表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想死記[Fantasy is Dead]  作者: 灰の色
3/3

団長の行方と竜の騎士

~クイント要塞作戦室~


アイルが戻ってきたことで報告を受ける傭兵団の面々

港町パストでの話を聞き、クロエが古い文献で見たという話を持ち出す


「ゾンビ??」

アンナはクロエに聞き返すとクロエが自信なさげに説明を始める

「はい、あの・・えぇっと・・」

注目が集まり、奥手で恥ずかしがり屋のクロエは萎縮してしまった


副団長であるイオリは優しくクロエを安心させる

「クロエちゃん、大丈夫よ」

「・・はい」

クロエは隣のアイルをチラと見る、目が合ってしまい顔を伏せる

アイルは自分に助けを求めているのかと思い肩に手を置く

「クロエ、続けてくれ」

「・・・うん、ごめんね」

アイルとクロエはほぼ同時期に入団したため、積極的なアイルに何かと助けられていた


「私が、ヴォードラン帝国の魔法科学術アカデミーにいた時の話しですが・・・帝国の大図書館にある・・宗教学の本か何かだったと思います」

「はい、それで?」

メガネを触りながらせっかちなアンナが続きを促すが、イオリが諌める

「もうアンナ、クロエちゃんのペースで話させてあげて」

「わかりました」

アンナはせっかちでサバサバとしているが、聞き分けの良さもある

「すみません・・続けますね・・その本によると、土葬された死者が土の中から蘇り・・・・生者を襲うというものでした・・・そして噛まれた者は同じようにゾンビになってしまう・・・確かそんな話だったと思います」

クロエの話にアンナは頷く

「なるほど、類似点がいくつかありますね・・まず死者が蘇るということ、そして生者を襲う、噛まれると同じように生者を襲うゾンビと呼ばれる凶暴なモンスターに変貌する」

「しかし・・この目で実際に見てみんことには、何とも言えねぇなぁ」

シグレはテーブルに肘を置き手の上に顎を乗せる

イオリは不安そうにアイルを見る

「アイル・・・」

「・・・・・・」

アイルはイオリが何を言いたいのかがわからなかったが、クレイグの事が心配なのだろうと思った


アンナが話を進める

「とりあえず、これからどうするかを考えなければいけません」

「決まってるだろ」

シグレが席を立つ

「シグレさん、どこへ・・」

「クレイグが生きてるかもしれないなら助け出す、それだけだ」

「ですが、パストはゾンビだらけですよ」

「潜入調査なら得意だ、任せてくれ」

「貴方の腕は知っていますが・・1人では」

「僕も行こう」

重騎士バルドルドが立ち上がる

「パストは海鮮料理が美味しいんだよね~」

この一言にバルドルドが話を聞いていなかったことを全員理解した

シグレはやれやれ、といった様子でバルドルドに座るよう合図する

「イオリ、副団長のお前が決めろ」

シグレはイオリを向き決断を促す


クレイグ、イオリ、シグレ、バルドルドの4人は傭兵団立ち上げの最初のメンバーだ

その1年後にはスレイとアンナがクレイグの要請により入団

この6人で長いあいだクレイグ傭兵団として大陸中に名を轟かせてきたのだ


イオリはしばらく考えたあと決断する

自分もクレイグの搜索に行きたい気持ちでいっぱいだったが、副団長として、今はクレイグの帰るべき場所を守らなければ、という葛藤もあった

「バルドルド、あなたには残ってもらいます」

「うーん、行きたかったな~」

「バルドさん・・そもそもあなたは大穴を登るのは大変でしょう」

「あぁ・・そうだったね」

アンナのツッコミにバルドルドは納得した

「代わりに、ソウザに行ってもらいます」

「ソウザと?」

「ええ、彼なら最適だわ」

シグレは少し困った顔をする

「あいつか~・・・何考えてるか分かんねぇからなー」

「でも、強いわ」

「はい、強いしカッコイイです」

「おいアンナ、カッコイイは関係ないだろ」

「ありますよ」

「ちっ・・・わかったよ、じゃあ行ってくるぜ」

アイルは普通に行こうとするシグレを止める

「ちょ、ちょっと待ってください、たった2人で行くんですか?今すぐ?」

「あぁ、早いほうがいいだろ」

「無茶ですよ、守備隊も壊滅したんですよ!」

「あー、アイル、勘違いするなよ、俺たちは何もゾンビを全滅させに行くわけじゃねぇ、あくまでも潜入調査、クレイグが生きてりゃ連れ帰るし、死んでたら・・・まぁそんとき考える、もっとも、クレイグのゾンビにだきゃ会いたくねえが」

「シグレやめて!」

イオリがいつになく激しい口調で怒るのを見てアイルは驚いた

「・・・わりぃ、冗談だよ」

「いえ、私の方こそごめんなさい」

「じゃあ行くぜ、ソウザは1階だったな」

ドアを開け作戦室を出ようとするシグレにイオリが待って、と声をかける

「シグレ、気をつけてね・・団長をお願い」

「はは、誰に言ってる、任せろ」

シグレは階段を1階へと下りていった


シグレが出たあと、すぐに戻ります、と言ってアンナも作戦室を出る

司会進行のアンナがいなくなったことで少し休憩になった


ソウザは数年前に任務から帰ったクレイグが突如連れてきた

いつも全身黒ずくめで何もかもが不明、普段からあまり誰とも喋らないが任務は着実にこなして帰ってくる男だった


旅立ちの前、アンナがソウザにお守りを渡す

「ソウザさん、これを」

「・・・・・」

「お守りです」

「・・・何故」

「魔法がかけてあり・・少しだけ防御力を高めてくれます」

「・・・・わかった」

「あの、ご無事で」

「・・・あぁ」

目と目が合う2人、恥ずかしくなりアンナは少し下を向く

「・・・行ってくる」

アンナからもらったお守りを懐に忍ばせ、ソウザはシグレの待つ玄関ホールへと向かう

その後ろ姿を見つめながらアンナは呟く

「どうか、どうか無事に・・」


「話は終わったか?」

「・・・・・」

頷くソウザ

「そうか・・・行くぜ~、死んでんじゃねぇぞ、クレイグよ~」

「・・・・・」

シグレとソウザはパストへ向けて出発した


作戦室に戻ったアンナにイオリが様子を聞く

「皆の様子はどうだった?」

「避難してきた人達はかなり落ち着いてきています、少しずつ話をする人も増えてきて、笑顔も見られるようになってきました」

「そう、良かった」

「いいのですか?見張ってなくて」

「大丈夫よ、皆大変だったんだもの、おかしな事なんてしないわ」

おかしな事、という言葉にアイルは急に不安に襲われる

ウタが襲われた時の事を思い出してしまった

「アイル君、大丈夫?」

「あぁ、クロエ・・うん、大丈夫だよ」


アンナがコホッと喉の調子を整える

「さて、これからのことですが・・・シグレ、ソウザ両名はパストへ、クレハ、ララの両名は王都で任務中、団長は行方不明、残るは我々6名です、イオリさん、指示を」

クレハは現在クレイグ傭兵団で売り出し中で、人気も高い双剣を操る女剣士だ、ララはまだ若く、アイルやクロエとは同年代だが、2人よりも先に入団しており、若くして弓の才能を見出された天才少女である


