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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
14/64

知らない部分 5

 ヴァチカンとは250階までに連なる巨大な白亜の塔だ。

娯楽ルームやレストランはもちろん、病院も併設している。

 祭星と蓮が案内されたのは120階。 ここは職員たちの自室が並んでいた。

「ここが通常職員の自室です。 簡単に言えば人間ですね。 120から125階までが人間の方達の自室になってます。 各階10ずつ部屋があります。 ヴァチカンに所属している人間は大勢とは言いますが50人ほどです」

 そこからまたエレベーターをつかって上に向かう。 着いたのは152階だ。

「こちらがあなた方の自室がある階です。 152階。 配属先によって階層が決まっているので注意していてください。 125から140階が殲滅部隊と衛生隊。 140から150階が戦術支援部隊。 そして150から152階が聖歌隊です」

「せっ」

「聖歌隊?!」

驚きを隠せずに2人が声を上げる。 職員は頷くと、誇らしげに言う。

「珍しいことですよ。 1年に1回の招待者受け入れで、2人も聖歌隊行きが決定されるなんて。 これから頑張ってくださいね。 応援してますよ」

 部屋番号が書かれているキーをもらい、蓮と祭星は2人で152階に取り残されてしまった。

「ま、まずはお部屋に行って荷物を置いて……、部屋に置いてあるって言ってた隊服に素直に着替えて……、後のこと考えようか」

「賛成だ」

 祭星は7号室、蓮は2号室だった。

部屋に入った祭星はわぁっと歓声をあげた。

豪華でもなく質素でもないほどほどのデザインのシャンデリア、座り心地の良さそうな白いソファにクイーンサイズのベッド。 自室というので部屋一つだと思っていたが、どうやら2LDKくらいだ。

 キッチンもあるし風呂場まである。 窓は流石に高すぎてなかったのだが、不思議と閉塞感はなかった。

部屋の一角には人が通れるくらいの間がある。 祭星はそっと覗いてみるとその奥にはウォークインクローゼットが広がっていた。

「豪華……豪華すぎる……!」

 荷物を置いてソファにぎこちなく腰掛けると、ベッドの上には綺麗に畳まれた真新しい隊服があった。

正真正銘、聖歌隊の隊服だ。

「ほんとに、ほんとに聖歌隊の紋章に、聖歌隊のマント……」

 聖歌隊。

ヴァチカンの魔法使いの中の精鋭だけを集めた最大戦力だ。 主に上級の魔物を討伐する。

 まさか自分がそんな隊に入れるとは思っていなかった。 群青のクレアシオンといえども自分はまだまだ若造だ。 技術面ではここにいる魔法使いの方がずっと上だ。

 隊服に身を包み、鏡の前に立つ。

白い軍服のようなものだった。 美しいラインを生み出す生地。 黒い手袋をはめて、拳を作ったり開いたりする。赤いネクタイに赤いプリーツスカート。腰には二本のベルトできっちり固定して、地面にまで長い黄色のマント。 しかし軍用のブーツを履くと、ヒールのおかげで地面すれすれに長さが落ち着いた。

 黄色は聖歌隊のトレードカラーだ。

黄色と聞いたらだいぶきつい色をイメージするかもしれないが、上品で落ち着いた黄色だ。

 廊下に戻ると、同じように聖歌隊の隊服を着た蓮が部屋の前で待っていた。 だがその顔はどこか浮かない。

「おまたせ。 なんか難しそうな顔してるね」

「ああ……。 少しばかり気になる点があってな」

 セレモニーが開催されるのは二階にある大ホールだ。 一階へ直通のエレベーターに乗り込み、蓮が腕を組んで考える。

「お前はヴァチカンと前から交流があったんだよな」

「うん。 私はリオンさんを通じてヴァチカン側から接触してきたし、魔道書とか色ももらったけど……」

「ということは、ヴァチカンはお前の能力値を知ってるってことだ。 これはわかるな?」

 祭星はこくりと頷いた。

「じゃあ俺は? 俺は行方をくらましていた。 その上招待状が来たのはつい最近だ。 そんな短時間で俺の能力やら得意な魔法がわかるか普通?」

「……言われてみれば」

 ヴァチカンの隊分けはかなり慎重に選ばれる。 本人に適した部隊でないと、命を落とす確率が高いからだ。

「お前を聖歌隊に選ぶ理由はわかる。 だがなぜ俺まで聖歌隊に選ばれた? 聖歌隊といえば精鋭たちが集まる部隊。 どんな戦い方をするかもわからない新人を入れることになんのメリットもないはずだ。

……なにか、仕組まれている気がする。 お前、今年の招待者受け入れの人数みたか?」

 そういえば目を通してないはずだ。 首を振ると、蓮がだろうなと言う顔をした。

「三十人だ」

「えっ?」

「考えられるか? あのヴァチカンだぞ。 俺たちの年代に魔力保持者が三十人しかいないわけがない。

さっき見てたデータなんだが、これが俺たちの年代の魔力保持者の人数だ。 戸籍を持つ魔力保持者は二百人超だ」

 携帯の画面を見せてきた蓮。 そこには魔力保持者のグラフが。

「つまりこれは……その残りの人は招待を拒否して……?」

「有り得る。 俺が思うに、詠斬だろう」

 自分を引き取ったあの男。

なぜ蓮を引き取った男の名前が今出てくるのだと、祭星は首を傾げながら蓮を覗き見た。

彼は眉間にしわを寄せて、難しそうな顔をしていた。

「詠斬はヴァチカンには所属していない」

「……は?」

 素っ頓狂な声を出した祭星。 それもそうだ、魔法使いなら殆どがヴァチカンに所属していて、魔力の扱いをヴァチカンで教わるのだ。

という考えが祭星の中で強くある。

だからこそ、蓮は違う答えを出せた。

「あの男が所属していたのはイルミナティ。 魔物主義の組織の一つだ」

「いる、みなてぃ」

 一階に到着したことを告げるチャイムが鳴った。 蓮は携帯を胸ポケットに入れて、エレベーターから降りる。

「関わっていなくても関わっていても、どちらも十分に警戒すべきだ。 それと、俺は自分の力が周りと比べて劣っていると感じたらすぐに聖歌隊をおりるつもりだ。

例えもし仮に実力で認められていたとしても、俺は人間たちを守るために戦うとかそんな綺麗事はヘドが出るほど嫌いだ」

「……わかった」

 もちろん、祭星もそのつもりだ。

もし自分の力が聖歌隊に居続けるに値しなかったら、自ら聖歌隊を辞めるつもりだった。

 ヴァチカンに着いて早々に疑問点が多く発生してしまった。 もとより、ヴァチカンへ行くことを楽しみにしていたわけではないのだが、警戒すべきところが増えてしまったのは事実。 セレモニーへ参加するのが少し億劫になってしまった。

 蓮の後ろ姿を追うように、祭星も先を急いだ。

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