Ep 4.『二人きりの勉強会になるはずだった。』
今回は、いつもの勉強会に少し変化が訪れます。
瑆の提案によって、勉強会の場所は学校から自宅へ。
果たして、二人はいつも通り勉強できるのでしょうか?
それでは、Ep 4をお楽しみください!
放課後。
今日も俺は、机の上に数学の教科書を広げていた。
目の前には甘城灯乃。いつも通りの勉強会……のはずだった。
「瑆くん、ここなんだけど」
「ああ、そこはさっき説明しただろ」
「えーっと……どこだっけ?」
「おいおい」
甘城は困ったように笑いながら、ノートを見つめている。
まあ、いつものことだ。
ただ、一つだけ気になることがあった。
教室の外から、ちらちらとこちらを見ている男子たち。
昨日の放課後の一件以来、どうにも視線が増えた気がする。
俺は別にいい。どうせ普段から目立たない存在だ。多少の噂くらい、放っておけばそのうち消えるだろう。
しかし、甘城は違う。
クラスの人気者であるこいつが、俺なんかと一緒にいるせいで変な噂を立てられるのは、さすがに申し訳ない。
「……なあ、甘城」
「ん? どうしたの?」
「ちょっと、勉強する場所を変えないか?」
「場所?」
甘城が首を傾げる。
「ここだと周りの目が気になるだろ。俺は別に構わないけど、お前まで変な噂を立てられるのは嫌だし」
「瑆くん……」
少しだけ、甘城の表情が柔らかくなった気がした。
「じゃあ、どこで勉強するの?」
「それは……」
ここで、俺は一つの案を思いついた。
学校以外で、落ち着いて勉強できる場所。
図書館も考えたが、わざわざ移動するのも面倒だ。
ならば。
「……俺の家はどうだ?」
「えっ?」
しまった。
口に出してから気づいた。俺、今なんて言った!?
「瑆くんのお家?」
「ああ。もちろん、嫌なら断ってくれていい」
「ううん! 嫌じゃないよ!」
甘城はすぐに首を横に振った。
「むしろ、いいの?」
「勉強するだけだ。別に変な意味とかはなくてだな…」
「ふふっ。分かってるよ!」
……本当に分かっているのだろうか。
こうして、次の勉強会は俺の家で行うことになった。
そして、約束の日。
「お、お邪魔します!」
玄関先で、甘城が少し緊張した様子で頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくてもいいんだぞ」
「そ、そう? じゃあ、お邪魔します!」
家にクラスメイトを呼ぶこと自体、ほとんどない。
ましてや、甘城灯乃が自分の家にいるなんて。
……落ち着け。今日は勉強をするだけだ。
「自分の部屋でやろうか。こっちだ。」
「うん!」
俺は甘城を自分の部屋へ案内した。
「わあ、ここが瑆くんのお部屋なんだね!」
「普通の部屋だろ」
「そうかな? なんだか落ち着くね!」
甘城は部屋を見回してから、机の前に座った。
「じゃあ、始めるか」
「はーい!」
教科書とノートを広げる。
いつもと同じ勉強会。場所が変わっただけだ。
……そう、場所が変わっただけ。
「瑆くん?」
「な、何だ?」
「どうしてそんなに緊張してるの?」
「してない」
「えー? さっきからちょっと固いよ?」
「気のせいだ」
余計なところばかりよく見ている。
「それより、昨日の続きだ。ここ、覚えてるか?」
「えっと……たぶん!」
「たぶんじゃ困るんだけどな」
俺がノートを指さすと、甘城は真剣な顔で問題を見つめた。
「ここは、こう?」
「そう。それで合ってる」
「やった!」
甘城が嬉しそうに笑う。
その顔を見て、俺は少しだけ安心した。
学校では周囲の目を気にしていたが、ここなら余計なことを考えずに勉強できる。
少なくとも、俺はそう思っていた。
「ねえ、瑆くん」
「今度は何だ?」
「ここ、もう一回教えてほしいな」
「ああ、いいぞ」
気づけば、最初に感じていた緊張も少しずつ薄れていた。
いつもより静かで、いつもより集中できる。
……悪くない。
そんなことを考えているうちに、時計の針はずいぶん進んでいた。
「今日はここまでにするか」
「うん! 今日もありがとう!」
「ちゃんと復習しておけよ」
「はーい!」
甘城は教科書を片づけ、玄関へ向かった。
「じゃあ、またね。瑆くん!」
「ああ。またな」
扉が閉まる。
ようやく一息つけた。
……ふう。
正直、思っていたより疲れた。
でも、甘城に余計な気を遣わせずに済んだのなら、それでいい。
俺はそう考えることにした。
そして翌朝の学校。
「おーい、瑆!」
教室に入るなり、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには恵が立っていた。
「何だよ」
「お前、昨日の放課後、教室にいなかったなー? 何があったんだ?」
……こいつ、よく見ているな。
「別に何もない」
「へえー? 本当か?」
「本当だ」
「ふーん……」
恵は何やら意味ありげな顔をしている。
頼むから、それ以上聞かないでくれ。
「余計なお世話だ」
……まったく。
俺の平穏な学校生活は、まだまだ遠そうだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は瑆の家での勉強会を描いてみました。
自分から提案しておきながら、いざ二人きりになると緊張してしまう瑆。
そんな不器用な一面も楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします!