「そうね・・とりあえず、アイルは会議が終わったら少し休んでね」

「はい」

「それから・・避難してきた人たちにも部屋を貸し出しましょう、使っていない部屋も多いし、プライベートな空間は必要だと思うの」

「・・・・・それは、いろいろと問題があります、あまり動き回られると我々傭兵団の任務内容や機密情報が漏れないとも限りません」

イオリの提案にアンナは難色を示す

「では1階限定ではどうかしら、今までどうり2階より上は立ち入り禁止で、1階の空いている部屋を自由に使ってもらうのは」

「・・・そう・・ですね、1階だけなら問題はないかと・・」

「部屋割りはアンナに任せるわ」

「わかりました」


その後の会議では食料庫の見張り番にバルドルド、スレイが交代で立ち、アイルも回復次第、3人で交代制に決まる

アンナとクロエは配給係、イオリは全体を見ながら、シグレ班、クレハ班の帰還を待つ流れになった


「以上で会議を終わります、何か質問は・・」

アイルが手を挙げる

「アイルさん、どうぞ」

「えっと、イオリさん・・ロットさんやウタ、リーンちゃんは・・」

「そうねぇ、ロットにも私たちのこと、手伝ってもらえるか聞いてみるわ、あの様子だと、まだ王都に歩いていくのは大変でしょうし」

アンナはウンウンと頷く

「人手が増えるのは助かります」

「そうですね、ロットさんなら手伝ってくれそうですし」

アイルも相槌をうつ

「ウタちゃんとリーンちゃんの事は、クロエちゃん、お願いできるかしら」

「え・・・私ですか?」

クロエはキョトンとした目でイオリを見る

「ウタちゃんは丁度歳も、ララやあなたと同じくらいだろうし、きっとお友達になれるわ」

「は、はい・・・頑張ります」

帝国での魔術学生時代から友達の少なかったクロエに、ララ意外にもたくさん友達を作って欲しいというイオリの気持ちでもあった


「勇者と共に戦った金獅子コーネリア・・でしたね」

「そうよ、アンナ・・・その彼女に頼まれたの」

「そうであれば、特別に2階に部屋を用意しましょう」

「あら、どういう風の吹き回し?」

「もちろん少女2人では心細いというのもありますが、何より有名な人物に恩を売っておけば、今後の傭兵団の活動にもプラスになります」

アンナの眼鏡がキラリと光った

「それが本音ね」

「ですが大切なことです」

「う~ん、打算的なところが気になるけど・・そうね、そのほうが安心かしら」

イオリはチラッとアイルを見るが、アイルは何のことかピンときていない

その視線に気付いたのはクロエだった

クロエは何故アイルが安心するのか考え、その答えに想像を膨らましていた

「副団長、今日の会議はここまででいいですか?」

「ええ、アイルも疲れているでしょうし、ここまでにしましょう」


会議が終わり、作戦室を出たところでアイルはクロエに話しかける

「クロエ」

「アイル君」

アイルに呼び止められ、クロエはドキッとする

そこへコーネリアもやってきた

「アイル・・少し休みなさい」

「でも、ウタを・・」

「ウタちゃんとリーンちゃんは私が紹介しておくから、大丈夫よ」

「そう・・・ですか」


クロエはアイルがどちらかのことを気になっているのではないかと思い、持っていた魔道書をグッと抱きしめる

「クロエちゃん、行きましょうか」

「あ・・はい」

自分の部屋へと向かうアイルの背中を見送り、クロエはイオリについて1階に下りていった


1階の大広間ではいつの間にか、アンナが避難民たちの名前や職業を聞き、名簿を作成している

イオリは玄関ホールで寝ているロットの近くで寄り添う2人の少女に近づく

リーンはウタの膝に頭を置いて寝ているようだった

ウタは近づいてきたイオリを見上げる

イオリは膝まづき、ウタと目線を合わせ会話する

「リーンちゃん、寝たのね」

「・・うん」

「あなたは大丈夫?」

「・・うん」

「そう」

と言ったところでリーンが目を覚ます

「んん・・ウタお姉ちゃん」

起きたリーンは目から涙がこぼれていた

「あらあら、リーンちゃん大丈夫?」

「うっ・・ひっ・・だい・・じょぶ」

涙がこぼれて止まらないようだ

自分の生まれ育った村が地獄へと変わり、親と離れ離れになった時の光景が浮かび上がってしまった

イオリは鎧を脱ぎ、リーンを抱きしめ安心させる、リーンはイオリの胸に顔をうずめて泣きじゃくっている

「リーンちゃんは私が見ておくから・・クロエちゃん、ウタちゃんを案内してあげて」

「あ・・はい」


クロエはウタを見て思う

銀色の髪に真っ白い肌、目は大きく顔立ちも整っている、何故眼帯を付けているのかはわからなかったが、まるで帝国の図書館で見たおとぎ話のお姫様のようにクロエには映った

そして、アイルが気になっているのは、きっとウタのことなのだろうと・・・


「あ・・・私、クロエ・・・です」

「・・・ウタ・・・です」

「あ、えっと・・・着いてきてもらっても・・いいですか?」

「・・・うん」


イオリは2人の会話に不安を感じながらも、どこか嬉しそうに様子を見ていた

クロエは部屋に閉じこもって魔術の研究をしていることが多いため、アイルやララのように多くの人と話したり、もっと楽しいことに興味を持ってもらおうと思っていたのだ

リーンの頭を優しく撫でながら、自分が母親に歌ってもらっていた子守唄を小さく口ずさむ・・・


クロエは何を話せばいいのかわからず、黙ったままついてくるウタを食料庫に連れてきた

食料庫の入り口にはバルドルドが腕を組み立っていた

「やぁクロエ、つまみ食いはだめだよ」

バルドルドは体も大きく、優しいことは知っているのだが、クロエは威圧感を感じてしまう

「あ・・いえ、あの・・この子を案内してて」

「そっかー、なら通っていいよ」

「はい」

2人はバルドルドを横目に食料庫に入る


「食べ物は配給制で、時間になると配られます」

「・・・うん」

「それで・・えっと、水はこっちの棚で、こっちは森で採れたポリンの実のジュース」

「ポリン?」

「あ、飲んでみる?」

「・・うん」

クロエはコップにポリンジュースを注ぎウタに手渡す

ウタはコップを受け取るとゆっくり口に運ぶ

甘い香りと共に、甘酸っぱい柑橘類の味が口の中に広がった

「美味しい・・・」

「でしょ?」

ウタの驚いたような表情に、クロエは喜ぶ

「ポリン、この森でしか採れない果物なんだって・・・だから私もここに来て初めて知ったの、アンナさんはこれを大量に作って、市場に流そうと思っているみたいで、あ、アンナさんていうのはね、この団のいろんなことを取り仕切っている人で、団長も副団長もとっても頼りにしているの」

