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全てを奪われたヒロインは転生悪女に復讐する  作者: 鈴木べにこ


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2.はじまりは希望に満ちて〜過去1〜

 3年前。



「お母さんあれが王都なのね!お城が見える!すっごく大きくて綺麗よ!」


「リリアったら窓から顔を出して危ないわよ。」



 ピンクの髪と瞳の愛らしい顔の少女は、馬車から顔を出し近付いて来る王都に胸を踊らせた。

 


「お母さん!私たっくさん勉強するわ!そしてもっと皆んなの役に立つような発明をするの!そしたら皆んなの生活は豊かになって皆んな幸せに慣れるでしょ?」



 少女の向い側に座る少女そっくりの母は幸せそうに頷くと少女はとびきりの笑顔で笑った。


 少女の名前はリリア・ナーシアス。


 数ヶ月前まで平民だったが母エミリアが男爵に見初められ再婚した事により男爵令嬢となった少女。


 男爵令嬢になるまでは小さな村で母子で貧しいながらも穏やかに過ごしていたが、平民の少女なら誰しも貴族の生活と都会に憧れを持つもので、母の再婚により降ってきた思わぬ幸運に喜んだ。


 そして今日からリリアは王族も通う有名な学園に通うのでワクワクとドキドキに胸を高鳴らせた。


 付け焼き刃ではあるが最低限令嬢としてのルールは身につけ授業の予習はバッチリだった。


 元平民という事でいじめられるのではないかと多少の不安があったが、リリアには発明の才能があり、皆んなを発明であっと言わせて認めさせる自信があった。


 だからリリアの未来は明るかった。


 と、思っていたーー。




 学園の校門の前で馬車は止まる。


 母の激励のハグを受けると、リリアはカバンを持って馬車を降りるとルンルン気分で門を潜った。


 リリアは門から校舎までの美しく長い道のりをキラキラした眼差しで歩く。



「わー!すっごい綺麗!絵本の中のお城みたい!」



 校舎の玄関が見えて小走りで近付くリリア。


 でもリリアの足はピタリと止まった。



 何故なら玄関の前には怖い顔で睨み付ける少年5人と、泣きそうな表情でこっちを見つめる少女1人が立っていたからだ。


 玄関の前に阻むように佇む男女6人対して、リリアは玄関に近付けなくて困っていた。



 その男女6人はリリアが今まで生きてきて周囲で見た事ない程に容姿が整った美しい人達だった。


 リリアはその6人にあった事もなければ誰かも知らなかったが、その6人はリリアを知っているかのように無言で負の感情をぶつけていた。



「お前がリリア・ナーシアスか。本当にピンクの髪と瞳なんだな、なんで乙女ゲームの俺はこんな女に攻略されたんだろうな。」



 6人の中心にいる金髪碧眼の少年が忌々しそうに口を開き、吐き捨てるように言った。



「ライアス様、どうですか?・・・ヒロインの事、その・・・。」



 金髪碧眼のライアスと呼ばれる少年の傍にいる黒髪紅眼の少女が不安そうにライアスを見つめる。



「大丈夫だよカテリーナ。あの女を見ても全く何も感じない・・・カテリーナが誰よりも愛しいままだよ。」


「ライアスッ!」



 黒髪紅眼のカテリーナと呼ばれた少女は感極まってライアスに抱きついた。



「安心してください姉上!僕も何も感じませんでした!むしろあの女に不快感しか感じません!姉上や僕たちに何かしようとするものなら容赦しませんけどね!」


「ルイス・・・!」



 カテリーナを姉上と呼んだ黒髪紅眼のカテリーナの弟のルイスの言葉にカテリーナはまたしても感極まっていた。



「魅了の類いの反応は検知されなかったが俺も何も感じなかった。でも用心に越した事は無い。いつでも俺はこの女を制裁する準備は出来ている。」


「アルベルト!」



 カテリーナは長い銀髪と紫目のアルベルトの言葉にも感激していた。


 アルベルトと呼ばれたその声には温度が無かった。


 まるで犯罪者を見張る魔術師のような目。


 リリアは訳も分からず身体を強張らせた。



「ったく、本当に普通の女じゃねぇか。こんなのに俺達が夢中になるとか、乙女ゲームの俺達どんだけ馬鹿なんだよ。」



 赤茶色の髪と目をした快活そうな少年が苛立ったように舌打ちする。



「油断は禁物です。」



 紺色に髪と目の知的そうな少年が冷静に口を挟む。



「ヒロインは接触しただけで攻略対象を魅了する可能性があります。距離を取ってください。」


「セドリックとノアも大丈夫なの・・・?」



  2人の少年に不安そうに聞くカテリーナ。


 赤茶色の髪と目の少年がセドリック、紺色に髪と目の少年がノア。



「俺は大丈夫!」


「僕も大丈夫です!念の為、攻略対象の僕らはこの女に近付かないようにしましょう!」



 セドリックとノアの2人の反応にまたしても感激するカテリーナ。




「攻略……たいしょう……?」



 知らない単語ばかりだった。


 リリアは困惑したまま小さく呟く。


 だがその言葉に、五人の少年達の目がさらに険しくなる。



「しらばっくれるな。」



 王太子ライアスが吐き捨てた。


 美しい金髪碧眼。


 絵画のように整った顔立ち。


 けれど向けられる瞳は氷のように冷たい。



「お前が何を企んでいるか知らないが、俺達は絶対にカテリーナを裏切らない。」



 その言葉と同時に、公爵令嬢カテリーナが不安げにライアスの腕へしがみついた。


 漆黒の髪。


 紅玉のような瞳。


 誰もが見惚れるほど美しい少女。


 けれど彼女は怯えていた。


 まるでリリアを本当に恐れているかのように。



「ライアス様・・・。」


「安心しろ、カテリーナ。」



 ライアスは優しく彼女の肩を抱く。



「俺達は絶対に君を捨てたりしない。」


「・・・っ!」

 


