第拾弐話 肆
木陰様の声が聞こえなくなると、酷い耳鳴りに襲われた。今までにない状況に、どうしたら良いのかわからない。
目を開いているのか、いないのか。真っ暗な世界に、私はいるようだ。
――華鈴。ゆっくり深呼吸をしてください――
シキの声が、意識の中で聞こえる。
シキなの? と、聞きたくても、何故か声が出ない。
――今、華鈴の意識は、現世と永世の間にいます。木陰様と会話をしたようですね。輪廻転生されたはずなのですが、一体どうやって……。それより、華鈴。ゆっくりと深呼吸を繰り返していてくださいね――
現世と永世の間にいる。
シキから告げられた言葉を、私は信じることが出来ないけれど、シキが言っているのだから、信じても良いのかも知れない。
ゆっくりと、何度も何度も深呼吸を繰り返す。
サギノマタはどうなったのだろう。
響希君も僚君も、まだ掘っているのだろうか。
掘っても月之盃は見つからない。『月之盃は永世に戻った』と、木陰様が言っていた。
もしも、まだ掘っているのなら、二人に伝えなければいけない。
***
目を開けると、以前に見たことのある天井が、視界一杯に映し出された。
「気がついた? りんちゃん、大丈夫?」
『かーりん! 大丈夫? お水飲む?』
「大丈夫だよ。ただ、身体に力が入らなくて」
僚君と人間姿の白牙が、心配そうな顔で、顔を覗き込んでくれている。
目を開いたところまでは良いものの、身体全体に力が入らない。
『ボク、シキを呼んで来るね。僚。あと、お願い』
「任せて。斑牙が下にいるから、呼んでくれる?」
『わかった。呼んでくる』
部屋を出ていき、聞こえてくる音でわかるほど、階段を軽やかに降りていく白牙。
私と違い、元気いっぱい。
「ねぇ、僚君」
「何? どうかした?」
「私、どうなったの?」
僚君が言うには、妖念感の能力で倒れてしまった私は、そのまま、意識不明の状態になってしまったのだそう。
木陰様は、神格の妖に限りなく近い妖力を持っているため、妖念感の能力での会話で、かなりの力を使ってしまった事が、意識不明の原因だろうと、シキが言っていたとのこと。
「サギノマタはどこ? 木陰様から言伝てを頼まれているんだけど……」
「シキと一緒にいるよ。あ、須崎さんのことは、心配しないで。シキが強制的に呪詛祓いしたから」
「それなら良かった」
「響希は帰っちゃった。まったく、嫌な奴だよ」
「疲れたんだよ。きっと」
「掘っても、月之盃は出てこなかった。ちゃんと埋め戻したけど、明日は筋肉痛で大変かもね」