途端にたくさん喋りだすクロエに、ウタは思わず少し笑った

「ふふ・・」

「あ・・・ごめんなさい」

クロエは急に恥ずかしくなり、俯いてしまう

ウタはクロエの手を取る

「違うの・・嬉しかったの・・・ごめんね・・私、あまり人とお話したことがなくて・・」

「そう・・なんだ・・・私もだよ」

「じゃぁ・・おなじだね」

「うん」

クロエはウタの手を握り返す

「えっと・・・ウタ・・ちゃん?」

「うん」

「私と、お友達になってください」

「・・・・・・・・」

返事がなく、クロエは思わず手を引っ込める

「あ・・ごめんね急に・・変な事、言って」

クロエの声が少しずつ小さくなっていく

ウタは引っ込めたクロエの手を取り、小さな声で返事をした

「私で・・・よければ」

友達になって欲しいと言われたことが初めてで、ウタは理解することに時間がかかり、どう言えばいいのかわからなかった

ウタにとっては初めて友達ができた瞬間だった


「嬉しいな・・」

クロエは嬉しくて、泣きそうになりながら体を少し弾ませる

「私とアンナさん配給係だから、ポリンジュースが飲みたくなったら言ってね」

「うん」

「あと、さっきこの部屋の前で立ってた大きい人はバルドルドさん、とっても強い人だよ」

「うん」

「奥にはキッチンもあるんだけど、任務で出かけることも多いし、みんな戦いは得意だけど、料理は苦手みたいで・・・あまり使ってないの」

「そうなんだ」

「ウタちゃん、できる?」

「ウタ、でいいよ」

「あ、じゃあ私もクロエって呼んで」

「わかった・・クロエ」

恥ずかしそうに自分の名前を呼ぶウタを見て、クロエも少し恥ずかしくなった

「料理・・少しなら・・お母さんに教わったから」

「そうなんだ、ウタのお母さんて・・どんな人?」

「・・・・優しかったよ」

「そっか・・」

黙るウタを見て、クロエは聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした

もしかしたらウタの母親はゾンビに食べられてしまったのではないかと

「ごめんね」

「ううん・・いいの」

「行こう」

「・・うん」

クロエはジュースの入った瓶を魔法陣の書かれた床の上に置いてあるチェストにしまう

「これは?」

「あ、これはね、食べ物や飲み物が腐らないように魔力で保存してるの、封を開けたジュースとか、腐らせたくないものがあったら、この中に入れてね」

「・・凄い」

「えへへ」

クロエは少し照れている

「これ、クロエが?」

「うん」

恥ずかしくなったクロエはウタの手を引っ張り食料庫を後にして、部屋を出たところで立つバルドルドの背中をツンとつついた

「おわっ!」

振り向くバルドルド、しかし誰もいない

不思議に思い目線を下げるとクロエとウタが見えた

「や、やぁクロエ」

「今、寝てました・・」

「あはは、わかる?」

「はい」

「・・・・・言わないでね」

「あの・・」

「うん?」

「ウタ・・」

クロエはウタをバルドルドに紹介する

「・・・・うん・・名前?」

「えっと・・」

ウタは心配そうにクロエを見つめている

「ウタは私のお友達です」

「おお・・そっか~、お友達かぁ、いいね、大切にしないとね」

「はい」

「ウタちゃん、クロエをよろしくね」

バルドルドはウタに手を差し出す

しかし手が大きすぎてウタは両手で親指を掴んだ

「ははは、じゃあ、お友達記念に2人にこれをあげよう」

バルドルドは腰のポーチから小袋に入ったクッキーを一枚ずつ渡す

「ありがとうございます、バルドルドさん」

「・・・ありがと」

「うんうん、仲良くね」

2人はバルドルドにお辞儀をしてバタバタと大広間の方に移動する

バルドルドはクロエが少しだけ明るくなったように感じた


大広間ではアンナが名簿を作成した後、大広間から繋がっている使われていない部屋に、親族や友人ごとに部屋割りを決めていた


「ここが大広間だよ、ここも皆はあんまり使ってないけど、私は魔法の練習とかしたり・・アイル君も雨の日はここで剣の練習とか、体を鍛えたりしてるよ」

「・・・うん」

クロエとウタの姿が見え、アンナがスタスタと歩いてくる

「クロエさん、どうしました?」

「あ、はい、ウタを案内しています」

「そうですか、ウタさん、私は法術師のアンナです・・・目は、どうしましたか」

アンナはウタの眼帯を見て怪我をしているのではないかと心配する

「いえ・・・これは、大丈夫です」

ウタは眼帯を触りながら答えた

アンナは眼帯をまじまじと見つめる

「これは・・なにかの魔力を感じますね、呪いでしょうか・・呪いの眼帯というのも珍しいですね」

「ア、アンナさん・・ウタが嫌がってます」

「あら、ごめんなさい、どうも興味を持つと私・・・コホン、ウタさん、怪我や呪いのたぐいで困ったことがあれば、いつでも私に相談してください」

「・・・」

ウタは何も言わずに頷いた

「どうやら怖がらせてしまったようですね、では、私はまだやらなければならないことがありますので」

「はい、アンナさん、お邪魔しました」

「邪魔ではないですよ、またいつでも来てください」

「はい」

2人は挨拶もそこそこに大広間から出て今度は2階に上がっていく


「2階に上がって右側には作戦室や作業場、倉庫と・・それとはまた別に武器庫もあるの」

「・・へぇ」

「武器庫には鍵が掛かっているから、自由には入れないけど、作業場では武器や防具の修繕なんかをやっていることが多いの」

「・・・うん」

「そしてこっち」

今度は反対側を向く

「こっちが私たちの部屋・・アイル君と私の部屋も2階だよ」

「・・そう」

「うん」

クロエはアイルの部屋の前に立つ

「ここがアイル君の部屋だよ」

「・・・そう」

「ホントは・・・私と一緒にウタの所に行こうとしてたけど、イオリさんに休めって言われて・・・休んでる」

「・・うん」

「あ、ウタとリーンちゃんの部屋も2階に用意してくれるって・・さっき大広間にいたアンナさんが言ってたよ」

「・・そう」

「うん、私の隣の部屋、空いてるから、そこになるかも」

「だったら・・いいな」

「ね、私の部屋、来る?」

「うん」


クロエの部屋に入る2人

「ごめんね、散らかってて」

バタバタと魔道書などを片付けるクロエ

「えへへ、ララちゃんにいつも怒られるんだ、部屋が汚いって」

「・・手伝う」

手伝おうとするウタを慌てて止めるクロエ

「いいよ、ウタは座ってて」

ウタをベッドに座らせて片付けを続ける


片付けながらクロエはゾンビに襲われた時の話をウタに聞く

「言いたくなかったら・・無理しないでね」

「・・大丈夫」

ウタは難破船を見つけてからロットの守る砦までの経緯を話す


「えっと、じゃあ危機一髪のところで・・・守備隊の隊長さんに助けられて・・ウタは宿屋に逃げ込んだ、そこからはアイル君と一緒なんだ」

うんうんと頷くウタ

「それでそれで・・・そう言えば、ウタが着てるのってドレスだよね、パーティーか何かの最中だったの?」

「ううん・・これは・・アイルが」

「え?アイル君・・・に、もらったの?」

クロエは少し複雑な気持ちになる

「違う・・」

ぶんぶんと首を振るウタ

「えっと、服が破れたから・・探してくれたの」

「あぁ・・なるほど」

少しホッとした自分に対して嫌になるクロエ

”私・・嫉妬してるのかな・・”


「クロエ・・大丈夫?」

ハッと我に返るクロエは慌てて取り繕う

「うん、ごめんね・・・大丈夫だよ」


コンコンとドアを叩く音が鳴り、アンナの声がする

「クロエさん、夕食の準備をしましょう」

「あ、はい、今行きます」

「・・手伝うよ」

「ありがとう、ウタ」

ドアを開け、アンナの後をついて歩く二人

食料庫に着くとバルドルドが立ったまま、壁に背中をつき寝ている

アンナが軽く咳払いをするとバルドルドはカッと目を見開いた

「バルドさん・・今寝て」

「ないよ!」

食い気味に返答するバルドルドに、アンナは「そうですか」、と一言

部屋に入り保存食を眺めるアンナとクロエ

ウタはバルドルドがまた寝落ちそうになっているのを見ていた


アンナはパストから避難してきた20人をこえる人数にどう配分しようか頭を悩ませる「しかしこれ・・配るのは大変ですね」

「・・そうですね」

「取りに来てもらって、ここで一人ひとりに手渡す事にしましょうか」

「はい、それがいいと思います」

それから食べるものと水を順番に取りに来てもらい、それを配っていく

途中、パストの民が配膳を手伝うウタの姿を見て一瞬驚いたような表情を見せたあとに、話しかけることもなく、何事もなかったかのように通り過ぎていくのをクロエは不思議に思った。


「う~ん」

配膳が終わるとアンナがメガネを外し天井を見上げる

「アンナさん?」

「いえ・・このままですと。ひと月は籠城できるほどの蓄えが・・もって一週間もないでしょうね」

「そうなんですか」

「ええ・・・やはり避難してきた人たちにも、何かやってもらわないといけませんね」

「・・・・はい」

「まぁそのあたりは私と副団長で決めるとして、クロエさん、ウタさんも食事にしてください」

「はい」

「あ、クロエさん、ウタさんには隣の部屋を使っていただいて大丈夫ですので」

「あ、ありがとうございます」

2人は顔を見合わせたあと、アンナにペコリとお辞儀をして、果物やナッツ、ポリンジュースを取り部屋に戻った


クロエの部屋で食事を取る2人

「避難してきたパストの人の中にウタの知り合いの人はいないの?」

「・・・・会ったことある人はいたけど」

「そう」

「話したことある人はいない」

「そうなんだ」

「・・・うん」

・・・沈黙が流れる

「そうだ、後でアイル君起きてたらご飯、届けてあげないと」

「・・そうだね」

「きっとお腹すいてるよね」

「・・うん」

「えへへ」

クロエはウタともっと仲良くなりたいと思いながら、微妙な距離を測りながら探っていく

それはウタも同じで、今まであまり人と接したことがないウタにとっては、少しでも会話のある今の状況がとても心地よかった、そう思う自分に対し、生まれ故郷のパストがあんなことになってしまった事に、どういう感情を持てばいいのか分からないでいた・・


この2人の小さな世界とは別に、この広い世界では刻一刻と事態は深刻化していた


港町パストへとクレイグの搜索に向かったシグレ・ソウザの2名は夜になり一層暗くなった森の中を走り抜ける

シグレは自慢の脚力についてくるソウザに、感嘆の音を上げる

「フッ・・もうすぐでバースの狩猟小屋に着く、そこで少し休む」

「了解」

クレイグとアイルが半日かかった足場の悪く勾配も激しい森の道をわずか2時間で駆け抜けた


「なんだこりゃ」

ボロボロに壊れたバースの小屋を少し離れた所から見てシグレは周囲を警戒する

いつの間にか小屋に一番近く、高い樹の枝に乗り小屋と周囲を見渡すソウザ

シグレはソウザの合図で安全を確認すると、小屋に近寄る

「そうか、そういやアイルの報告ではここで戦闘があったんだったな」

その言葉にソウザは思わず「早く言え」と言いそうになったが、黙っていた

シグレにはそういういい加減なところがあると、ソウザだけでなく団員ならほとんど知っている

大まかに言うとシグレだけではなく、クレイグにも似たような所があるのだが、それはまた別の機会に話すとしよう

「これがゾンビか・・・」

フレアの矢によって頭部を破壊されたゾンビの死体を見る

小屋の中も覗き、安全を確認して中に入る

「チッ!こんな死体だらけのとこじゃ落着いて休めねぇなぁ」

「・・・・・」

そう言いつつも、血のべっとりと散ったソファーにドカっと座るシグレ

「しかしソウザ、お前はアイルのことどう思うよ」

「・・・どう・・とは?」

「俺は準優勝のアイルよりも、あの時優勝した奴を入れるべきだったと思うがなぁ」

目を瞑るソウザ

「俺は見ていない・・話を聞いただけだから何とも言えんが、アイルの方が強かったのだろう?」

「まぁな・・」

「ならそれでいい」

「だけどな、わざと負けちまうってのが気に入らねえ・・それよりも相手のヤローの気迫・・負けるくらいならここで死んでもいいって、そんな気概のある奴の方が俺は好感が持てるぜ」

