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魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》  作者: 昼ライス
Season 1 ~ヒーロー誕生~

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第22話 再来

毎日20時投稿

朝の空気はまだ少し冷たかった。


東京湾岸。


有明の物流エリアでは、いつも通りの朝が始まっていた。


コンテナトレーラーがゆっくりと走り、フォークリフトが金属音を立てながら荷物を運ぶ。


巨大なガントリークレーンが、静かに動いていた。


作業員の一人がコーヒーを片手に空を見上げる。


「今日は天気いいな」


隣の男が笑った。


「この前みたいなの、もう来ないといいけどな」


銀座のニュースは、日本中に流れていた。


狼のような機械の獣。


そして、黄色い人影。


だが、この場所ではまだそれは遠い出来事だった。


その時だった。


空が、揺れた。


「……?」


最初に気づいたのは、クレーン操作室にいたオペレーターだった。


ガラス越しに見える空。


景色が歪んでいる。


まるで水面の向こうを見るように、空間が波打っていた。


「なんだ……?」


歪みはゆっくりと広がる。


そして形を持った。


球体。


透明な歪みの塊。


空中に浮かぶ、空間の裂け目。


オペレーターの顔が青ざめる。


「おい……」


無線を掴む。


「歪曲球体だ!」


その瞬間。


球体の中心が開いた。


次の瞬間。


黒い影が落ちる。


空から、何かが落下してくる。


轟音。


コンテナヤードの地面が砕けた。


鉄製コンテナが吹き飛び、トレーラーが横転する。


土煙が舞い上がる。


作業員たちが悲鳴を上げた。


煙の中から、それはゆっくりと姿を現す。


四本の脚。


長い尾。


鋭い頭部。


装甲に覆われた機械の獣。


狼型開拓獣。


高さ約十メートル。


赤いモノアイが光る。


低い駆動音が響いた。


「オォォン……」


その頭がゆっくりと動く。


コンテナ。


クレーン。


トラック。


そして――


人間。


すべてを観察するように見渡す。


一人の作業員が呟いた。


「……嘘だろ」


誰かが叫ぶ。


「逃げろ!」


その瞬間。


狼型が動いた。


信じられない速度だった。


地面を蹴る。


コンテナの側面を走る。


そして次のコンテナへ跳躍。


巨大な鉄箱が吹き飛び、トラックが横転する。


クレーンの脚が砕けた。


警報が鳴り響く。


港湾管理センターのスピーカーから声が流れる。


『侵略体出現!』


『全作業員、直ちに退避してください!』


だが、狼型は止まらない。


赤いモノアイが動く。


獲物を探すように狼型開拓獣が走る。


コンテナを蹴り飛ばし、トラックを横転させながら高速で移動していた。


警報が鳴り響く。


その直後だった。


地面から青白い光が広がり、コンクリートの上に、巨大な幾何学模様が浮かび上がる。


魔法陣。


六つの光点が円を描き、光の線がそれを繋ぐ。


次の瞬間。


光が弾けた。


空間が歪む。


そして――


人影が現れた。


黒い装甲服。


銃器を構えた隊員たち。


ARC部隊。


その後ろには装甲車両。


ミサイルランチャー。


自走砲。


重装備の戦力が、次々と転移してくる。


現場の作業員たちが呆然とそれを見ていた。


隊員の一人が言う。


「転移完了!」


装甲車両のハッチが開く。


神谷一佐が姿を現した。


周囲を一瞬で見渡す。


破壊されたコンテナ。


倒れたクレーン。


そして。


コンテナの山を跳び越える黒い影。


神谷が低く言う。


「サイズ」


オペレーターが答える。


「高さ約五メートル」


「狼型個体」


「銀座の侵略体と一致」


神谷の目が細くなる。


「……アダプト型」


その瞬間。


狼型が動いた。


コンテナの側面を蹴る。


垂直に駆け上がる。


そして跳躍。


次のコンテナへ。


隊員が息を呑む。


「速い……!」


神谷が無線を取る。


「全隊」


声は落ち着いていた。


「射撃準備」


ミサイルランチャーが角度を上げる。


砲口が狼型を捕らえる。


狼型が止まった。


赤いモノアイが光る。


ARC部隊を見ている。


観察するように。


神谷が言う。


