序話 参
「あの森に、雪村がいた事を聞いてもいいか?」
「昨日、学校から帰るときに白い狐を見たの。白狐なんて珍しいから、追いかけていたら、森の中に。それで、迷ったところを、月島君に助けてもらったというわけです」
「今日の放課後、その『白狐』。『シキ』って名前なんだけど、会ってみるか?」
「会えるの!? いいの!?」
「いつでも会えるはずだから。雪村さんが良いのであれば、森に行こう!」
「妖が見えるんだから、『紅蓮荘』にも案内する。森にいる妖たちは、本当は良い奴らなんだ」
それは良かった。食べられてしまうのかと、思っていたけれど、そうじゃないんだね。一安心。
胸を撫で下ろした瞬間、また新たな感覚が。
あれ?
なんだろう、この違和感。
「雪村さん? どした?」
「ん? ううん。なんでもない……。けど」
「ないような言い方じゃないぞ」
じゃあ、遠慮なく言わせてもらおう。
「私、二人に妖が見えることを話してないよ?」
二人の「しまった!!」という顔。
「あれだよ、あれ。ほら、勘ってやつ!」
「あー、腹減ったな。そろそろ食べないと、午後がもたない」
変なこと聞いたかな? この二人は、何だか面白いなぁ。でも、なんで私が妖を見える事を、知っているんだろう。
***
「あ、雪村さん。何処行ってたの?」
教室に戻ると、クラスメイトで、隣の席の松坂愛理さんが声をかけてきた。
「ちょっと、用があって」
「そっか。はい。音楽の教科書」
なんで、松坂さんが持っているのだろう。
「音楽室に、置いて行ったでしょ」
「あ! もしかして、私そのまま、教室を出ちゃった?」
「そういうこと。名前が書いてあったから、長谷川先生が届けてくれたの」
「ありがとう。松坂さん。長谷川先生にも、お礼言わなきゃだね」
「雪村さん、かなり律儀だね」
「そうかな?」
「そうだよ。お昼まだでしょ? 早く食べないと、昼休み終わっちゃうよ」
時計を確認すると、あと十五分。次の授業は、確か国語。予鈴が鳴るまでに、お弁当を食べなければ。
ところで、あの二人は、何処へ行ったのだろう。
教室に戻ってきている気配がないから、別の場所で食べているのだろうか。
あと十五分くらいで、昼休みが終わってしまうけれど。
「雪村さん? どうしたの?」
「え? な、何でもないよ?」
「そう? それなら良いんだけど。お近づきの印しに、飴あげる」