「なら2人とも入れればいい・・それだけだ」

「ブッッッ!ははははは!お前、おもしれぇな、確かにそうだな、何で1人しか誘わなかったんだろうな」

ソウザの思わぬ提案に声を上げて笑うシグレ

「まぁ、上位者は全て軍や城からスカウトもくるからなー・・」

シグレも昔同大会で優勝し、軍に入隊した経緯があった


ソウザは井戸から汲み上げた水を、マスクを外して飲みほした

「ふぅ・・だが、アイルは弱くない」

「んなこたわかってんだ」

「そうか」

「弱い奴だったら・・・今まで生きてた人間が急にゾンビになって、殺せるか?・・・特に知ってる奴だったらなおさらだろ」

「そうだな」

「だがあいつにはそれができた・・意識してたかどうかは知らねぇが」

「・・・・・」

「もちろん、そんなことを考える暇もなかったのかもしれないがな」

「そうだな」

「ソウザ」

「・・・・」

「お前は俺がゾンビになっ――」

「安心しろ、すぐ楽にしてやる」

「躊躇ねぇのな」

「してほしいか?」

「いや・・・安心した」

そう言うとニヤリと笑い、大きく息を吐き立ち上がるシグレ

「そういやお前、いつも単独任務ばかりだったな」

「・・・ああ」

「そのほうがいいか?」

「どちらでも」

「そうか・・・・・」

「噛まれるなよ」

「・・・・・?」

「お前を殺すのは大変そうだ」

「・・・お互い様だ」

「ははっ!!」

シグレは長年同じ傭兵団に身を寄せながらも、同任務に就いたことのないソウザと話す事によって、少しでも信頼関係を築こうと考えていた

それが目的の達成のために重要だと思ったのだ

「そろそろ行くか」

「・・・ああ」

「俺とお前の脚なら明け方前には着く、着いてからの行動は・・・まぁ着いてから決めるか」

ソウザはいつもどおり、ただ頷きマスクを口元に当てた


暗闇の中を駆け抜ける、ランカ王国王都の出身で、パストへは任務以外でも何度も訪れているシグレにとっては、少しの月明かりがあればどうということはない、ソウザは迷いなく進むシグレについて走る


クレイグ傭兵団のアジト、クイント要塞では皆が寝静まっっている夜明け前、シグレ・ソウザ両名はマルア大森林を抜けていた

「とりあえずあの砦を目指す」

シグレが見る丘の上にはアイルやロットが死闘を繰り広げた砦が見える

「あれは本来森からのモンスターの侵入を防ぐための砦なんだが、パストを一望できる位置にあるからなぁ、とりあえず砦の物見台から偵察するぜ」

「・・・わかった」

シグレは武器を取り出し短めの槍を2本、両手に装備する

「それは?」

「こりゃあ短槍のバルーチャ、組み合わせて簡単に1本にすることもできる槍だぜ、噛まれるとやばいってんなら、なるべく近寄らせない戦い方をする、長すぎると室内では振り回せねぇしな・・」

と言いながら1度1本にくっつけたバルーチャを一瞬でまた2本に分け槍を振るう

その槍の取り回しの洗練された鮮やかさにソウザも思わず目を奪われる「・・・・そうか」

「お前のは?」

「・・・俺はいつもこれだ」

ソウザは懐から何の変哲もないナイフを取り出す

「マジかよ」

「・・・やることは変わらん」

「そうだが・・・まぁいいか」

結局自分が一番使いやすい武器が一番いいのだ、それはシグレもわかっている


2人は身を低くし、武器を手に持ち砦に近づく

砦の周囲には人の気配はなく、ゾンビもいないようで静まり返っている

砦の鉄でできた扉は開いたままで、静かに暗闇の中、不気味に待ち構えているようにシグレには見えた

入り口で左右に分かれ中を覗く・・・・しかし夜の闇もあり真っ暗で中は何も見えない

しかし何かの気配を感じ取ったシグレは、自分が先に入ると合図を出し、足を一歩踏み入れようとしたがソウザが止める

2人とも一言も発することなく、今までやったこともないアイコンタクトや手振りで、なんとなくお互いの考えを察していた


ソウザが懐から手に持っているナイフより、さらに小さいサイズのナイフを取り出し、ナイフに闇の精霊の加護を宿す

精霊の加護を得て青黒く発光したナイフを入口から部屋の真ん中に投げる


カンカラン・・・と乾いた音が鳴り響いた瞬間、音を鳴らし発光するナイフにゾンビが飛びつく、その瞬間シグレが突入し、瞬く間に2体、後頭部を貫く

ソウザは懐からナイフを投げ、シグレに向きなおすゾンビの即頭部に突き刺さった

一瞬で3体のゾンビを倒した2人、周囲を警戒するシグレに、まだ入り口付近にいたソウザが叫ぶ

「上!!」

吹き抜けの作りになっているため、2階、3階からゾンビがシグレ目掛けて降ってくる

「マジかよ!」

間一髪で避けていくシグレは、何を思ったかそのまま降り注ぐゾンビを避けながら階段に向かう

3階から落ちたゾンビは頭部が床に叩きつけられ、そのほとんどが動かなくなっていたが、2階から落ちてきたゾンビはダメージも気にせず、躊躇なく全力でシグレを追う

ソウザは後方から援護しようと考えたが、確実にトドメを刺したほうがいいと思い、落ちて動かなくなったゾンビの頭部にナイフを突き立てていく

ほとんどのゾンビがシグレを追って行ったため、ソウザもすぐに後を追った


シグレはちょっと細くなった3階の階段で振り返ると、ゾンビを待ち構える

一体目が飛びかかってきたところをまず左手の槍で腹を刺し動きを止め、次に右手の槍で頭に突き刺す

ゾンビを蹴って腹部の槍を抜くと次に備えて階段を少し上がる、倒したゾンビに足がとられてしまうのを防ぐためだ、様々な場所で戦闘をしてきたシグレは自然と自分が戦いやすい状況を作る

次に来るゾンビも同じようにパターンにはめる、一撃目を外すと一気に厳しい状況になるので、より狙いやすい胴体を突き、そして頭を突く

2体倒したところで今度は階段をまたあがり、3階の奥まで行く

これは長い時間同じ場所にとどまらない、シグレ流の戦い方だ

自分が有利な状況であっても、事態はすぐに変わる可能性があることを知っている、変わってからでは遅いのだと、自分で状況を作っていくというのがシグレという男だった

階段で視認できたゾンビの数は残り3体、シグレは奥の部屋に素早く駆け込むと、部屋の中に動く人影を発見した

月明かりはあったが、逆光で顔は見えない

暗闇に目は慣れてきてはいたが、ゾンビと思い槍を構えると

「ひっ」

という声が聞こえてきた

「誰だ!」

シグレは人影に声をかける

「すまねぇ、隠れてただけだ、許してくれ」

「生きてたのか?」

「あ、あぁ・・一緒にいた奴もやられちまって、動くに動けなくて」

「そうか」

「助けに来てくれたのか?」

「残念だがそうじゃない・・」

そこまで話したところで、すぐそこまでゾンビのうめき声と足音が聞こえてきた

「アアアアアアアアアアァァァァァァァ」

叫びながらドアに体当たりを始める

ドアは今にも破れそうだ


シグレは人影に向かって指示を出す

「お前、そっちを持て」

「わ、わかった」

ドアの前に、部屋にあった机を置きドアの耐久度を高める

「机を抑えてろ」

言われるがまま、人影の男は必死で机を抑える

シグレは2本の短槍を素早く1本に繋げ、机を抑える男の少し横に立ち構えた

机のおかげでドアの蝶番が外れるほどの壊れ方はしないが、徐々に腰よりも上の部分が破れ出す

「ウアアアアアアアアアア」

ドアの破れた部分から見える1体目のゾンビの頭に槍を突き刺す、ゾンビが崩れ落ちるとすぐに2体目、3体目が破れた部分から机の上を這い込んでくる

また一瞬で槍を2本に戻し、2体同時に頭に突き刺した


急激に静かになる砦内

「はぁ・・はぁ・・」

浴びた返り血を拭きながら、シグレは壁にかかる松明を見つけた

「おい、もう大丈夫だ」

「え?」

男は目を瞑り下を向いたまま机を抑えていた

力がフッと抜け、男はその場にへたり込む

「そうか・・・」

「生きているのはお前一人か?」

シグレは部屋の中を松明につける熱源を探しながら男に事情を聴く

「あぁ、多分・・な」

「そうか」

「な、何を探してるんだ?」

「いや、松明に火をつけようかと思ってな」

「そんなことしたら奴らが来るだろ」

「砦内のゾンビはあらかた倒したはずだがな」

「いや、街からでも明かりをみかけたら一気に押し寄せてくる・・かもしれん、やめたほうがいい」

「・・・そうか、まぁずっとここにいたあんたのほうが詳しいかもな」

「あぁ、俺は街から避難してきたんだが、避難民は皆王都に行くことになった・・でも俺はバカなことしちまったせいで、逃げ遅れてな・・相方もやられて、ここにずっと隠れてたんだ」

