序話 弐
翌朝。何もかもが、いつも通り。体調も悪くない。
何事もなかったように家を出て、学校に向かった。
教室の中には、何人かのクラスメイトがおり、少しにぎやか。
窓側の自分の席に向かうと、机の上に二つ折りにされたメモ用紙が。鞄を机の脇にかけ、椅子に座ってから読んでみる。
『昨日の事で話しがある。昼休み、多目的教室に来てほしい 月島』
月島君からだ。月島君の席は、一列はさんで私の隣。もうすでに来ているようで、机に突っ伏して寝ている。
とりあえず、昼休みに話しをしよう。
四時間目は音楽で、移動教室。
授業が終わり、教室に向かって歩いていると、月島君に声をかけられた。
「雪村、今からでも大丈夫か?」
「今から? いいよ」
「わりぃな」
音楽室から多目的教室に、直接向かうことに。
「花里も来るんだ。多分、先に行ってると思う」
「花里君は、月島君の幼なじみなんだっけ?」
「そんな感じだな」
多目的教室に入ると、月島君が言っていた通り、花里君が来ていた。
「待ってたよ~! ってほど待ってないんだけど。雪村さんの事と、僕たちの事で、話そうか」
入り口近くの席に集まって座ると、話し合いの幕が開く。
「先に俺たちの事と、森の事を説明した方がいいよな」
「その方がいいだろうね。雪村さんに、わかってもらわないと」
月島君は深呼吸を一回行うと、話し始めた。
***
俺と僚。あ、花里な。
小さい頃から妖が見えるんだ。そのせいで、周りの人たちから気味悪がられてた。
妖たちは俺たちのすぐ側にいて、悪戯したり、なに食わぬ顔で歩いていたり。
人間の姿をした妖もいた。人間とあまり変わらない姿で、小学生の頃は道を聞かれたこともある。
普通に話してたのに、近くにいた人たちの目は、言葉がなくても語っていた。
そして気づくんだ。『あれは人間じゃない。他の人には見えない、妖なんだ』って。
俺にとって、妖と話すのはよくあること。普通の事なんだ。
周りの人から見れば、独り言を言っているだけに見えるかもしれないけど。
妖は嫌いじゃない。だけど、好きにもなれない。
***
僕なんて、中二の頃、妖の封印を解いたために、呪いをかけられた。
その妖は、厄神。力のある封印師によって、数百年前に封印されたんだ。
だけどその封印は、神社のとある枯木に、縄で護符を縛っただけのもの。
かなり強い妖力が、枯木を包み込んでいた。
偶然近くを通った僕は、妖力に身体を乗っ取られて、縄を切って、封印を解いてしまったんだよ。
護符から厄神が出てきて、妖力づたいに僕に、『わたしを封じた人間どもめ、お前たちを許さない。呪ってやる』って。
厄神は言い残すと、何処かに飛んで行ってしまった。
その呪いは、今は消えたけど、腕に呪いの痕が残っている。
妖が見える人にしか見えない、呪いの痕が。
僕も妖は嫌いじゃないし、好きでもない。複雑なんだよ。