「撃て」


次の瞬間。


轟音。


ミサイルが発射された。


白煙を引きながら一直線に飛ぶ。


しかし。


狼型が地面を蹴った。


高速で横へ跳躍。


ミサイルがコンテナに命中した。


爆発。


鉄箱が吹き飛ぶ。


隊員が叫ぶ。


「回避されました!」


狼型は止まらない。


コンテナの上を走る。


跳躍。


次の瞬間、クレーンの支柱へ。


まるで立体機動だった。


神谷はその動きを見ていた。


ただ速いだけではない。


――読んでいる。


砲撃。


配置。


動き。


すべてを。


神谷が小さく呟いた。


「……学習している」


その時だった。


隊員が叫ぶ。


「司令!」


「転移反応です!」


神谷が顔を上げる。


遠くの空間が歪み始めていた。


青白い光。


幾何学模様。


転移陣。


神谷は静かに言った。


「来たな」


隊員が聞き返す。


「何がです?」


神谷は答える。


「奴だ」


光が弾けた。




地下深く。


HIVEの中央格納庫は、静かな光に包まれていた。


巨大な空間の中央に、黄色い機体が立っている。


ヴェスパーが整備アームに囲まれながら、静かに待機していた。


その周囲では、いくつものモニターが青白く光っている。


突然、警告音が鳴った。


『警告』


『侵略体出現』


SARAの声だった。


リゼリアがすぐに顔を上げる。


コンソールの画面が切り替わった。


映像。


東京湾岸。


コンテナヤード。


破壊された設備。


そして。


高速で動く黒い影。


リゼリアの目が細くなる。


「……アダプト型」


その横で、悠真もモニターを見ていた。


狼のような機械の獣。


コンテナの上を跳び回っている。


悠真が呟く。


「銀座のやつか」


SARAが答える。


『外観一致率、九十七パーセント』


『同型個体と判断します』


リゼリアが画面を見つめる。


狼型は、ARCの攻撃を避け続けていた。


ミサイル。


砲撃。


すべてを回避している。


「やっぱり……」


リゼリアが小さく言う。


「学習してるのね」


悠真が振り向く。


「学習?」


リゼリアは頷く。


「過去の戦闘データを使ってる」


モニターに、銀座戦の映像が表示される。


ヴェスパー。


ドローン。


ネクタルレイ。


それらの戦闘ログが並んでいた。


リゼリアが続ける。


「この個体は」


「ヴェスパーを観測するために作られている」


悠真が画面を見た。


狼型は、攻撃よりも動き続けている。


まるで戦場を測っているようだった。


悠真が小さく息を吐く。


「……つまり」


「俺を見に来たってことか」


リゼリアは答えなかった。


ただ、モニターを見続けている。


その時だった。


SARAの声。


『ARC部隊、交戦中』


『戦闘継続』


悠真が振り向く。


ヴェスパーを見上げる。


黄色い装甲。


静かに立つ機体。


悠真が言った。


「行きます」


リゼリアが一瞬だけ目を閉じる。


それから言った。


「転移陣、準備」


SARAが応答する。


『転移座標設定』


『湾岸エリア』


格納庫の床が光った。


魔法陣。


六つの光点が浮かび上がり、幾何学模様が形成される。


ヴェスパーの足元を、青白い光が包み込む。


SARAの声が響いた。


『魂融合プロトコル起動』


悠真はヴェスパーを見上げる。


白と黄色の装甲。


静かに立つ魔導機兵。


複眼センサーが淡く金色に光っている。


悠真は小さく息を吐いた。


「行くぞ」


床の魔法陣が光り始める。


六角形の紋様が順番に点灯していく。


SARAの声。


『魂融合準備完了』


悠真が通信回線を開く。


「リゼリア」


一瞬の間。


「HEX CODEを要求する」


通信の向こうで、リゼリアが答える。


『了解』


短い沈黙。


そして。


リゼリアが静かに言った。


「HEX CODEを承認」


その言葉と同時に。


魔法陣が一斉に発光した。


SARAの声。


『HEX CODE確認』


『神谷悠真』


『魂融合承認』


黄金の粒子が舞い上がる。


光が悠真の身体を包み込んだ。


足元から、身体が光へ溶けていく。


重力。


音。


身体の感覚。


すべてが一瞬だけ消える。


SARAの声。


『魂融合開始』


視界が白く染まる。


次の瞬間。


意識が広がった。


自分の身体の境界が消える。


