俺様ゾンビはお莫迦がお好き 4
「だからこうして、お前の傍に居るだろ」
そう言ったら、香は俺の肩を平手で叩く。弱い力で。
「だから、余計嫌い…好きな子に未練残して死んだんでしょ?なのに、なんであたしの所にずっといるの?…ちゃんと、その子の所に行って優しくしてあげなよ…でないと、あんたがこの世に残った意味ないじゃない。逃げるなんて…あんたらしく…ない…」
“駄目だこいつ…ほんっとに、分かってねぇ”
この間、ご丁寧にキスまでして告白してやったのに、俺の惚れた相手が自分だってまだ解ってなかったのか。
俺のなけなしの勇気を今すぐ返せ。
こいつ、鈍いを通り越して真正の莫迦だ。
しかも俺を自分の傍から追いやろうとする。
“完全に、脈なしじゃねえか”
なのに、俺の顔の上に幾つも滴が落ちて来るんだ?
どうしてそんな悲しそうな顔して泣いている?俺の事が大っ嫌いなお前が泣く理由なんて、何処にも無いだろ?
「何泣いてんだ、お前は」
「泣いてない」
「だったら、この垂れ流れるモンは何だ」
「うぅ、鼻水が目から出る…」
「俺よりホラーじゃねぇか!」
誰がおもしろいこと言えなんて言ったよ。
香の目元を何度拭っても、どんどん溢れて零れ落ちるその涙が嫌だった。
「泣くな」
「だったら、もう好きな子の所、行って……でないと、あたし莫迦だから期待する…あんたの好きな子があたしだって…」
顔をあげて自分の掌で何度も涙を拭い、鼻をすすった後、香は又泣き出しそうな顔でそう笑う。
俺の頭の中は、何度も香の言葉がリフレインして思考が停止する。
“期待…?香は何言ってんだ?”
徐々に起動し始めた脳が導き出す一つの答え。
「…あんたがあたしに優しかったことなんてない…だから、そんな惨めな思いしたくない…最後くらい幼馴染として、あんたを笑って送り出したいじゃない」
俺の上から退こうとした香の腕を咄嗟に掴み、そのまま自分に引き寄せる。
逃したくなかった。
衝動のまま、香の後ろ頭に手を当てて口付ける。
力加減を間違えて、ぶつかる様な少し痛い色気のないキスだった。
「!ちょ、たす、く、ぅうんっ!」
驚いた香は俺から離れようともがいて俺に抗議の声をあげる。
その唇を塞ぐ。
微かに血の味がする。たぶん、さっきぶつかった時に香の唇が切れたんだ。
けど、衝動は止まらない。
今度は声もあげられない程、深く香の腔を貪る。
はじけとんだ理性は、香の抵抗などお構いなしで、身体を捩って逆に香の体を床にねじ伏せ、何度も角度を変えて唇を重ねる。
次第に弱まる抵抗と共に、キスの合間に漏れる香の苦しそうな吐息が甘い響きを乗せる。
「っ、く、る、し…ぃ…き、でき、な…」
ようやく聞き取れたそのか細い声に、俺はようやく香を口付けから解放する。
どちらの唾液とも解らず濡れた香の唇が扇情的に開き、香は大きく呼吸を繰り返す。
「な、なんて…エロい、ベロチュー、する、の…よ、あんたは…」
「俺はこれで酸欠になるお前の方が不思議だ…まあ、習うより慣れろだな」
キスの最中に息をする事さえ出来ない初心な香が、愛しくてしょうがない。
まだ大きく胸が隆起する呼吸のまま、俺の言葉を聞いた香はぼんやりとした視線で俺を見る。
「思いっきり期待して自惚れろ。お前だけの特権だ」
「はぁ?」
「お前を一人にはしない。親父さんの前で、お前にそう約束しただろ」
「…そ、そう…だけど……同情じゃ…ないの?」
ようやく俺の言葉を理解したはずの香が、驚きで目を見開いて凍りつく。この顔は、頭の中で情報が処理できずにパニックに落ちた時のそれだ。
俺は香の額に軽く唇を寄せた。瞼に、頬に、鼻に…そして唇に落とした口付けに、香は徐々に表情を取り戻して顔を真っ赤に染める。
「香、愛してる…お前は?」
「……好き」
俺の求めた答えとは違ったが、驚くほど素直に返って来た香の言葉に、俺はまた香にキスをする。
優しく何度も唇を重ねていくうち、次第に深くなる口づけ。
今度は香が息を忘れないよう、加減する。が、不意に香が俺を引き離す。
「ちょ、ちょっと、祐?」
「…何だ?」
「な、なんで…服脱がそうとかしてるの?」
「心配すんな。ゴムは持ってる」
「ば、莫迦っ!すぐそれとか、がっつき過ぎ!」
「お前、俺が何年我慢してきたと思ってんだ?これ以上待てるか」
突然怒り出した香だが、こっちはもう立派な臨戦モードだ。止まれる訳がない。
「祐の変態っ!鬼畜!色魔!」
「お前の初めては全部、俺が貰う。その先も全部、俺によこせ」
「あ、あたしに拒否権は!?」
「無い」
「勝手に決めるなーっ!人権侵害!断固拒否!」
「だから拒否権はねぇっつってんだろうが」
†
どうあっても餓鬼の喧嘩みたいになって、相思相愛になっても色気のない俺達の関係。
まったく、笑える話だ。
あ?この後?
聞くだけ野暮ってもんだろ。
END
このお話で、完結です。