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干支暦和は平凡な毎日と共にありたい。  作者: 朝水林次郎
懐かしの知人たちは久々に戯れたい
17/34

総集編 不気味な後輩は15年前を伝えたい。

この一連の出来事が連続して起きた原因は何かと言われたら、何と具体的に、具に伝えることはできないが、この日が関わっているということは確実である。


それに関していえば、多分周知の事実であろう。原因の追究はできなくても、概要の説明には欠かせない、そんな日であろう。


それは、決して俺が考えたからではなく、それこそ教授だって、寡黙な先輩だって、もしかすると不気味な後輩だってそういうだろう。

そんな日を今から紹介しよう。


一つ振り返ろうじゃないか。

なぜ、弥生さんと再会できたのか。解き明かす答えが、ここにある。


てへ☆カッコつけっちゃった。



「私、神になりたいんです!」

4月。小鳥がさえずり、仄かに暖かい風と野原一面に咲く綺麗なタンポポが、俺に春が来たと伝えてくれたらいいのになと思う今日この頃。


家の前は、いまだに雪が積もっており、融ける気配が全く感じられない。幸い、家から最も近い大学に通っているため、15分もかからず到着する。


よって、遅刻はあり得ないのだ。そして今日も講座まで時間があったため、自習室に向かった。自習室には、1席に1つ小さな黒板が用意されている。

なぜ置かれているのかは知らないし、使われているところも見たことがない。


しばらくすると、隣に年下であろう女性が座った。別に話しかける理由もなかったので自習に集中していると、隣から妙に視線を感じる。

ここで、視線の先に振り返ったとき、誰もいなかったらそれはそれで恐怖だがその彼女が見ていたらそれもまた恐怖である。


知り合いかな?しかし、この町にいたのは小学4年生までで、知り合いなんて人はいないはずなのだが…


「干支…暦和先輩ですよね!」

「え?は、はいそうですが?」

「やっぱりそうか!」

「な、なんでしょう?」

「私、神になりたいんです!全知全能の神に!」

「すみません、どちら様ですか?」


話に乗らなきゃよかったと思ったが、時すでに遅しだった。


「事故紹介します!」

「事故は紹介しなくていいよ。」

「事後紹介します!」

「終わった後じゃなくて、今してくれないかな!?」

「事後報告します!」

「ああ、とうとう報告になっちゃったよ…」

自己紹介まだかなぁ。


「私紅宮大学1年の河内冴姫です!冴えている姫で冴姫です!」

「そ、そうか。冴姫ちゃんか。」


河内冴姫に、「普段何しているの?」と話を変えると、「乙女の秘密です。」と返ってきた。無邪気で無垢で、あどけない笑顔で。「でも、ヒントなら差し上げます。親愛なる先輩に。特別ですよ?」まだあって一日もたってないのにこの距離感。正直怖い。


「まあ、簡単にそして端的に言うなら、そうですね~人助けですかね?」


後から聞いた話だが、彼女は人助けをするような人ではないらしい。

確かに、前向きな少女ではあるのだが、人に対する言葉のチョイスが、ドストレートなのだ。彼女もそれを知っている。

分かったうえで言っている。


だから、彼女が同級生の間で言われているあだ名『どS』は、サディストの意味ももちろんあるが、どストレートの意味もあるのだ。


したがって、彼女が人助けをしているとは思えない。自分がそう思っているだけで、相手にとっては痛いところを突かれてしまうということも可能性としては否定できない。


「言葉の選び方を間違えました!人助けではなかったです!すみません。私としたことが、冴えている姫であるこの私が、言葉を間違えてしまうとは…」


彼女が周囲から引かれている性格の一つがこれである。

自分の名前を愛すること、自分の名前に自信を持つことは悪いことではない(むしろいいことだ)が、彼女は度が過ぎている。

今思いついたのだが、『度』が『過』ぎている、で「どS」もあるかもしれない。


「じゃあ、なんて言うつもりだったの?」

「補助です。」

「補助?」

「はい。人の人生の補助です。」

黒板に『補助』の二文字を書く。


「別にそれって、人助けと何ら変わりないんじゃないのか?」

「先輩は、人助けのことを勝手に良いことのように考えていませんか?」

「勝手にというか、普通に良いことなんじゃないの?」

「確かに、荷物が重そうなおばあちゃんを助けるとか、しがないサラリーマンの落とし物を一緒に探すとか、そういうことは良いことをしたとなるかもしれません。」

「ねえ、しがないって言う必要あった?」


机をバンっと叩き、後輩は続ける。

「でもね、先輩。でもなんですよ。デモを起こしたいんですよ!」

「いきなりデモクラシーを始めるなよ!」

「いや、あのボケなのかツッコミなのかバカなのかはっきりしてくださいよ。第一に私が言いたかったデモは、いわゆるデモ活動のことです。そして、そのデモ活動のデモは、デモクラシーではありません。デモンストレーションの略です。」

