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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
17/64

知らない部分 8

 実戦訓練は結局蓮と祭星が選ばれた。 レイとジョシュアは新たな武器の契約でそれどころではないからだ。

 中庭には既に沢山の魔法使いで溢れていた。 噂の新人の姿を野次るためだ。

「蓮、大丈夫?」

「ああ。 魔力はリューゲのおかげで有り余ってるくらいだからな。 お前こそあんまり気を張るなよ」

 祭星は力強く頷いた。

 ダッグバトルに変更されたのは都合が良かった。 祭星の魔法は詠唱が長いため、サポートしてくれる仲間が必要なのだ。とはいえ、お互い肩を並べて闘うのは初めてだ。 不安も残る。

「蓮」

 エスペランサを胸に抱いて、蓮を見上げる。

「私のこと、守ってくれる?」

 蓮は驚いた顔をして、不敵に微笑む。 祭星の頭をポンと叩く。

「当たり前だろ」



 中庭に準備された特設の実戦フィールドで、向かい合う四人。

戦術支援からは男二人。 ロイ少尉とハーノイン少尉だ。それぞれ槍とメイスを構えていた。

 蓮は祭星の斜め前に立ち、白竜鬼神を鞘から抜いた。 刀身に水と闇の魔力が渦巻く。

「杯 祭星。 群青のクレアシオンって言われてるけど、見た目はただの仔ウサギってところだな」

 メイスを構えたハーノインが小馬鹿にしたように笑った。

「来いよ。 お前達新参者より俺らが強いってことを証明して、代わりに聖歌隊に入ってやるよ」

 蓮はその言葉と態度に目を細めた。 そして彼らへ言葉を吐き捨てる。

「先輩達、この実践訓練のルールはご存知ですよね?」

「あ? バカにしてんのか?! 相手に傷を付けた時点でそいつの反則だ! テメェこそ分かってんだろうな?」

「わかってますって。 行くぞ祭星」

「……うん!」

  刀を携え、蓮は地面を強く蹴った。 祭星は蓮の足元に赤色の魔法陣を展開させ、彼の力をさらに強めた。

 槍を持ったロイが蓮に突っ込み、槍先を突き刺す。 蓮はその槍を刀で弾き返すとロイの胸ぐらを掴んで、思い切り自分に引き寄せると、腹を蹴り飛ばした。

「ガハッ!!」

 後方に飛ばされるロイ。 ハーノインがメイスをおおきく振りかぶって蓮に振り落とした。

「リューゲ!」

 水のベールを作り出したリューゲによってメイスは防ぐことができた。 だがその後ろからロイが槍を蓮へ突き刺した。

が。

「させるわけない!」

 槍を創り出した祭星が躍り出た。 ロイの槍を弾くと、祭星は一瞬で槍を弓へと変化させる。

そして重力を操作する魔法を使い、ロイを後方へと放り投げる。

ロイが驚愕した表情で祭星をにらんだ。

 創造魔法で創り出したその弓はあまりにも巨大だった。 自分の身の丈を遥かに上回る弓。 下のリム部分には銀の鋭い装飾が施されている。 その部分を地面にしっかり刺して、祭星が矢をつがえる。 魔力でできた矢の切っ先から、小さな魔法陣が幾重にも現れて標的を捉える。

