どこかの廃屋にて 3
─ 半ば崩れかけた廃屋の中で、瓦礫の下敷きになっている白骨死体。
─ 薄汚れたジャージを着た一人の男が、その骨の中に手を突き入れたまま佇んでいた……
なんなの?この状況??
お母さんがみたら、きっと泣くよっ!
自分でも何をしているのか解らない…。
職務質問のレベルで済むとは思えない程の不審者だ。
もしかしたら任意同行をすっ飛ばして、現行犯逮捕されるかも知れない。…何の容疑かは、知らないが。
~・~・~・~
…早く何とかしなければ…焦る気持ちも、全てが空回りする。
言い訳が許されるなら言いたい、全身全霊をもって主張したい。
─ オレは無実だぁー!!
……違う、そうじゃ無い。スキルが発動しないのだ。
身に付けた筈の[従魔術・改]が、ウンともスンとも言わないのだ。
スケルトンに対しても有効になってる筈なのに、ど~なってるの?
直接、魔核に触れてるから発動条件は、揃ってるよね?
一体何が足りないの?全然解んないよ!!
「ふぅ~。一旦、落ち着こう」
…とは言え原因は、すでに判明している。自分がスキルを使いこなせていないのだ。
あの白い空間では、確かに感じられた感覚も、まるで雲の様に"フワッ"としたものになっている。
集中しようにも、時々目の前で頭蓋骨がアガアガ言うものだから気が散ってしょうがない。やはり慣れない事は、するもんじゃない。
…不幸中の幸いなのは、幾らでもトライ出来る事だ。練習し放題だ。
少し前向きな気分になった所で、目を閉じて集中する。
……。
……。
……。 カタカタッ
えぇーい!動くなっ! ─ ペシッ ─
……。
……。
……。 カタッ ─ ペシッ ─
……。
……。 カタッ ─ ペシッ ペシッ ペシッ ─
……。
……。 ─ ベシッ!─
ダメだ~
全く出来る気がしない。むしろスケルトンの反応に、どれだけ早く叩けるかに替わってしまっている。
ちょっと楽しんでいる自分に、何かご褒美を上げよう♪ ─ ペシッ ─
ハッ! 目的が変わってしまっている。
我に帰った所で、今までアガアガ言ってるスケルトンが、始めの頃に比べて随分と大人しくなってる気がする。
…もしや…?
─ ペシッ ─
ふむ。特に何か起こっている感じは、しないな…。
─ ペシッ ペシッ ─
…これでダメージが入って、弱っているなんて事は無いよな?
いくらなんでも、ペチペチ叩いただけで倒されてしまう程、弱くは無かった筈だ。
別の意味での不安が顔を覗かせ始めてきたが、それよりもスキルだ。
もう一度、脳天直撃インストールで覚えた事を、振り返ってみよう。
ココは、物理法則と魔法が両立する"世界"だ。
そしてこの世界には魔力と言うモノが存在し、色々な作用を持って現象を引き起こす。その引き起こされた現象を体系化して名前を付けたのが魔術やスキルなのだ。
改めて考えると、何て現実感に乏しいのだろう。冗談にしか思えないな。
まぁ、ここにアガアガと首を振ってる骸骨が居るんだし、言っても仕方がないか。
魔力に法則性のある作用があって、現象が起こる。魔力に作用させる…。作用ってなんだっけ?
え~っと、確か……… そうだ!消費と流動と固着って言ってた筈だ。
ここ迄は覚えていたけど、消費・流動・固着? 意味まで知らないぞ。
いや待てよ、他にも作用はあった様な…?
…ダメだ。覚えてない。
そもそもオレが覚えてるのは、この"世界"全体の概略しか無いんだよ。分厚い辞典の目次のページみたいなモノなんだよ。…それだけでも、かなりの容量になるし。
そこに白い球体とのやり取りで知った事を、継ぎ接ぎで補足してるだけなんだよ。
なまじ中途半端な知識が広く浅くなので、より具体性が無いんだよ。
─ 上部だけ取り繕って知った風な事を言ってる、俄解説者みたいなモノなんだよ!
AV知識だけは学者並みの童貞の方が、まだマシだよっ!
…若干、可哀想な気はするけどね。
知らないものは、どうしようも無い。解っている事から、推測なり予想するなりするしか無いな。
まさかここで、白い球体でのやり取りの経験が生かされるとは……
え~っと、何だったかな? あぁそうそう、作用だったか。
消費と流動と固着だっけ?
消費はともかく流動って、流すって事だろ?魔力を流すって、よく使われてるイメージがあるな。
それに固着ってなんだ?固めて、着ける…? 溜めるとか圧縮でもしてるのか?
根本的な問題として、魔力ってモノを全然感じ無いんだよな…。
それが解らなきゃ、全く前に進まないぞ。
…自然と足元のスケルトンを視線が向かう。
コイツが動いているのも、魔力か何かの力なのか?
筋肉や靭帯も無いのに、骨同士が繋がり合って動いてるもんな。
…よくよく見ると、関節部分が微妙に浮いていて、完全に接触してる訳では無い様だ。軟骨のあった部分だけ、浮いているのかな?
スケルトンの左手を持ってみる。振り払おうと抵抗するが、日光に当たって弱体化してるのだろう…オレでも力比べで勝てる。
しかもこっちは、両手だしね。
…。体を反らし見上げれば、崩れ放題の壁や瓦礫が枠組みになった歪な額縁に、キャンバス一杯の蒼天が描かれていた。
今日はいい天気だなぁ…。
─ ポカッ ─ 「ぁ痛っ!」
油断してたか手を振り払われ、脛を殴られた。地味に痛い…。
「痛いじゃないか、コノっ!」 ─ ペシッ ─
── ????
今、何か力が抜けた気がした。体がだるいとか、そう言うんじゃなくて精神的な…?
言葉じゃうまく表現出来ない"何か"が、無くなった喪失感というか何と言うか。
…消費? コレって魔力を消費した感覚なのか??
何とも微妙な感覚だな。もしも尻尾が生えていて、それを動かそうとしても上手くいかない…。そんな擬しい、不思議な感覚だ。
もう一度…。 ─ ペシッ ─
違うな。さっきの感覚ではない。
─ ベシッ! ─ う~ん。力を入れてもダメか。
─ ペシッ ─ 違う。
─ ペシッ ─
─ ペシッ ─
~・~・~・~
─ ペシッ ─
─ ペシッ ─ カタカタッ
コレだっ!!
別に、スケルトンの頭をペチペチ叩く必要は全く無いのに…。
可哀想なスケルトン。




