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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
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砂の魔物 7

 ジョシュアが周りを警戒しながらこちらへ駆け寄ってくる。 気を失ってはいるが、呼吸は整っている祭星を見て、ジョシュアも安心した様だった。

「さっきのやつはなんなんだ……。 お前の父親と関係があったのか?」

「知らん……。 俺の方が知りたいよ」

「彼、アナスタシアのことを知っている様でしたわ」

 レイはリオンに連絡を繋ぎながら囁く。

だがその間に、リオンが魔法陣と共に四人の側へ現れた。 険しい表情をしている。

「なにやらこちらで一騒ぎあったようだな」

 祭星を抱えている蓮、残弾も少ないであろうジョシュアを見て、リオンはため息をついた。 しかし新米の魔法使いでよく健闘した方だと、素直に四人を褒めた。

レイはその言葉を聞いて、声を小さくして呟く。

「こちらは殆ど祭星がやった様なものですわ」

「……その子の暴走癖は、どうにか直す必要がありそうだ。 衛生部隊からも今報告が来た。

 全く、その傷で動いて、しかも挑発に乗りやすいときた」

 やれやれと首を振って、そして仕切り直す様にリオンが咳払いをする。 イリスが暴れていた場所をチラと見て、四人へ目線を戻す。

「何があったのかはヴァチカンへ戻る飛行機の中で聞こうか。 たった今、王からの帰還命令がでた。 三十分後に帰還する」

 それを聞いて蓮は驚きの声をあげた。 西條にはリオンの屋敷があり、そこにヴァチカンへ直接転移出来る魔法陣があったはずではないだろうか。

リオンは蓮の言いたいことを理解した様で、苦笑する。 自分の屋敷が存在していた地区を指差して、それはもう残念そうに声を出した。

「潰されたよ。 よってヴァチカンへの直接の転移方法を失ってしまった」

「ん? オレ等は空間転移で最初ここに来たよな? じゃあそれで帰りも向こうに行けないんすか?」

「空間転移は禁忌魔法なんだ。 そう簡単に何度も使えるものじゃない。 帰還命令の中に空間転移の許可は入ってなかった。 全員で飛行機に乗って帰るしか私達に方法は残っていないということだ。

 安心してくれ、ヴァチカンが私用で使う大型旅客機だ。 通常の客はいないし広々としているから問題ないよ」

「じゃ転送魔法と空間転移の違いってなんなんすか?」

 不思議そうに聞いてくるジョシュアにリオンが「歩きながら話そうか」と提案した。 上位に立つ魔法使いだからこそ、新米に教えるのは当たり前という精神だろう。

リオンが少し前を歩き、それについて行く形で三人が追う。

「転送魔法は言わば《テレポート》だな。 触媒無しで発動できるが、知っている魔法使いの魔力と自分、または対象の魔法使いの魔力を繋げて、その帯に乗って瞬間的に移動ができる。

 対して空間転移は触媒が必要になる。 私が行きで使った結晶の様にな。 それと魔力も桁違いに必要だ、ジョシュアとレイと蓮、君たちの魔力を合わせても発動ができない。

そして空間転移は名の通り、自分のいる空間を別の空間へ意のままに移すことができるんだ。 行きたい場所を写真か何かで見ておいて、それを頭の中で思い浮かべるとその場所へ空間を移せる。

 だが失敗したら何処ともわからん空間に落ちて二度と戻れないとされている。 実際、空間転移を使って行方不明になった魔法使いが多く見られてな。 百年前に禁忌魔法に指定された。 というわけだ」

 へぇー。 とジョシュアが目を丸くして頷く。 蓮も「これは良い勉強になったな」と呟いて、そして腕の中で眠る祭星を見る。

「ふふ、祭星が興味津々で聞いてそうな話でしたわね。 起こした方が良かったのかしら」

「疲れているのなら寝かせてあげた方がいいとは思うのだが……。 昏睡魔法で無理やりだからな、解いた方がいいか」

 するとリオンが歩みを緩め、蓮の隣に並んだ。 そしてまるで眠り姫の様に瞳を閉じている祭星の額に人差し指を触れる。

「……ふ、ぁわ……」

 可愛らしい欠伸を一つこぼしながら、祭星がむにゃむにゃと目を覚ました。 リオンがクスクス笑って前髪を綺麗に整えてあげて、蓮に悪戯に片目を閉じて見せた。

「本物の眠り姫は王子のキスで目覚めるんだったな?」

「揶揄うのはよしてください……」

 疲弊した声で蓮が苦笑いする。 祭星はようやく頭が覚醒して来たのか、自分が蓮に抱えられている事と、その蓮が疲れていることを理解した。

「あ、あ、っ! ごめん! 歩きます自分の足で歩きますぅ!」

「良い、疲れてんだろ」

 降りようとジタバタする祭星をガシッと掴んで離さずにいる蓮。 アークナイトはそれを見て愉快そうに笑った。

レイは二人の様子を見てわざとらしく大げさにジョシュアへ言う。

「あーあ、わたくしも歩き疲れましたわぁ。 蓮の様にわたくしを抱きかかえて下さるナイト様はいないのかしら?」

 駄々をこねる少女の様にチラチラとこちらを見てくるレイ。 ジョシュアはフンと鼻を鳴らして嫌味の様に声を荒げる。

「テメーはクソ重いからヤダ。 オレはか弱い女の子がタイプなんだよ。 テメーは胸もデケーしケツも太いしオレ様のタイプじゃねーんだわ、ワリィな!」

 がはは、と笑うジョシュア。 レイは顔を真っ赤にしてジョシュアの頭を拳で殴る。

「最低ですわね! 死んでくださる?!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す二人。 祭星はじぃっとレイのスタイルを改めて見る。

豊満な胸、今の彼女は私服だからよくわかるが、キュッと絞られたウエストとそこから妖美な程に線を作る魅惑的なヒップ。 スラリと長く、細すぎず肉付きの良い脚。

それはまさに大人の魅惑という感じだ。

 比べて自分は普通だ。 身長は高い方だがレイよりも十センチ低い。 顔もさほど自信はないしスタイルも全く……。

「良いなぁ、私もレイちゃんみたいに……」

 祭星の憧れの瞳を見て、リオンが腕を胸の前で組んで、ふむと考える。

「いや、レイのようなモデル体型になった祭星を思い浮かべることができない。 祭星はそのままでいなさい」

「えぇ! やですよー! 私だって大人の女性の余裕ってものが欲しいですっ!

 コーヒー飲めたり、すらっと長いスラックスを履けるのが大人の女性なんですよー!」

 ばたばた暴れる祭星にため息をつく蓮。 レイは「気苦労が多くなりそうねぇ?」と蓮に向かって笑った。

全くだと、蓮は頭の中でおもい、心の内に秘めたこの言葉は今は言わないでおこうと、押し込んだ。

 いやはや、先ほどまでイリスと戦い、奇妙な男に意味もわからないことも言われたというのに、ここまで良く騒げるものだと蓮は思う。 だが一応は、イリスを退けることができ、西條の危機は救えたのだ。

これが勝利の余韻に浸るということなのだろうかと、新たに始まるこれからの戦闘に備えるように、蓮はフッと笑みをこぼした。

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