機体と一体になる感覚。


そして――


視界が開く。


金色の複眼センサー越しの世界。


ヴェスパーの視界だった


巨大な格納庫。


モニター。


リゼリア。


すべてが、機体の感覚として流れ込んでくる。


腕を動かす。


ヴェスパーの腕が同時に動いた。


悠真の声が響く。


「リンク完了」


リゼリアが頷く。


「転移準備」


格納庫中央の転移陣が輝いた。


巨大な魔法陣。


ヴェスパーの周囲を光が包み込む。


SARAの声。


『転移座標固定』


『湾岸エリア』


悠真が言う。


「ヴェスパー」


一瞬の間。


「出る」


次の瞬間。


転移陣が輝いた。


光が爆発する。


そして――


ヴェスパーの姿が消えた。


格納庫に静寂が戻る。


リゼリアはモニターを見ていた。


湾岸エリア。


ARC部隊の戦闘映像。


そして。


空間が歪み始める。


次の瞬間。


湾岸の戦場に、青白い光が現れた。




「来たな」


現れた黄色い人型機体、ヴェスパー。


ヴェスパーは片膝をついて着地する。


コンクリートが砕ける。


ARC隊員の一人が息を呑む。


「ヴェスパー……!」


狼型開拓獣が動きを止めた。


赤いモノアイが光る。


その視線は。


ヴェスパーへ向いていた。


観察するように。


神谷が無線を取る。


「援護する」


ヴェスパーが構える。


『……お願いします』


魔導変声機を通したヴェスパーの音声。


神谷は一瞬だけ目を細める。


そして頷いた。


「行け」


その瞬間。


ヴェスパーが走った。


コンクリートを蹴る。


人型機体とは思えない加速。


狼型開拓獣も同時に動いた。


コンテナを蹴る。


垂直に駆け上がる。


そして跳躍。


二つの影が空中で交差した。


ヴェスパーの腕が振られる。


スティンガーブレード。


鋭い刃が閃いた。


しかし。


狼型はそれを避けた。


空中で身体をひねる。


着地。


そして次の瞬間には、もう動いていた。


コンテナの側面を走る。


跳躍。


ヴェスパーの側面へ回り込む。


悠真が呟く。


「速い……!」


爪が振り下ろされた。


金属音。


ヴェスパーが後ろへ跳ぶ。


爪が地面を抉った。


コンクリートが砕ける。


狼型は止まらない。


次のコンテナへ。


クレーンの支柱へ。


まるで戦場全体を使っているようだった。


ARC隊員の一人が言う。


「なんだあの動き……」


神谷はその戦闘を見ていた。


狼型はただ速いわけではない。


ヴェスパーの動きを見ている。


距離。


攻撃。


タイミング。


すべてを。


悠真が再び突撃する。


スティンガーブレード。


横薙ぎ。


しかし。


狼型は後ろへ跳ぶ。


回避。


次の瞬間。


コンテナの上から落下。


ヴェスパーの背後へ、爪が振り下ろされた。


衝撃でヴェスパーが地面へ叩きつけられる。


コンクリートが砕ける。


ARC隊員が叫ぶ。


「ヴェスパー!」


悠真が歯を食いしばる。


「くそ……!」


狼型は距離を取った。


コンテナの上へ跳び乗る。


赤いモノアイが光る。


ヴェスパーを見ている。


戦うためではない。


観察するように。


悠真が呟く。


「……違う」


一瞬の間。


「こいつ」


「戦ってるんじゃない」


その赤い目は。


ヴェスパーの動きを追っていた。


まるで。


戦闘データを収集するように。


悠真が低く言う。


「見てる」


ヴェスパーが立ち上がる。


装甲に土埃が落ちる。


悠真が小さく息を吐いた。


「……SARA」


『はい』


「ドローンを大量展開してくれ」


『承知しました』


次の瞬間。


ヴェスパーの背部ユニットが開いた。


小さなハッチが連続して開く。


そこから飛び出した。


ハニカムドローン。


六角形の小型機体が次々に空中へ展開する。


十機。


二十機。


蜂の群れのように空へ広がった。


ARC隊員の一人が呟く。


「出た……」


神谷もその光景を見ていた。


ドローン群は旋回しながら戦場を囲む。


そして。


一斉に加速した。


狼型へ向かう。


低空高速。


複数方向からの同時ビーム攻撃。


普通の侵略体なら、避けられない。


しかし。


狼型は動いた。


跳躍。


コンテナの上へ。


ドローンが追う。


次の瞬間。


狼型の尾が振られた。


一機。


空中で砕ける。


続けて爪。