 だがその後ろから、メイスを横に凪いだハーノインがいた。 祭星が危険を察知したと同時に、蓮は刀でメイスを受け止めて軌道を変えた。

ハーノインのメイスの力に勝てず、蓮は真横に吹き飛ばされてしまう。 風を切りながら蓮は祭星に向かって吼える。

「やれ!」

「言われなくても!」

 祭星が矢を放った。 その動きは誰が見ても素人そのものだが、祭星はある魔法を仕込んでおいた。

「絶対に当たる、だってそれは」

 ものすごい風圧で飛ばされそうになりながら、祭星は真っ直ぐ前を見据えた。

自分に向かってくる矢を見て、ロイは青ざめた。

「おい、これ……! 不可避の魔弓じゃ……!」

 使い主が当たると思うだけで、狙いが逸れることのない魔弓。 どんなに不恰好な弓の引き方でも、その矢は寸分違わず真っ直ぐと目標へ空を切って突き進む。

「でも」

 ロイに突き刺さる寸前、彼の目の前で矢は消え失せた。

 愕然とするロイと、野次馬の魔法使い達が一斉に祭星を見ると、彼女は弓を消していた。

魔力の帯を煌かせて、弓は壊れるように消え失せ、白髪の少女は息を吐き出した。

「そもそも訓練だから怪我をさせたらルール違反だし、あれ、でもどうやって決着を……?」

 その瞬間だった。

風圧によって巻き起こっていた砂埃が収まると同時に、蓮の掠れた怒号が聞こえた。 野次馬からも悲鳴や怒号、祭星を案じる叫び声が上がる。


「祭星ッ!!」


 左側。 凄まじいスピードでメイスが襲いかかってきた。

「っ」

 反応できなかった。 衝撃を和らげようと展開する魔法も一足遅かった。

 重たいメイスに横薙ぎにされ、軽い祭星の体は木の葉のように吹き飛ばされて、百メートルほど先の巨木に叩きつけられた。

 ドシャリと力なく地面に倒れる。 巨木には鮮血がこびりついていた。野次馬からも不安そうな声が上がり、誰かが「救護班を呼べ!」と叫んだ。

「調子に乗りやがって、この雑魚が……!」

 ロイを惨めな目に合わせた怒りからだろう。 ハーノインは力任せに彼女を武器で殴りつけたのだ。

「いくらなんでも、やりすぎだ……! ユエ!」

 クラウンが隣にいたユエに急いで声をかけると、彼もまた冷や汗を垂らしながら頷いた。

「アイツら、あれほど言ったはずだ!」

 ユエは倒れた祭星へを駆け寄ろうとしたが、足を止めた。 すでに、彼女の元に駆けつけた人影があったからだ。

「誰だ……? いや、あの魔力は、白石……?!」

 クラウンも身を乗り出して彼を見つめる。

「彼も満身創痍のはずだ、一体いつのまに……! すぐに駆けつけれる距離では……」



 白く美しい少女は、赤に染まっていた。

真新しい隊服を赤く濡らして、少女は不規則に呼吸を続ける。

「ぁ、っが……」

 痛い、苦しい。

過呼吸になる肺を動かせる右腕で抑えて、地面に額を擦り付ける。 おびただしい量を吐血した。 血と一緒に自分の体内の魔力もどんどん吐き出されていく。

「くる、しい……、まりょく、たり……ないっ……」

 左腕と右脚が動かない。 多分折れているのだろう。

自分が殲滅してきた魔物も、死ぬ前はこんな感じだったのだろうか。

横腹から温かいものが流れている気がする。 それが臓器なのか、血なのかわからないが、徐々に感覚がなくなっていく。 死ぬように痛かった左腕が痛みに麻痺してきたのか、まるで腕そのものが無くなったように何も感じない。

 痛い、という漠然とした感情は次第に恐怖へ変わっていく。


───死ぬのかな、私。


 実戦訓練って、怪我をさせてはいけないルールじゃなかったっけ。と、考えるその間にも、意識は薄れて、魔力と血が流れ出す。

 苦しむ彼女のすぐそばに、蓮が駆けつけた。

彼もボロボロで、髪留めは千切れ、額からは血が流れている。

「ごめんな。 守るっていったのに。   ……でもさ、安心してくれ」

 祭星を水のベールで包み、中を魔力で保護した。

苦しそうな表情が和らぎ、呼吸も落ち着いた。

「俺も、お前と同じような甘い考えじゃ駄目だって今ようやくわかった」

 肩からかけていたマントを外した。

動く時に邪魔だからだ。

「相手が魔物だろうが人間だろうが関係ねぇ」

 しっかりとした足取りで蓮がハーノインと向き合う。

赤く燃えるような瞳に、蒼い魔力が混じって、赤を塗りつぶした。

「あいつを苦しめたやつを殺す。 それだけだ」

 トンッと軽やかに地面を蹴り、蓮はハーノインのメイスを刀で半分に切り裂いた。

「なっ、こいつ!」

 拳を作り振りかざしたハーノインの腕を右手で掴んで動きを止め、鋭い瞳で彼を睨みつける。

蓮の体にまとわりつくようにうねる闇の魔力。 次第にそれはハーノインへと伸び、彼を絞め殺すように首元へ。

「ハーノイン! させるかぁ!!」

 ロイが蓮の後ろから槍を突き刺そうと飛びかかるも、それを予想していた蓮はハーノインを思い切り蹴り飛ばして、あろうことか刀を逆手にとってロイの喉元スレスレで鋒を止めた。 ロイが泡を吹いてその場に倒れた。 これでロイは戦闘不能ということになる。

「ちっ! 小僧がよくもロイを……!!」

 真っ二つになったメイスをハーノインは蓮に力づくで振り落とした。 メイスがすぐ目の前に来た瞬間、蓮はフッと笑みをこぼした。 ハーノインがその笑みを見て、本能的に恐怖を覚える。

 その笑みはまるで、獲物を見つけたオオカミのように狡猾だったからだ。

 蓮の足元に白い魔法陣が瞬時に刻まれた。 そして光の壁が現れて、メイスを防ぐ。 メイスはガラスのような音を立てて崩れ去っていった。

「ありがとな。 祭星」

 自分の後ろ、巨木にもたれかかるようにして立ち上がった祭星は手をこちらに伸ばしていた。 力を振り絞り、蓮へ防御用の光魔法を展開させたのだ。 それも正確に、蓮には効果が及ぼさないように調節をして。

「獣だ、お前は……」

 刀を携え、目の前に立った蓮の姿を見てハーノインが震える声で言う。

「あの少女が仔ウサギなら、お前は醜い獣だ……」

「そりゃあどうも」

 蓮が刀を振り下ろした。 クルンと汚れを払うように回して、鞘に納める。


「いつだってウサギを喰うのは獣の役割だ」


 ハーノインの肩章がポタリと地面に斬り落とされた。 ハーノインは両手を上げて、降参の意を責任者へ伝えた。

 蓮は振り返ることなく祭星へ歩き寄り、倒れかかる彼女を優しく抱えた。

「ごめん、ね。 ぜんぜん役に……たたなかった」

 魔法を使った反動か、息が浅く速い。 時折咳き込んで、血を吐き出す。

 蓮の隊服が血で濡れるが、彼は気にせず抱きかかえて待機している衛生部隊の元へ。

クラウンに連れられて駆け寄ってきた衛生部隊が、祭星を担架へ乗せ、病棟へと向かっていった。

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