どこかの廃屋にて 2
─ ビックリして損した。
…なぁんて思う訳無いだろ、コノヤロウ。
とっさに手近に有ったカッスカスの棒を拾い上げて、身構える。
少なくない年月を経て、草臥れまくったその棒は、殴るどころか振りかぶっただけで折れそうだった。
─ 何か武器になる物はないかっ?!
身構えた体勢のまま、視線だけ動かして辺りを伺う。どれもコレも腐ってるか、もしくはもう半分土になり掛けの物しか見当たらない…。
今持ってる棒くらいしか、真面に使えそうな物はなかった。こんな事なら、自分用の武器を貰っとけば良かったよ。。。。。
涙目になりながらも、ゆっくり横へ横へと体をずらす様に移動する。目指すは、崩落した隣の部屋?にある瓦礫の山。
先ほど音がした場所なので近づきたくないが、その瓦礫の端に刺さってる屋根材か何かの廃材が欲しいのですよ。
少なくともこのカッスカスの棒よりは、確実に叩けるだろう(折れないとは言って無い)
~・~・~・~
さっきの物音は何だったのか?…ゆっくり近付きながらも、注意深く耳を澄ませる。
垂木と呼ばれる屋根材だろうか?コッチでもそういう名前か、知らんけど。掴んでみた感触はしっかりしていて、見た目通りの強度はありそうだ。
慎重にゆっくりと瓦礫に足を掛けて、廃材を一気に引っこ抜く。
─ ザシッ パラパラ……
すぐさま腰を落とし息を止めて、付近の気配を探る…!
…他に物音は、しないな。
「ップハァ~… 」
一気に力が抜けた~。緊張で心臓の鼓動が、体全体に響いてるよ。
それになんだよこの格好。
泥まみれのジャージを来たおっさんが、カッスカスの棒と廃材で二刀流…こんなの真面に勝てる訳無いだろ!?
どんな魔物が居るか知らないし、ここが何処かも知らないし、現地住人は居そうに無いし、最初からクライマックス迎えてんじゃねぇよっ!
もう、画面に被せてエンドロールが流れそうだよっ!
あ、エンディングテーマは『い○か…信じて』でお願いします。あれ大好きなんですよね~。
…って、やってられるかっ!
─ ドカッ !─ 思わず瓦礫にカッスカスの棒を叩き付ける。
その一撃で粉々になる…カッスカスの棒…
その時、明らかに瓦礫から別の音がした!
叩いた時の反響音とは違う。現に今もガタガタいってるし…
もう自棄クソの気分で、廃材改め熱血棒を両手で構え直す。
来るなら来い! 熱血棒で叩き切ってやる!
~・~・~・~
…あれからずっとガタガタモゾモゾ音がしているのだが、一向に音の正体が姿を表さない。
もう5分くらい経ってるだろうか。。。。
ちょっとずつ瓦礫の塊が動いてはいるのだが…多分、想像以上に土やら廃材やら苔やらが乗っかっているのだろう。
あ、漸くでっかい壁の破片が動いた。
その下の…あれは梁かな?その下敷きになっているヤツが、少し見えた。
多分… …スケルトンじゃないかな?骨しか見えないし。
ただ初めての魔物との遭遇なのに、全然恐怖とか湧いてこないな……。
むしろ、頑張って!諦めるなっ!…って、応援したい気分だよ。
~・~・~・~
この梁は、かなりの曲者だな。
やたら太くて重そうなのに、ソイツの上にさらに色々乗っかってる。
向こう側は、壁だったモノの基礎部分に食い込んでいるみたいだし。
この梁をどけるのは周りの瓦礫を殆ど取り除かないと、無理だぞ…。
……。今、オレは瓦礫の山の上に居る。
そして壁に空いた穴や崩れたところから、中腰で外へ瓦礫を少しずつ投げ捨てている。
気分は、消防か陸自のレスキュー隊だ。
倒すなり従魔にするにしても、発掘しないとお話にならない。
梁に掛かっている荷重を考えながら、瓦礫を撤去する。しかし、全てを取り除くのは無理だ…日が暮れてしまう。
なので、基礎部分に刺さってる方の反対側を重点的に撤去している。ずらす事が出来れば、隙間が空く筈だ。
その間も、スケルトンは頑張って手の届く範囲の瓦礫を押し退けたりして、動ける範囲を少しでも拡げようと、涙ぐましい努力をしていた。
~・~・~・~
少しずつ少しずつ、瓦礫を動かす。時々背伸びをして、腰を回してストレッチ。
こんなに体を動かすのは久しぶりだなぁ…。
運動不足のせいか、最近あまり体の調子が良くなかったんだよな。体が重いと言うか…なんと言うか…。
─ ガシッ ─
足元を見下ろすと、うつ伏せのスケルトンが必死に手を伸ばして靴先を掴んでいた。
「よっと。」 ─すぐに振りほどく。
足首ならともかく、先っぽだけ掴んでもねぇ。
でも、だいぶ動ける様になったなぁ。最初は上腕?と肩の辺りしか見えなかったのに、今は左側の上半身が露出して左手だけなら自由に動かせる様になった。
頭はまだ、梁と瓦礫と床板だったモノに挟まれてあまり動かせないが…。
これなら鎖骨と首の間から手を突っ込んで、魔核に触れるかな?
でも位置的に、噛まれそうなんだよな…。この熱血棒でも噛ませてみるか?
「はい。あ~んして。」 左手を踏んづけた状態で膝を付き、顔を近付けてみる。
『カタカタカタッ!』
ちょっとビックリした。こんな間近で頭蓋骨なんて見ないし、しかも活発に顎を揺らしてると、ちょっと怖い。
「あ~ん」 ─ ズボッ ─
よしっ。しっかりと熱血を噛み締めるがいい。
アガアガ言ってるのを無視して、首の骨?に沿って左手を突っ込む。
─ よく見えないな。顎が邪魔だ。
熱血棒を横から押して上を向かせる。
─ あ~、もうちょっとだな。なんか骨じゃないモノに触った気がする。
「コレだっ!」
微妙に陰になって見えにくいが、明らかに骨では無い黒い塊がある。
握りこんでみたところで、ハタと気が付いた。
「…どうすればいいの?」
よく考えたら、スキルの使い方が解らない。
え~っと、魔力の効果でウンタラカンタラなんだから…。
取り敢えずイメージだ、イメージ。目を瞑って、左手に力が流れ込むイメージをする。
……。
……。
……。 ─ カタカタッ ─
─ っだあぁぁー!集中の邪魔をするなあぁぁっー!!
魔術やスキルの使い方は、あの白い世界で学ぶんです。
…そうです。球体君、やらかしていたんです。
でも、これだけは信じて下さい。悪意は無いのだと。残念なだけなんだと。
ところで現実では、日付が替わって七夕ですよ。
短冊無しで、願い事を思い浮かべるだけじゃあダメなんでしょうかね?