「何をやったんだ?」

「それは・・・・」

男が言いづらそうに目線をそらした所で、シグレはドアの前に気配を感じた

「ソウザか」

「・・・あぁ」

「何してたんだ?」

「部屋を見てまわってた」

「そうか・・・お前さ、助けてはくんねぇのな」

「助け・・いるのか?」

「はぁ・・もういい」

ソウザには言っても無駄かと思いシグレは諦めた


「それで、俺たちはこれから港まで行くが・・お前さんはどうする?」

「お、俺は・・とりあえずこの要塞で王都からの助けを待つ事にするよ、まだ探せば食料も少しはあるだろうし、下手に動き回るよりはいいかと思うしな」

「まぁ・・そのほうがいいかもな」

「あ、あぁ・・助けてくれてありがとうな」

「なに、たまたまだ、気にするな」

「あ、あぁ、あんた、名前は?」

「俺か・・俺はシグレだ」

「シグレ?傭兵のシグレ?」

「あぁ・・」

「そうか、噂通り・・強いんだな」

「ふっ・・・噂は所詮噂だ」

そう言い残し、机をずらして部屋を出る

「あ、そうだ・・この砦の入り口、開いてたから閉めといた方がいいかもな」

「わ、わかった、閉めるよ」

男はゆっくりと立ち上がった


シグレとソウザの2人は梯子を上る

「おいおい、マジかよ」

上った先の様子を見てシグレは驚きを隠せない

ソウザもその光景に、ここで何が起きたのか想像を巡らせていた

周囲には無残に散らばった死体や肉塊、そして血の水たまりがある


「これが・・そうか、アイルが砦の物見台で戦ったと言ってたが・・・このことか、突然変異のようなゾンビだったらしいがな」

「アイルが倒したのか?」

「ロットと協力して倒したらしい」

「ロット?」

「そうか、お前は知らないんだな、ロットというパスト守備隊の弓兵だ」

「・・・なるほど」

「しかしよぉ、この死体・・・なんか急に動き出しそうで怖いな」

「・・・・・俺が見張ろう」

「冗談だよ、動くならとっくに動いてんだろ」

シグレは街の方に目を向ける

夜だが街に明かりは一つも点いていない

灯台も暗く沈黙していた

月明かりだけが街を照らしている


「あれは?」

ソウザは街の上空を所在なさげに飛ぶ1頭の竜に気づいた

「なんだありゃ、暗くてよく見えねえが・・・形的には竜か?」

「・・・・ああ・・そう見えるな」

「もしかしたら王都から救援に来たテンペストかもな、気づくかどうか、やってみるか」

「・・・」

「ほれ」

「?」

「使えるんだろ、精霊」

「・・・」

「まさかウチの団員に精霊使いがララ以外にもいたとはな~、何で隠してたんだ?」

「隠してたわけじゃない、共に戦ったことがあるクレイグとアンナは知っている」

「そうかよ、まぁ頼むぜ、何かできるだろ」

「・・・気づくかわからんぞ」

「大丈夫だろ、テンペストの連中は優秀だ・・・しかし、3騎で1チームのはずだが、他はどうしたんだろうな」

シグレの疑問には答えず、ソウザはパスト上空の竜に向かって闇の精霊が放つ青黒い光をチカッチカッと瞬間的に照らす

シグレは竜の動きを見る

「気づいたか・・」

「わからん」


しかし2人の心配をよそに、竜はどんどんと近づいてきた、シグレ達のいる砦のほぼ上空まで来た竜は、急降下してくる

「おいおい、来るぞ」

「・・・ああ」

シグレ、ソウザは武器を構え、一応の迎撃態勢を取った

かなり広い作りになっている物見台だが、屋根もあるため直接には降りてこれず、竜を屋根の上に待機させ、乗っていた人物がシグレ達の前に降り立つ

ゾンビになっていないことはすぐに分かったため、シグレはゆっくりと武器を下ろしたが、ソウザは常にナイフを投げれる態勢にあった

その人物はゴーグル付きの兜を取る、するとショートカットに短く整えられた黒髪の、まだ幼さの残るようなあどけない顔つきで、まだ少女のようにも見える騎士だった


「良かったです、ここにもまだ生きている人がいたのですね」

少女のような騎士は少しホッとした様子でシグレに近づく

「待て」

シグレは全く警戒心もなく近づいてくる少女を手で制す

少女は驚き足を止めた

「テンペストか?」

「はい、私はテンペストのローズと申します」

ローズと名乗った少女は胸に手を当て、少しオドオドした様子でシグレとソウザを見る

「テンペストは3騎で1つのチームとして行動するはずだ、他はどうした?」

「それが・・・・・」

ローズは俯く

「やられたのか?」

その言葉にローズはビクッとして思わず顔をそむける

「そうか」

「ここには2チーム、6騎編成で来ていました。私、今年入隊したばかりで・・先輩たちも、優しくて・・・先ほど、街中は暗く、空からはよく見えませんでした、ですので・・・安全を確認しようと街の開けた場所に降りた直後でした・・異形と化した街の住民たちがたくさん、どこからともなくすごい速さで取り囲まれ・・・そこからは私はパニックで、先輩たちが戦っている中、訳も分からないままに私も戦わなければと・・・」

ローズは言葉に詰まる

「それから・・・・次々と仲間がやられていく中、隊長は私を逃がそうと、自分が噛まれながらも私を・・・竜に乗せ・・て・・うっ」

そこまで言うと、涙がボロボロとこぼれ落ちふさぎ込んだ

よく見ると返り血はいたるところについており、腕には擦り傷、鎧や兜も傷ついていた

「もういい・・わかった、休んでろ」

シグレは自分の持っていたハンカチをローズに渡す

「・・・・ありがとう・・ございます」


シグレとソウザは物見櫓に備え付けの望遠鏡を覗き込み、街の状況を見ている

その様子をローズは涙を拭きながら眺めていた


2人が街の方を指さしながら何事か相談しているので、ローズは2人のことが気になり、まだ力の入らない足取りで近づいた

「あの・・・」

「どうした」

ソウザは基本的にあまり人と喋らないのでシグレが答える

「ハンカチ、ありがとうございました・・洗ってお返ししますね」

「いや、いい・・やるよ、それよりどうした」

「あ、あの、先程はお恥ずかしい所をお見せしてしまってすいません」

「まったくだな、天下のテンペストも、こんなお嬢でも入れるくらいになまっちまったのかと思ったぜ」

「おい!」

ソウザは言いすぎだと、シグレの肩を掴む

「いえ、いいんです、そう思わせてしまった私の責任です」

ローズはそう言うと、涙で真っ赤になった目をキリッとさせる

「ふん・・・」

「私も連れて行ってください」

「はぁ?」

「街に・・行くんですよね」

「おいおい、悪いがお守りはできねえぜ」

「いりません」

「そうは言ってもお前」

「ローズです」

「ああ、ローズ、さっき仲間に助けてもらった命だろ、無駄にしたらそれこそ、その助けてくれた隊長さん、無駄死にじゃねぇか」

「・・・テンペストでは、仲間が死んだとき、その人間の認識票を持ち帰るのが決まりです・・・お願いします、きっと足でまといにはなりません」

ローズは頭を下げる

口は悪くても人は良いシグレ、頼まれると中々断れない所がある

「ちっ、自分の身は自分で守れよ」

「はい、仮にも・・私はテンペストの一員です、先輩たちの無念、少しでも晴らしてみせます」

「いやいや、その先輩達と戦う事になるかもしれねぇんだぞ、大丈夫か?」

「そ、そうです・・よね・・でも、先輩たちが異形となって罪のない人を襲うようなこと、させれませんから・・私が・・・止めます」

息荒く決意した表情のローズに、シグレは若い時分の姿を思い起こす

「ちっ・・しょうがねぇな」

シグレのその一言に、少しだけ認められたような気がしてローズは嬉しかった

「一つだけ忠告しとこう」

「はい」

「さっき、俺たちに最初会った時、相手が誰だかも知らずに不用意に近づきすぎだ、気をつけろ」

「え、でも・・生きてる人がいると思って」

絶望感の最中、ローズは生存者を見つけてつい安心してしまったのだ

「こういった混乱に乗じて街を荒らす賊の可能性もあるんだぜ・・気をつけるんだな、それに・・俺は武器を収めたが、こいつのナイフはローズ、近づいてくるお前を狙っていた、戦場ではもっと警戒したほうがいい、誰が味方で誰が敵かわかんねぇからな」