「え?」


「やはりバカでしたか。ちなみに、デモクラシーは、民主主義という意味です。そんなこといきなり始められるわけないじゃないですか!」

「うう…」


「はあ。良くこの大学に入れましたね。じゃあ、話に戻ります。さっき挙げたことは、すべて相手が弱者であるのです。」

「弱者?」

「はい。たとえば、おばあちゃんなら、自分よりも力が弱い。サラリーマンなら、落とし物をしたという恐怖の心理から、精神的に弱くなっているのです。」

「なるほど。」


「この場合、弱者を元の道に戻すために、みんなと同じように生活できるようにするために彼らを導くということで助けるとなるため良いことをしたとなります。」

「確かに、それで補う助けるの補助か。」

黒板の二文字に、送り仮名をつけて、言ってみた。


「しかし、人助けになると話は別です。この言葉には、補うという言葉がありません。つまり、相手のことはどうだっていいのです。」

「別に誰もそこまで言ってないと思うのだが…」

「たとえば、さっきのおばあちゃんがその荷物で筋トレをしていたら、荷物を持ってあげたらむしろ迷惑ですよね?」


「うーん…」首をかしげてみたものの、いまいちわからない。

「でも、端から見れば、行為としては同じなので、助けるにあたります。これが人助けです。」


「そこまで思ってるんだったら、なんで間違えたの?」

「私がしていることは、人の幸せとかはどうでもいいので。」

チョークを元の場所に戻し、手をパンと叩き、粉を払って近づく。

「というと?」

「真実を知るというのは、必ずしも幸せとは限らないのです。」

「まあ、本当のことを知って、傷つくこともあるからな。」

「でも、知らないということは立場的には弱いのです。」

「立場的に、なあ。」

「知っているということは、言っちゃえば神に一歩近いということです。全知全能の神に。」

「そうなるのか?」時折見せる中二病的発言にドキッとする。


「いや、幽霊がいるんですから、神様だっているでしょ。」

「なぜ、いるって言えるんだい?」

「私、分かるんですよ。先輩を見てれば、何となく。」


顔を近づける後輩。さっきまであえて言わなかったが、黙っていればかわいいのである。それこそ、姫というだけあって。前髪を作り、後頭部でまとめてあり、まとめてある髪の下がまた何とも言えない魅力があるのだ。


「この髪型は、ハーフアップっていうんですよ。仲のいい女の子もいない先輩は知らないでしょうけど。」

「いや、幼馴染いるから。彼女は、その髪型しないだけだから。」

「…は?な、なに言ってるんですか?私に人生の補助をしてほしいんですか?」

「いやいやいや、別に幼馴染くらいいてもいいだろ?」

「じゃあ、信用ならないようなので、正直に人生の補助をします。」

「…は?何言ってるの?」


「その子」もう一度、チョークを持って黒板にどうやら名前を書き始めた。

『和泉弥生』

「ど…どうして。そ、その名前を…」


「だって、知ってますよ。あなたのことも。だから、最初にあなたに話しかけたんじゃないですか。入学式を終えて、最初に見かけたらあなたから興味深いものが見えたので。」

「意味が分からないよ、冴姫ちゃん。」


時計を確認して、「あと5分。」とつぶやき、今までの黒板に書いた文字を消し、振り返って右手を腰に当て、左手で俺を指さした。


「あなたの、その幼馴染とやらは、死んでいます。あと、ついでに言うならその妹である皐生ちゃんも。卯生ちゃんは…大丈夫みたいですよ。」

「私はこれで」とドアを勢いよく開けて颯爽と出て行った。

「何だったんだ?」

すると、1秒もたたずに、帰ってきた。


「言い忘れていました。15年前です!それでは!」


15年前?皐生ちゃん?誰だ?15年前ということは、10歳だ。その時、弥生さんは12歳。卯生ちゃんは、6歳だな。皐生ちゃんは…?


「俺が知らないということは、産まれてないってことになるな。」

しかし、名前が挙げられたということは、産まれるという事実はあったのだ。ともすれば、皐生ちゃんは、おなかの中にいたのかと推察できる。


「いやいや、雰囲気に流されたけど、もしかするととんでもない嘘かもしれない。」

それだと、とんでもなさ過ぎて、神経を疑う。精神科でも紹介するべきか?幸いにも俺の知り合いに元医者がいる。ツテがあるかもしれない。


その後、何事もなく授業を終え、サークルの部室に向かった。俺の所属するサークルは「霊界研究会」。まんまである。

この研究会には、俺を含めて3人いる。まずは、教授の如月大和。さっきの医者というのはこいつのことだ。


「おいおい、こいつ呼ばわりとは、ご挨拶だね~」

実は、同じアパートに住んでいる。

「まあ、俺は3階で、よみ君は2階だけどね。」


そして、もう一人。摂津文水(ふみ)である。彼女はすでに死んでいる。議論の余地なく、メモ書きのスペースもなく。何をどう解釈しても死んでいる。


「何もそこまで言わなくてもよいではないか。」

そして、この部屋が部室。10畳の部屋で、荷物はほとんどない。机やいすくらいだ。

「それで、何か用かい?こよみ君。」

「いい加減にしてくれ!俺の名前はよみかずだ!…まったく。河内冴姫って知っているか?」

「…冴姫か。もしかして、今後ろにいる子かな?」

「…え?」いやいやいや、そんな事あるわけがない。え?ほんとに言ってんの?