  カテリーナは目を潤ませてライアスをみる。

 

 ライアスはリリアに向き合う。



「俺達は決してお前を愛さない!消え失せろ!」



 空気が凍った。


 リリアはよく分からないが泣きたい気持ちになった。



「あ、あの・・・!」



 それでも必死に声を絞り出す。


 リリアは慌てて頭を下げる。



「私、皆さんに何か失礼を——」


「近付かないでください!!」



 カテリーナが怯えたように叫んだ。


 ビクリと肩を震わせるリリア。


 カテリーナは唇を震わせながらライアスの後ろへ隠れる。



「わ、私は・・・貴女に何もするつもりは・・・。」


「その手には乗りませんわ。」



 カテリーナは涙目で睨み返した。



「貴女はヒロインですもの。いずれライアス様を奪い、私を婚約破棄して破滅させるのでしょう?」


「こ、婚約破棄・・・?」



 ますます意味が分からない。


 リリアは必死に首を横に振った。



「そんな事しません!そもそもその方とは今日初めて会ったばかりですし!」


「白々しい。」



 アルベルトが吐き捨てる。



「ゲーム補正がある以上、お前自身の意思など関係ない。」


「だから最初に芽を摘む必要があるんだよ。」



 セドリックが睨みつける。


 完全に敵を見る目だった。


 リリアの喉が震える。


 怖い。


 でもここで逃げたら駄目だと思った。


 せっかく王都に来たのだから。


 せっかく学園に入れたのだから。


 仲良くなりたい。


 そう思った。


 だからリリアは無理やり笑顔を作った。 



「えっと・・・!よく分からないですけど、私は皆さんと仲良くしたいです!」

 


 空気が再び凍った。



「・・・は?」

 


 ルイスの顔が歪む。



「何言ってんだこいつ。」



 セドリックが鋭く睨む。



「図太いにも程がありますね。」 


 

 ノアが呆れる。



「やはり危険だ。」



 アルベルトが警戒する。



「お前の魅了は俺たちには効かない!」



 ライアスがリリアに宣言する。


 完全に逆効果だった。


 リリアは顔を青くする。



「あ、あれ・・・?私、また、何か?」



ライアスが冷たく告げる。



「いいか、俺達に近付くな!特にカテリーナに危害を加えれば容赦しない!」


「姉上!こんな奴ほっといて教室に戻りましょう。」


「そうね。」

 


 そして六人はそのまま校舎へ入っていった。



「・・・っ!」



 リリアは言葉を失った。


 取り残されたリリアに向けられる大量の生徒の視線。


 いつの間にかたくさんの人が集まっていた。


 ひそひそ声。



「あれが例のヒロイン?」

「カテリーナ様を泣かせた・・・。」

「怖い。」



 まだ何もしていない。


 本当に何もしていないのに。


 まるで悪人扱いだった。




 その日の初めての授業。


 リリアは誰も隣に座ってくれなかった。


 空いている席があるのに、生徒達は露骨に避ける。


 それでもリリアは笑顔を絶やさなかった。



「だ、大丈夫!最初は皆緊張してるだけよね!」



 自分に言い聞かせるように笑う。


 けれど。



「ねぇ見て。」

「ほんとにピンクの髪。」

「ヒロインって感じ。」

「男を誘惑するんでしょ?」



 聞こえる悪口。


 胸が痛む。


 だがリリアは負けなかった。


 昼休み。


 リリアは勇気を出して女子生徒達へ話しかける。



「あ、あの!よかったら一緒にお昼を——」


「ごめんなさい。」



 即答だった。



「カテリーナ様が嫌がるので。」


「・・・・・。」


「あと盗られたくないし。」


「え?」


「婚約者。」



 クスクスと笑われる。


 リリアは何も言えなくなった。


 結局その日、彼女は一人で昼食を食べた。



 次の日。


 リリアが教室で座っていると机に花瓶の水がぶちまけられいた。



「・・・あ。」



 教科書がびしょ濡れだった。


 周囲から笑い声が聞こえる。



「ごめんなさい!うっかり落としちゃって!」



 明らかにわざとだった。


 でもリリアは怒らなかった。

 


「だ、大丈夫です!」

 


 笑顔で濡れた本を抱き締める。


 そんな彼女を見て、周囲は逆に気味悪そうな顔をした。



「なんなのあいつ。」

「普通怒るでしょ。」

「怖・・・。」



 リリアは嫌われていた。


 理由も分からないまま。


 それでも彼女は頑張った。


 図書館で勉強を教えたり。


 重い荷物を運ぶ使用人を手伝ったり。


 転んだ生徒にハンカチを差し出したり。


 だが結果は変わらない。



「触らないで。」

「媚び売ってる。」

「攻略する気なんじゃない?」



 善意すら悪意に変換された。


 それでも。



「きっと誤解が解けるわ!」

 


 リリアは諦めなかった。


 毎晩母エミリアへ笑顔で話した。



「今日はね、図書館がすごかったの!魔導学の授業が楽しくて!」



 本当は辛かった。


 本当は泣きたかった。


 でも母に心配をかけたくなかった。


 だから笑った。


 笑い続けた。


 だが。


 その努力は。


 半年後の“発表会”で全て壊れる事になる。



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