「は、はい」

自分の浅はかさに気づいたローズは、やはり2人が只者ではないと感じていた

「あの、2人はいったい・・」

「俺はシグレ、こいつはソウザ、傭兵だ」

「傭兵・・・ですか」

「そうだ」

「何をしにきたか・・聞いても?」

「・・・・・」

シグレとソウザは顔を見合わせる

「人探しだ」

そう言うと2人は梯子を降りていったので、ローズも慌てて2人の後を追う


砦内でしばし作戦を立てたあと、水分を補給し砦を出る、1階ではシグレが助けた男が松明を手に、厳重に入口の扉の前へバリケードを張っていた

「おい、これじゃ俺たち出れねぇじゃねぇか」

「あ、シグレの旦那、もう1人仲間がいたのか・・いや、裏口があって、そこはまだ鍵を開ければ通れるから大丈夫だ」

「そうか、じゃあ案内してくれ」

「わ、わかった」


裏口に案内される3人

「ここだ」

「よし、俺たちが出たら鍵も閉めていいぜ」

「でも旦那、いいのかい?」

「ああ構わん」

「・・・・」

先程は暗くてよく見えなかったが、松明に照らされた男の顔は酷く殴られた後のようだった

「お前・・ひどい顔だな」

「あぁ・・これは、自業自得だから」

男は少し気まずそうに頭を搔く

「そうか・・・じゃあ、行ってくる・・お前も達者でな」

「ああ、食料もまだあったし、ここには井戸もある、しばらく身を隠すよ・・もし戻ることがあったら裏口のドアを叩いてくれ、気づくはずだ」

「わかった」


シグレは裏口のドアを少し開け、外にゾンビがいないことを確認してソウザ、ローズに合図する

「ローズ、竜はいつでも呼べるんだろ」

「ええ、この竜笛を吹けばすぐに」

「よし、じゃあ手はず通りに頼むぜぇ」

「わかりました」

2人を残し、シグレは先に街に向かい闇の中へと消えていった


ソウザがローズに話しかける

「よく、信じる気になったな」

今まで喋らなかったソウザが急に話しかけてきたことでローズは驚いた「え?・・・・・どういう意味ですか?」

「俺たちが、君を囮に使おうと・・・利用しようとしているとは思わないのか?」

「ええと・・・そんなこと・・考えてもいませんでした」

「そうか・・純粋なんだな」

「は?な、何を」

ローズは顔が赤くなっていた

「では俺も君を信じよう・・行くぞ」

「え、あ、はい」

ローズは、シグレとは別方向に走り出すソウザの後を付いていく

走りながら物見櫓の上で待つ竜をチラッと見る

「プル・・待っててね」

竜の名をつぶやくローズ、プルと呼ばれた竜も櫓の上からローズを心配そうに見つめていた


シグレは砦内にあった武器庫から守備隊の弓矢をゲトり、2本の槍は背中に固定用ベルトで装備していた

街を囲むように立っている石壁に周囲を警戒しながら近づく、辺りは静かで、時折街の中からゾンビのうめき声が聞こえてくる

見つかれば即座に全速力で襲いかかってくるため、なるべく音も立てないように慎重に動くシグレ

灯台付近まで回り込み、足場を見つけ壁をよじ登る

何体かのゾンビが見え、すぐに伏せ隠れる、反応がないのを確認し、ゆっくりと顔を上げ水平に弓を構え、一番遠くに見えるゾンビから狙っていく

先に手前のゾンビを攻撃すると、一斉にこちらの方を向くのを避けるためだ、一体ずつ確実に倒していく

「ふぅ、久しぶりに実戦で弓を持ったが、いけるなぁ」

何とも言えぬ緊張感にシグレは心拍数が上がり冷や汗が頬を伝う

見つかれば終わりという恐怖が、シグレには心地よかった


矢で頭を射抜かれ倒れたゾンビの音に反応し、周囲のゾンビが集まるが反応がないと再び街を彷徨うように徘徊する


シグレは近くの屋根に上り街の中を観察すると、様々なことに気づいた

まずアイルから報告を受けた、屋根の上に取り残された人の姿はもうないということ、襲われたのか、逃げたのかはわからない、そしてゾンビ、徘徊する者、その場にただとどまる者、走り回る者もいる、それが人間であった時の人格が影響しているのかはわからない、しかしゾンビにも様々なタイプがあるということをシグレは感じ取っていた


灯台の入り口が見える範囲にまで近づくと、ゾンビの数が急激に増えてきた

「アイルの報告通り、灯台にゾンビが集まってんな・・」

その中のゾンビが一瞬こちらを見たように見え、すぐに隠れる

「やたら勘のいいゾンビがいやがんのか・・」

もう一度ゆっくり顔を上げると、ダン!という音と共に目の前にそのゾンビが現れた

そこからは一瞬だった、ゾンビの顎を下から左手で張り、掴もうとしてきたゾンビの指が体にくい込む、アドレナリンが出て興奮しているため痛みはあまり感じなかったが、あまりの力強さに体が引いてしまう

押し込まれそうになりながらも右手で持っていた矢をゾンビの頭に突き刺した

急にゾンビの力が抜け、ドタっと屋根の上に崩れ落ちると、灯台周辺のゾンビの群れが一斉にシグレを見る

「くそったれ」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア」

一気にシグレに向かってゾンビたちが叫び、動き出す、シグレは最早隠れても意味がないと立ち上がり、灯台の入口前に落ちていた鐘に向かい矢を連続で放った


一方、シグレが鐘に矢を放つ少し前、街の一番北東部分の外壁に張り付いていたソウザとローズは、シグレからの合図を待っていた

「ソウザさん・・シグレさんは大丈夫でしょうか」

「・・・・静かに待て」

いつ合図が来るかもわからない時に、話している余裕などないと、静かに集中力を高めていくソウザ

ローズはかつての幼馴染からもらったお守りをグッと握り、心を落ち着かせようとする


高まる緊張感に、戦場での経験が少ないローズは呼吸が速くなり、足が地に着かないでいた

「おい・・・深く呼吸をして周りをよく見ろ、視野を広げておけ」

「は、はい」

言われたとおり、ローズは大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐き出す、落ち着いて周りをよく見ると、目の前しか見えていなかったことに気づく

草木は風に揺られてサラサラと、空には月と星と雲、砦の方を見ると、櫓の上にはプルの姿が小さく黒い影のように、だがはっきりと見える

ローズは少しだけ勇気が湧いてきた


その時、カーン!カーン!と2階、鐘が鳴りゾンビ達のけたたましい叫び声が聞こえてきた

「合図です!」

ローズが言うより速く、ソウザは既に動き出し、外壁の上に伏せゾンビの動きを見る

慌ててローズも外壁の上によじ登り街の中を見ると、周辺のゾンビ達が灯台の方に走っていくのが見えた

「よし、作戦開始だ」

「はい」


ほとんどのゾンビ達が灯台の方に気を取られている間、ソウザはローズと共に街の一番北東にある、少しばかり離れた家に入った

中は暗く、静まり返っている・・・

ローズは音が鳴らないようにひっそりと動くが、自分の足音がとても大きくはっきりと聞こえるような気がしてなかなか足が進まない

ソウザはスッと気配を消し、音もなく奥の部屋に消えていく、焦ったローズは追いかけようと足を踏み出すが、何かにつまづいて転んでしまった

ガタっと音を出した瞬間、暗闇からゾンビが飛び出す

「アッ!」

攻撃も防御もできるような態勢になく、ローズは目を瞑り死を覚悟した・・・

しかし死は訪れない、恐る恐る目を開けるとソウザのナイフがゾンビの頭に上から突き刺さっていた


「・・・・・・・・・」

何も言わずまた奥の部屋に行こうとするソウザに、後ろから声をかけようとするローズに、ソウザは指を一本立て、自分の口元に当てた

静かにしろということは分かったが、助けてもらったうえ、お礼も言えない状況にローズはやるせない気持ちになる


家の中を捜索し誰もいないことを認め、砦内で用意しておいた小麦粉を2人で部屋の中に蒔く

「これでいいんですか?」

「十分だ・・・行くぞ」

ローズを外に出したあと、ソウザは少しの間1人部屋に残り儀式のようなものを行った

出てきたソウザにローズは何をやっていたかを聞くが、ソウザは「急ぐぞ」、と一言言うと、北の外壁沿いに港に向かって足早に歩き出した


シグレは鐘を鳴らした後、弓矢を投げ捨て見つかったゾンビたちから屋根の上を逃げ回って宿屋の2階の窓に飛び込んだ

窓ガラスが割れ、辺りに散乱する、手や背中にガラス片で傷ができ、出血もしていたがすぐに背中の槍を取り立ち上がる

シグレの後を追いゾンビも3体、同じ窓から飛び込んでくる、ゾンビが態勢を立て直す前に2体、頭部を突き、そして立ち上がりながら飛びかかってきたゾンビを横にかわし、振り向きざまに顔面を貫いた