二機。


三機。


高速で落とされる。


悠真が目を見開く。


「落とした……?」


狼型は止まらない。


コンテナの上を走る。


跳躍。


ドローンが包囲する。


しかし。


狼型はその間をすり抜ける。


まるで。


ドローンの動きを知っているように。


リゼリアの声が通信に入った。


『悠真』


悠真が言う。


「見てる?」


『ええ』


一瞬の沈黙。


リゼリアが続ける。


『この個体』


『銀座だけでなく、これまでの戦闘データを使ってるみたい』


悠真が息を吐く。


「つまり」


「俺たちの戦い方を知ってるってことか」


その瞬間。


狼型が動いた。


ドローンの群れを突破。


一直線に走る。


目標はヴェスパー。


再び爪が振り下ろされた。


その瞬間。


轟音。


横から砲撃が走った。


狼型の進路の地面が、爆発により吹き飛ぶ。


狼型がすかさず跳びあがり、砲撃を回避する。


そしてコンテナの上へ着地した。


父の声が無線に響いた。


「ヴェスパー」


短く。


「援護するといっただろう」


ヴェスパーが立ち上がる。


悠真が言う。


『助かります』


神谷はすぐに命令を出した。


「第二小隊」


「左から回り込め」


「逃げ道を塞げ」


ARC隊員が動く。


装甲車両が展開する。


ミサイルランチャーが角度を変える。


狼型はその動きを見ていた。


赤いモノアイがゆっくりと動く。


まるで。


戦場を観察するように。


神谷が続けた。


「ヴェスパー」


「正面を抑えろ」


「こちらで包囲する」


悠真が短く答える。


『了解』


次の瞬間。


ヴェスパーが走った。


コンテナを蹴る。


跳躍。


狼型へ接近。


スティンガーブレードが閃く。


狼型が回避。


だが、逃げ場が少ない。


ARC部隊が周囲を固めている。


神谷が言う。


「今だ、押し込め」


ヴェスパーがさらに踏み込む。


狼型が後退する。


コンテナの上へ。


その瞬間。


狼型の動きが変わった。


一瞬。


戦場を見渡す。


そして。


次の瞬間。


狼型が大きく跳躍した。


予想外の方向、包囲網の外へと。


ARC隊員が叫ぶ。


「突破!」


狼型はそのままコンテナの山を越える。


そして。


再びヴェスパーを見た。


赤いモノアイ。


静かな光。


観察するように。


悠真が呟く。


「……まただ」


ヴェスパーを見ている。


逃げるわけでもない。


攻撃するわけでもない。


ただ。


観察している。


悠真が小さく息を吐いた。


「……いいだろう」


低く呟く。


「今度は逃がさない」


『悠真』


リゼリアの声。


『またデータが――』


悠真が言う。


「分かってます」


一瞬の間。


「なら」


「ここで仕留める」


ヴェスパーが構える。


右腕を上げる。


装甲の一部が展開した。


内部から、光が漏れる。


SARAの声が響く。


『ネクタルレイ』


『出力上昇』


空気が震え始めた。


魔導炉のエネルギーが集中する。


ヴェスパーの腕に光が集まる。


ARC隊員の一人が叫ぶ。


「来るぞ!」


神谷が短く命令を出す。


「全隊、退避!」


装甲車両が後退する。


隊員たちが身を伏せる。


コンテナの山の上。


狼型は動かなかった。


赤いモノアイが光る。


ヴェスパーを見ている。


悠真が言った。


「ネクタルレイ」


次の瞬間。


光が放たれた。


眩い光線。


一直線に狼型へ走る。


コンテナの山を貫く。


鉄箱が溶ける。


爆発。


衝撃波がコンテナヤードを揺らした。


煙が広がる。


ARC隊員が顔を上げる。


誰かが言った。


「やったか……?」


しかし。


煙の中。


黒い影が動いた。


狼型。


コンテナの残骸の上に立っている。


無傷ではない。


装甲が一部焼けている。


しかし。


致命傷ではない。


悠真が目を見開いた。


「……避けた?」


リゼリアの声が入る。


『違う』


一瞬の沈黙。


『予測した』


狼型のモノアイが光る。


そして。


ゆっくりとヴェスパーを見た。


まるで。


答え合わせをするように。


悠真が小さく呟く。


「こいつ……」


その瞬間。


狼型が跳んだ。


歪んだ空間。


歪曲球体が開いている。


狼型の身体がその中へ飛び込む。


そして。


消えた。


戦場に静寂が戻る。