少し振り返ると、

「せんぱーい!また会えましたね!」

ニコッと輝く良い笑顔だった。


「な、何で…ここに?」

「何でって~先輩がいるからですよ!もしかして、私の話ですか?困ったなあ~」

にやにやが止まらない後輩。

「でも、大和さん。私はもうこよみ君の物ですから!」

一応教授である人に向かって堂々と指をさして、仁王立ちになった。


「おやおや、まだ一言もしゃべってないのに振られちゃったよ、こよみ君。」

「だから、よみかずだって言っているだろうが!」

「こよみ君もマナーに関しては人のこと言えないと思うなあ。年上なのに名前呼び捨てだし。」

「お前、名を名乗れ。」

文水さんが、重い口を開けた。


「失礼しました!私、河内冴姫と申します!そちらは、摂津文水さんですよね!」

「な、なぜ私の名を…」

「だって、もう死んでいるじゃないですか。」

「…え?」いつ分かったんだ?


「私、神様になりたいんですよ。全知全能の神に。だから、死人の名前くらいは覚えますって!」

「君は…何者なんだい?」

さすがにただ者ではないと悟ったのか大和が大儀そうに立ち上がり尋ねた。

「やだな~そんな怖い顔しないでくださいよ~」

「質問に答えなさい。」

「乙女の秘密です☆」

「質問に、答えろ。」

大和がいつになくイラついていた。否、イラつくというより、恐怖の方が大きかったのか?


「よみかず君。」

「だから、こよみじゃな…え?間違えなかった?」

「こいつは、ヤバいものに出くわしたな。」

「…どういうことだ。説明を求む。」

「とりあえず、逃げた方がいい。」

「それは…」

「では、正直に答えます。あなたに会わせたい人がいるんです。干支暦和君。あなたを待っている人がいます。」

「・・・え?」

「さあ、入ってください。」

全開になっていたドアのわきから、1人の女性が入ってきた。

「見ちゃだめだ!」


大和の声は遅く、その姿に俺は、見入ってしまった。

艶のある髪の毛。それを人にまとめて左肩に流す。くりくりした目に、おしとやかな口元。柔らかみのある胸。細いながらも、しっかりとした腕。すらっとした足。様相はまさに、聖母以外の言葉が見つからない。しかし、見たことがある。つまり、全く見たことのない想像の産物ではなく、一度見たことある人のその後と取れるのだ。


「や、弥生…さん?」

何年ぶりかの再会に涙がこぼれる。やはり、弥生さんは死んでなんかない。

「ああ、見てしまったか。」

「どういうことだ、大和?」

「文水ちゃん、よく聞いてね。彼女、河内冴姫は夢を見させる死神だ。」

「うん?」

「つまり、それを見たものは現実には戻れない。」

「さあ、先輩。一緒に弥生さんの元へ行きましょう。」

「うん。」

「これはもうだめだ。」

「私は、どうすればよいのだ?」

「何もできないよ。むしろここで止めに入るのは危ない。本当に戻れなくなる。」

「いやでも、一度見たらだめなのではないか?」

「一つだけ、方法はある。」

「よみかず次第の方法か?」

「そうなる。」


「じゃあ、せめてあいつのよだれだけ拭いてもいいか?」

「別にいいよ、というかよだれ?どういうこ…うわあ。」

一人の女性に対し全身を嘗め回すように見つめ、久しぶりの再会をこの目にしっかりと焼き付けようとするあまりよだれが止まらなくなった25歳がそこにはいた。


「先輩、さすがに私でも引きますよ?」

「大和、こいつを車で轢いていいか?」

「文水ちゃん、こんな男に惹かれないでね?」

「揃いもそろって言い過ぎだ!」

「それくらいのことをしているんだよ!」

文水さん、大和、冴姫ちゃんが声をそろえた。出会って初日とは思えない息ぴったりのセリフだった。


「じゃあ、俺行ってくるよ。」

「気をつけてね~」

「おい、大和。そんな軽く送り出していいのか?」

「大丈夫だよ、こよみ君なら。ちゃんとわかってるって。」

「ホントか?あの顔で?」

「信じるほかないよ。」

「そうか。」


こうして、俺は弥生さんの住む町へ向かった。自分が陥っている状況を知らずに。何が起こるか分かろうともせずに。

「ちょろいですね、先輩。」


肩をちょんと叩いて冴姫ちゃんは微笑んだ。無邪気で無垢で、あどけない笑顔ではなく、意味ありげで意味深長な笑顔だった。




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