窓際の壁に身を潜め、追撃してくるものがいないか、そっと窓から外を確認する、飛び込んできたのは3体のみで、後は下に落ちたり、まだ屋根の上でウロウロとシグレを探しているようだった

シグレはフゥっと一息つくと、視線を感じ廊下の奥を見る

すると扉の隙間からこちらを覗いている人影を見つけた

襲いかかってくる気配もないためゾンビでないことはすぐにわかったが、お互いに警戒しているようだ

「生き残りか・・そのまま大人しくしていろ」

そう声をかけると扉がギィッと開き、1人の老人が出てきた

部屋の中には他にも人の気配がする

「あんたは、助けに来てくれたんじゃ・・・」

「違う、人探しだ」

「・・・誰を」

「クレイグという傭兵だが・・知らんか」

「傭兵か・・・ワシにはわからん・・」

「そうか、邪魔したな」

「下に宿の女将がいる、聞いてみるといいじゃろう」

老人はゆっくりと歩き出し、1階に下りていく

その時、ドーン!!という爆発音と共に、建家がビリビリと揺れた

「な、なんじゃ・・何が起きたんじゃ」

「ソウザ、上手くやったか・・・じぃさん、時間がない、急ごう」

老人は驚きのあまり腰を抜かしていた、1階からはバタバタと音がして宿の女将が階段を駆け上がってきた

シグレは2階の窓から外を眺める、ゾンビたちは爆発のあった街の北東の家に向かって凄いスピードで集まりだす、港の方からもゾンビ達がうじゃうじゃと出てくる

「これは一体」

宿の女将がビックリした様子で問いかける

「心配するな、ただの陽動だ・・・それよりクレイグという傭兵を知らないか?」

「さぁ・・・見てないねぇ・・有名な傭兵の団長さんだろ?・・ウチの宿には来ていないよ、そもそもほとんど皆やられちまって、私が知る限り、今このパストで生きてるのは、ここか・・・灯台にいる人達だけだと思うよ」

女将は灯台を指さしながら街を憂いていた

「そうか・・・逃げるなら今がチャンスだぞ、灯台の連中にも教えてやるといい、砦まで逃げれば裏口をノックしろ」

「でも・・お年寄りもいるんだ、逃げるには厳しいよ」

「このままここにいても死ぬだけだ、今なら助かるかもしれん・・・・、まぁ自分たちで決めろ、俺は急ぐ」

「待っとくれよ・・・皆と話してみる」

「・・・分かった、早くしろ」

女将は宿に残った皆と相談して戻ってきた

「決めたか?」

「あぁ、決めたよ・・・あんたに頼みがあるんだ」

女将は決意を固めた表情をしていた


一方、北東の建家が粉塵爆発を起こした後、ローズはソウザと共に港へと向かっていた

ローズは自分たちテンペストが最初に降りた広場が気になったが、逸る気持ちを抑えソウザの後をついて外壁沿いを身を低くしながら走る

「はぁ、はぁ」

港に向かう手前の階段付近まで来ると、チケット売り場のような店舗の裏に身を隠す2人

「ゾンビ・・・と言いましたか、あの異形・・作戦通り爆発の音に引き寄せられて行きましたね」

「油断するな、動かぬ個体もあるかもしれん」

「はい」

「突然変異する個体もあると報告もあった、ここでシグレを待つ」

ローズはどこから襲われるかもわからない恐怖にまた襲われる、不安を払拭しようと竜笛を力強く握り締めた

「プル・・・隊長・・・みんな」


シグレは宿に残っていた人達と連携して灯台の入口を塞ぐ鐘を押しのけていた

「音が鳴らないようにな、少しずらせればいい」

「おおおおおおおお」

皆で声にならないような唸り声を上げながら精一杯入口から人が通れるだけの隙間が空くように鐘を動かした

シグレがドアを開けると、中にはまだ数十人の人が生き残っていた

「おお、お主はシグレではないか」

「グスタ隊長じゃないか、生きてたんだな」

「ガハハ、なんとかな・・さっきの爆発音はお主が?」

「仲間だ、今なら町を脱出して砦まで逃げれるはずだ、このまま南の外壁を越えて町の外から砦を目指すといい」

「わかった、シグレ・・・クレイグか?」

「そうだ、見たか?」

「クレイグなら奴らと戦うために港に向かった、それからは会っていない」

「わかった、しかし悠長に話している時間はないぞ、急ごう」

「そうか、こちらは任せろ、お前もクレイグを探したら砦まで来いよ、積もる話もある」

「・・そうだな」

グスタは町長と手短に相談すると、町長は全員に告げた

「皆、聞いてくれ、奴らがいない間に砦まで避難する、あそこなら井戸もある、水が飲めるはずだ、もうしばらく辛抱してくれ」

ざわざわと、少しだけ希望にわく人たちの表情と声が聞こえてくる

「グスタ隊長、頼む」

「任せてくれ」

グスタは指示を出し、皆動き出す

「よし、けが人は我々守備隊で運ぶ、後誰か力のあるもの、手伝ってくれ」


シグレが行こうとすると、宿の女将と町長が近づいてくる

「あのさ、あんた」

「シグレ殿、じゃったか?」

「あぁ・・どうした」

2人は何か聞きたそうにしているが、なかなか言葉が出てこない

「・・・・用がないなら俺は行く、仲間が待ってる」

「あ・・・あそこの砦に、ウタ・・という女の子はいなかったかい?」

「いや、あの砦には今男が1人だけだ」

「そうかい」

2人は振り返り戻ろうとした

「いや待て、ウタ・・と言ったか、その子ならウチの若い奴が連れてきたな、俺は直接見ていないが、そう報告は受けた、今俺たちのアジトにいる」

「そうかい、それならいいんだ」

「おお、無事だったか」

2人は安心した様子だった

「どうかしたのか?家族か?」

「・・・・いや、気にしないでくれ・・もう行くよ、引き止めてすまなかった」

「あぁ・・・大勢だと難しいかもしれんが、音を出さないように気をつけるんだな」

「そうだね、あんたも気をつけとくれよ」


グスタたち守備隊の生き残り数名が灯台の中にいた人達、そして宿からきた人たちを1人1人、灯台から南の街の外壁の上に上げ、外に逃がす

シグレは少しだけその光景を見守ると、港へと続く階段へ向かって急ぐ

「バルドルドやクレイグと違って、ソウザなら勝手な真似はしてねえだろうが・・・こう作戦通り、いや、作戦以上に上手くいくと、逆に嫌な予感がするぜ~・・・」

しかしそんな心配をよそに、ゾンビの姿は見えない

シグレは急ぐあまり、広場を走り抜けようとすると、そこには竜を貪り食べているゾンビが数体いた

シグレは慌てて止まるが、1体のゾンビに見つかり、ものすごい勢いでシグレに向かって特攻してきた

外さないよう十分に引きつけてから槍を顔面に突き刺すと、シグレはすぐに現状を把握

装備している鎧、そして数からローズと共にこの街に来たテンペストのようだった、残り4体、そのうち1体のゾンビからは羽が生えている、どれも正気を失ったおぞましい顔をしていた

「くそっ・・・認識票?これか?・・」

シグレは倒れたゾンビの胸からキラリと光るシルバーのタグのついたペンダントのような認識票を掴み取ると、そのまま勢いよく走り出した、ゾンビ達も唸り声を上げシグレを追いかける