コンテナヤードに、静けさが戻った。


煙がゆっくりと流れていく。


破壊されたコンテナ。


倒れたクレーン。


焦げた地面。


さっきまで戦闘があった場所とは思えないほど、突然の静寂だった。


ARC隊員が周囲を警戒している。


ミサイルランチャーがゆっくりと下ろされた。


一人の隊員が言う。


「……消えた」


別の隊員が答える。


「歪曲球体、消失」


神谷一佐はその場に立ったまま、戦場を見ていた。


ヴェスパーは少し離れた場所に立っている。


黄色い装甲の機体。


静かに周囲を見ていた。


隊員が神谷に報告する。


「侵略体、撤退した模様です」


神谷はすぐには答えなかった。


コンテナの残骸を見ている。


ネクタルレイが貫いた跡。


しかし。


そこに、狼型はいない。


神谷が小さく言った。


「撤退……か」


隊員が聞き返す。


「司令?」


神谷は視線を上げた。


「逃げたんじゃない」


短く言う。


「引いたんだ」


一瞬の沈黙。


隊員たちは顔を見合わせた。


神谷が続ける。


「あれは戦闘を終わらせた」


「目的を果たしたからだ」


隊員の一人が言う。


「目的……?」


神谷の目はヴェスパーを見ていた。


「観測だ」


静かな声だった。


「奴はヴェスパーを見ていた」


その時。


ARCの通信回線に音声が入る。


機械的に変換された声。


魔導変声機を通した音声。


『……敵、撤退を確認』


神谷は無線を取る。


「こちらARC」


短く言う。


「助かった」


一瞬の間。


「ヴェスパー」


ヴェスパーは答えなかった。


ただ静かに戦場を見ている。


神谷はそれ以上何も言わなかった。


次の瞬間。


ヴェスパーの足元に光が広がる。


青白い転移陣。


ARC隊員が驚いた顔をする。


光が弾ける。


そして。


ヴェスパーの姿は消えた。


再び、コンテナヤードに静寂が戻る。


神谷はその場所をしばらく見ていた。




HIVE。


地下格納庫。


青白い光が広がる。


転移陣。


次の瞬間。


ヴェスパーが現れた。


静かに着地する。


装甲から砂埃が落ちた。


光が消える。


その瞬間。


魂融合が解除される。


悠真の意識が元の身体へ戻る。


一瞬だけ、視界が揺れた。


床に立つ自分の身体。


目の前にはヴェスパー。


巨大な黄色い機体が静かに立っている。


悠真が息を吐く。


「……速すぎる」


格納庫の上層。


リゼリアはモニターを睨んでいた。


湾岸戦闘のログが並んでいる。


ドローン戦。


近接戦。


ネクタルレイ。


すべてのデータが解析されていた。


SARAの声が響く。


『戦闘ログ解析中』


『アダプト型行動パターン』


『解析進行』


悠真がモニターを見上げる。


「あいつ」


「やっぱり逃げたんですか」


リゼリアは少しだけ首を振った。


「少し違う」


モニターに戦闘の映像が再生される。


狼型。


赤いモノアイ。


ヴェスパーを見ている。


リゼリアが言う。


「観測していたのよ」


悠真が眉をひそめる。


「観測?」


リゼリアは頷いた。


「ヴェスパーの戦闘能力を調べてる」


モニターの画面が変わる。


銀座。


そして湾岸。


二つの戦闘データが重ねて表示される。


回避。


反応。


行動。


すべてが一致していた。


リゼリアが続ける。


「この個体」


「戦闘より」


「学習を優先してる」


悠真が呟く。


「つまり」


「次は……」


リゼリアが言った。


「倒しに来るでしょうね」


静かな声だった。


いつもありがとうございます。


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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


現在、別作品として

『不遇スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する』

というダンジョンファンタジーも連載しています。


意味不明と言われたスキル【球術】で戦う主人公と、鍛冶職の少女がダンジョンを攻略していく物語です。


もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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