どこかの廃屋にて 5
──作戦はこうだ。
まず従魔のスケルトンが一人であの家に向かい、そこに居るであろうスケルトンをこの家まで誘き出す。
この家の中まで入って来たら、隠れていたオレと従魔のスケルトンとで、そのスケルトンを取り押さえる。
身動きを封じた所で、そのスケルトンをペチペチ叩くのだ!…じゃなかった、[従魔術・改]を発動させるのだ。
なんか、スケルトンスケルトン言ってて紛らわしいな。名前とか呼び方を変えておいた方がいいだろうか。…読みやすさ的に。
「突然だが、お前の名前は今日から1号だ。」
『カタカタカタッ!?』
「喜んでいる所を悪いが、さっそくあそこのスケルトンを上手く誘き出してくれ。さぁ1号。逝ってこい!」
一頻り意味不明な小躍りをしたかと思えば、急に肩を落としてトボトボと歩き出す1号。
彼の背中を見送ると、オレはこの廃屋の中での隠れ場所を作る。まぁ、元々壁だった物の残骸を少し斜めにするだけだが。
~・~・~・~
壁の隙間から様子を伺っていると、すぐに1号が戻ってきた。
その後を追う様にもう一体のスケルトンも、ゆっくりとこの廃屋へと足を踏み入れる。
中に入った途端、軽く周囲を見回したかと思えば、くるりと振り向き壁越しにオレをジッと見つめるスケルトン。
─ しまった。
アンデッドは、生命に対して凄く敏感なのだ。
離れていればそうではないが、彼らを中心にした一定の範囲に入ると反応を示す。見える見えないは関係無いのだ。
「コイツをすぐに押さえ込めっ!」
慌てて壁を肩で押し倒し、立ち上がった。奇襲は失敗だ。
こちらを向いたスケルトンを、後ろから1号が羽交い締めにしている。
オレが姿を見せた途端、両足を我武者羅に振り回し必死で応戦してくるスケルトン。
─ あぁ鬱陶しい。
蹴り上げた片足を避け際に、そのまま1号ごと押し倒す。
下敷きになった1号をよそに、なんだか厭らしい体勢になったスケルトンをそのまま押さえ込み、鳩尾(?)の辺りから手を回す。
─2体分の骨格模型と組んず解れつ。端から見たら、ドン引きされる光景なのだが、これでも一生懸命やってるんだよ。
いや、そう意味でやってないよ。やってるって意味が誤解なんだって。もう訳が解らないな。
……誰に言い訳しているかは不明だが、その間もスケルトンの魔核を握りしめ[従魔術・改]を発動し続けている。
1号の時よりもかなり多目の発動回数でゴッソリと魔力を持ってかれたが、そのうちオレの頭をポカポカ叩いていた手が止まった。
「だぁ~、焦った~。」
目の前のスケルトンが従魔になった感覚を覚えた事で緊張を解き、半身を起こして膝立ちになる。
見下ろせばスケルトンの下敷きになった1号が、脇下から回した右腕で相手スケルトンの眼窩を掴んで頭の動きと噛みつきを封じている。
同じく脇下から回された左手は、相手スケルトンの右肘を取って器用に回し、右腕の固定と頭の押さえ込みの補助をしていた。
通りで反撃が生易しかった筈だ。スケルトンが真面に使えるのは左手の肘から先だけ。
それにしてもコイツ…寝技が使えるんだ…。
1号と戦いにならなくて、命拾いしたかも……
何とも言えなくなった気分の中、体に着いた土を落として立ち上がると、各々スケルトン達も動き出す。
「よし。この調子で従魔を増やそう」
1号:『カタッ』
スケルトン:『カタカタカタッ?』
1号は了解の意を示し、名無しは首を捻っているようだ。何か疑問でもあるのだろうか?
簡単に現状と目的を名無しに説明して、1号に後の補足を任せる。
従魔を手に入れた現状、次の目標としては安全な場所の確保を挙げていた訳だが、その前にやらなきゃいけない事を思い出したのだ。
─ 従魔の強化だ。
日中のスケルトンは[光属性脆弱(小)]の影響で、身体能力が低下している。
そのお陰でオレでもスケルトンを押さえる事が出来たのだが、従魔となった以上、弱点やペナルティは最早ただの足枷に過ぎない。
瓦礫の下に隠したアイテムをいそいそと取り出す間、スケルトン達はカタカタ言い合っている。
喋れないのにどうやってコミュニケーションを図っているのだろう?身ぶり手振り無しに会話が成立している風なのがとても不思議だ。
あのカタカタ言ってる音が、言葉か何かなんだろうか?
仲間外れの疎外感を感じるままに、スケルトン達にアイテムを無言で手渡す。
・常闇のペンダント 2個
・魔核の欠片 …以下付与名
─ 〈剣術・受流し付与型〉 1個
─ 〈剣術・見切り付与型〉 1個
─ 〈殴打耐性・俊敏付与型〉2個
受け取ったペンダントを互いに仲良く掛け合う姿に、益々孤独感に苛まれる。
─ ちっとも寂しくなんかないぞ!
一方、羨む眼差しの向こうで、ペンダントを肋骨の内側へ仕舞ったスケルトン達は、欠片を摘まんでしげしげと観察するような仕草をしている。
魔核の欠片が、何だか解らないのだろうか?それとも、どう使うかかな?
…実はオレも知らない。
なので魔物自身なら、知っているか自然と理解出来るものと思って、そのまま渡したのだが……
ヒョイ、パクッ
─ 食べたぁーっ!!!!!!
予想の斜め上をいく行動に驚いている間に、空っぽの顎から肋骨の合間へと転がり落ちていく欠片。
だが、その先のお腹の空洞から出てくる様子がない…。
それを見た名無しも、1号の手のひらに乗っている欠片を摘まむとお口にポイッ。
仲良く欠片を分け合ったスケルトン達は、特に何事も無く、平然としている。
「え~っと…大丈夫か?」
『カタタッ?』
えっ?何が?とでも言うように首を傾ける名無しと、無意味に胸を張ってみせる1号。
…大丈夫みたいだな。
スケルトンが欠片を食べたから驚いただけで、よく考えたら普通の魔物なら別におかしな行動では無いだろう。逆にそれ以外の方法が思い付かないしな。
「まぁスキルが身に付いたのなら、良しとしよう。後、あそこに置いてある武器を使ってくれ。アレってオレには直接持てないからな。」
『カタッ』
「あぁそれと、お前にも名前を付けなきゃな。お前の名前は2号だな。」
『カタカタカタッ!?』
名無し改め2号も、喜びの小躍りをし始める。スケルトンの習性の様なものなのだろうか?
その隣で1号が2号の肩に手をやり、頻りに頷いている。
2号は、オレと1号の顔を交互に見返すと、なぜかガックリと項垂れるのだった。
やっと戦力が揃いつつある主人公。
その分、不幸になっていくスケルトン…
ちなみに1号は〈剣術・受流し型〉を食べました。
詳しい従魔の能力は、いずれ主人公が語ってくれると…思いたい。




