながら、アレは何かを企んでいる表情だなと思った。

「何か入れてるんじゃないでしょうね……」

「ミルクと砂糖一つな。 少しは甘いからお前でも飲めるだろう」

 祭星はそれを鵜呑みにして一口、カップの中身を飲み込む。

「ッッ! にっがぁ〜い!」

 カップをテーブルにダンッと置いて、蓮の方へ滑らせる。 涙目になる祭星、蓮は彼女を見て子供の様に腹を抱えて笑った。 レイは蓮の反応を見て「あら、貴方そうやって笑えるのね」と失礼な事を言いながら微笑んだ。

「これ私知ってる! ブラックって言うやつでしょう! 嘘つき! 蓮のバカ、バーカ!」

「俺の話を馬鹿正直に信じるお前が悪いだろ、俺がミルクとか砂糖とか入れるわけがないだろ!」

 苦さに震える祭星に、ジョシュアは注いできたミルクを手渡した。 祭星はそれを一気に飲んで、やっと落ち着いた様だった。

「ジョシュアくんありがとう」

「オイオイ、よしてくれよその呼び方。 オレはジョシュアでいい。 レイのことも呼び捨てでいいんだぜ?」

「勝手に決めないでください、と言いたい所だけどそれに関しては賛同ね。 わたくしのことも気軽に呼び捨てでいいのよ祭星」

「えっ!? でも、年上の人にそんな……」

 するとレイは祭星の腰にスッと手を回し、顎をクイと細く艶かしい指で持ち上げて鼻先が触れそうなほど顔を近づける。

ふわりと香水の上品な香りがして、祭星は目を回した。

「良いのですよ……貴女だけになら、祭星。 ほら、わたくしの名前を呼んでくれますか?」

「う、うう、レイちゃん……」

「ふふ、違いますわよ? ほぅら、レイって呼んでください」

 顔を真っ赤にして目を回す祭星。 ジョシュアはライフルの銃口でレイをツンツンと突いて止めさせる。

「そうやって人を誑し込むのやめろ!」

 レイは祭星を離して、頭を撫でてやる。 祭星はふうと落ち着かせる様に胸をなでおろした。

「お前が祭星を誑し込んでる間オレはもう蓮が暴れないか心配で心配でたまらなかったぜ!」

「それはない。 お前たちは仲間だ、流石に仲間に嫉妬などしない」

 やいのやいの騒がしい会議室の扉がまた開かれて、リオンとノックス、リュヌが入ってきた。

騒いでいた四人に、リオンは興味津々で尋ねる。

「楽しいことでもあったのか?」

「リオンさん! みんなして私をいじめるんです!」

 三人は窓際のカウンター席に座った。 蓮が立ち上がって飲み物は何がいいか聞くと、リオンが紅茶を頼み、リュヌは炭酸!と元気よく答えた。

ノックスは同じように席を立ち、蓮の隣に並ぶ。

「君は周囲をよく見ているんだな。 ありがとう」

「いえ、そんなに褒めることではないと思います」

「謙遜しないでくれ。 僕も手伝うよ。 そうだ、そこの棚に確か菓子があったはずだ、切り分けてもらえるだろうか」

「では飲み物は任せますね、自分は甘いものが苦手なので六つに切り分けます」

 ノックスは手早く飲み物をテーブルに並べて、蓮が切り分けたシフォンケーキをトレーに並べ、運ぶ。

「ノックス准尉、私も手伝います」

 祭星がノックスを見上げて立っていた。 ノックスは一瞬だけ息を詰まらせ、トレーを祭星へ渡す。

ケーキをテーブルに並べ終えて、それぞれの席に着いた。 リオンが一人一人の顔をしっかりと見て、口を開く。

 それは、これから大事な話し合いをするという、宣言そのものだった。

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