「やっべぇなこれ」

全力で走るシグレは、息も絶え絶えでソウザ、ローズから見える範囲までやってきた


走ってくるシグレとゾンビたちを視認したソウザはローズに散るよう指示

そのままシグレを囮にゾンビを倒そうと考えた

「ローズ、左」

「はい」

ローズは一瞬左を向くが何もない、すぐに左のゾンビを任せるという事だったと理解し、売店から左翼に回る

シグレはソウザとローズが武器を構えたまま左右に分かれたのを見てなんとなく察する

「ウオッオオオオオオオオオオ」

ゾンビを自分に引き付けるため、シグレは叫び声を上げながら売店のカウンターから中に飛び込んだ

続けて飛び込んでくるゾンビ3体の内2体を左右からローズ、ソウザが対応する

ソウザは走ってきたゾンビの足を思い切りけたぐり転かすと、手持ちの比較的長いナイフを脳天に突き刺した

シグレは先に店内のカウンターの下に転がり込んで、続けて店内に飛び込み、転がり込んできたゾンビの大勢が整う前に頭部を槍で突いた

シグレ、ソウザはお互いに無事を確認すると、ローズを見る

ローズは自分と同じ鎧を着るゾンビを見て固まってしまっていた

「せん・・ぱい?」

「ローズ、動け!」

シグレは叫ぶと同時にローズを助けようと店内から外に飛び出す

ソウザはナイフを投げようとするが、翼の生えたゾンビの存在に気づき咄嗟に身を翻した


ローズは噛まれないように持っていた細剣のレイピアで防ぐ

先輩と呼ばれたテンペストのゾンビはローズの細い腕に指をくい込ませ、レイピアごとローズを噛み砕こうとする

「きゃあ!」

腕の痛みは緊張と興奮状態のため感じなかったが、勢いで押され後ろに倒れこむ

レイピアが手から離れ噛まれそうになったところでシグレの槍が横からゾンビの頭を貫いた


「はぁ・・はぁ・・大丈夫か?」

「は、はい」

「危なかったな、すぐに立て、構えろ、まだ終わってない」

「はい!」

ローズは自分が足を引っ張っていることに罪悪感を覚えながらも、さっきまで仲間だった者たちに剣を向けることにやはり抵抗が出てしまう

このままじゃダメだと自分に言い聞かせながら心を奮い立たせる

ローズは手放したレイピアをもう一度強く握り締めると立ち上がり、ゾンビから認識票を取る

「先輩」

ギュッと認識票を握り締めるとシグレ、ソウザの救援に向かう

「私だって・・・」


ソウザは突然変異したであろうゾンビを自分に引き付けるため、ナイフを投げながら港に向かって階段を下りていた

翼の生えたゾンビはその翼を羽ばたかせ追いかけてくる

空を速いスピードで動くため、ナイフもなかなか命中せず、手持ちの投げナイフはどんどん少なくなっていった


階段を降りるとそこには人間とゾンビの死体がたくさん転がっていた

アイルがクレイグ、ハルザックらと共に最初にゾンビ達と戦った場所だった


港のドッグ内部に入ると、ソウザは壁の松明に闇の精霊のチカラで火をつける

青黒く光る港内部、船も停泊しているがゾンビや人間の姿はない

ドッグ内なら石壁の天井があるため、空を飛びにくいだろうと誘い込んだのだが、天井や床、壁をダン!ダン!と飛び回り、余計に狙いがつけづらくなっていた

今までのゾンビと違い、真っ直ぐに噛みつこうと突撃してこないため、ソウザも攻めあぐねる

時折ソウザに向かって飛びかかってくるが、集中しきっているソウザはその攻撃を紙一重で躱す

そうこうしているうちに、シグレが追いついた

「ソウザ、大丈夫か」

「あぁ」

返事はしたものの、いつ飛びついてくるかわからないため翼の生えたゾンビから目が離せない

壁を跳弾するように、翼のゾンビは跳ね回る、シグレは着地際を狙うが、動きが早く思うように攻撃が当たらない

「うぉっと・・やべぇやべぇ」

飛んでくるゾンビの攻撃をシグレもまた紙一重で躱すが、既に体力は消耗し始めていた

「はぁ・・これじゃジリ貧だな」

「あぁ・・広場まで戻るか?」

「いや、まだローズがいる・・・」

「そうか」

そこへ階段を下りローズがやってきた、シグレは思わずローズに向かって叫ぶ

「来るな!!」

「!?」

その言葉よりも先にゾンビが壁を蹴りローズめがけて飛びかかる

ソウザは間に入り止めようとするがあまりの勢いに弾き飛ばされてしまう

「ぐあっ」

シグレも助けようと全力でダッシュするが、到底間に合いそうにない、しかしローズは落ち着いていた、もちろん焦る気持ちや恐怖心があったのだが、ある種感覚が麻痺してしまっているような状態だった

初めての任務、初めての戦闘、仲間を失うことも、ローズにとっては全て初めての経験なのだ

そこからの動きはシグレ、ソウザも驚く程だった、ゾンビの突進を床を転がるように一回転し躱すと、そのまま振り向きざまにレイピアを背中へと突き刺し壁まで押し込む

「あああああ!!」

レイピアはゾンビの体を鎧ごと突き抜け壁に刺さる

「よくやった」

シグレはすぐさま槍を1本に組むと、ゾンビを攻撃する

振り返ろうと悶えるゾンビだったが、レイピアが突き刺さったまま壁に押し付けられているため身動きが取れない

力を振り絞るローズ

シグレの槍が頭に突き刺さる直前、翼を思い切りバタバタと羽ばたかせ暴れまわり、ローズ、シグレ共に凄まじい風圧と勢いで後ろに飛ばされてしまった

「ぐあっ」

「きゃ!」

尻餅をついたローズにすぐさまゾンビが飛びかかる、まだ大勢が整っていないローズを見て、シグレは飛ばされた勢いで手放してしまった槍を拾うこともせずゾンビに横からタックルをくらわした

ソウザは先ほど弾き飛ばされた際に足を痛めてしまい、その足を引きずりながらも助けに入ろうと急ぐ

シグレはゾンビをタックルで倒したあと、馬乗りになり一心不乱に拳を振るう、ゾンビが暴れシグレのバランスが崩れ前のめりになった瞬間・・・・バランスを取ろうと手を前に突っ張ったシグレは、その瞬間左手に痛みを感じた

「ぐっ・・くそっ」

噛まれた!!

「シグレ!!」

「シグレさん!!」

3人の間に衝撃が走る

そこからの判断は一瞬だった、態勢を立て直したローズは仰向けのゾンビの額にレイピアを突き立て、力の抜け動かなくなったゾンビの上で呆然と噛まれた左手を見ているシグレ、そして痛む足を引きずり走り寄るソウザ

「シグレェ!!!」

シグレが自分の左手からソウザに視線を移した瞬間、ソウザは腰に装備していた手持ちのナイフの中でもひときわ大きなスカリーナイフという青黒いナイフを取り出し、シグレの左腕を肘から切断した

「ん?」

一瞬、何が起こったかわからないシグレは視線をまた左手に戻す・・・しかしそこに左手はなかった

「ソウザさん、何を」

ローズは慌ててシグレを守ろうと、盾になるようにシグレに覆いかぶさる

「違う、退け」

ソウザはローズを押しのけると、シグレの上半身を後ろから抱き上げ、目を塞ぐように顔に手を当てる

「少し眠れ」

ソウザは闇の精霊の不思議な魔法を使い、シグレを眠りにつかせた

「もし・・・これでダメなら・・殺すしかない」

切断した左手を見ながらソウザは言った

「そんな・・わた、私のせいで」

「泣いている暇はない、いつ他のゾンビが来るかもわからん、すぐに止血する」

「は・・はい!」

てっきり噛まれた時点でソウザはシグレを殺すのかと思ってしまっていたローズは、涙を拭ってソウザと場所を変わる

シグレの頭を自分の膝の上に乗せ、ローズはシグレの顔を見つめていた

ソウザはシグレの装備していた武器固定用のベルトを止血帯変わりに腕に巻くと、常に持ち歩いている救急セットを懐から取り出し、消毒をしたガーゼを切断面に当てた

手馴れた様子で処置を続け、最後に包帯を巻いていくソウザに、ローズは声をかける

「シグレさん・・何で私をかばって・・」

「さぁな・・本人に聞くといい」

「そう・・・ですね」

今日初めてあった自分を何度も助け、命をかけて戦ってくれたシグレに、ローズは感情が高ぶり、また涙がこみ上げてくる

「戦場で泣くな・・・・シグレならそう言うと思うぞ」

「・・・・はい!」

1度瞼を強く閉じ、溜まっていた涙を落とすと、ローズは気持ちを強く持ち瞼を開く


処置が終わり、シグレが眠る中ソウザは当初の目的であるクレイグの足取りを掴むため調査を始める、そこら中に横たわる死体は既にゾンビ達に中途半端に食い散らかされており中々判別はつきにくいが、クレイグのような大きな男の死体と思われるようなものはない

大きな死体もあるにはあったが、このパストの守備隊のものであろう鎧を着ているため、クレイグではないことが分かる

それどころかクレイグに切られ一刀両断されたであろうゾンビの死体はいくつも見受けられた

クレイグが横薙ぎの大振りの一撃で、群がるゾンビ共を真っ二つにしたあと、アイルや守備隊がトドメを刺していったと推察するソウザ

その時港と街をつなぐ階段付近でひときわ大きな壁の傷を見つける


ローズはシグレの頭の下に、自分の腰から下げていた小物入れを枕がわりに置いたあと、ゾンビとなったテンペストの認識票を集めていた

「これのために・・シグレさんを犠牲に・・・くっ」

なぜ自分は認識票に固執していたのか、それが掟だから?仲間が目の前で殺されたから?悔しかったから?違う、違う、違う・・・ただ、もう一度会いたかったから、現実を受け止めれず、本当はまだ生き残っている仲間がいて、助けを待っているかもしれないと・・・

でも・・・自分1人では怖かったのだ・・この人たちは強そうだ、一緒に行けば、もしかしたら救える仲間もいるかもしれない、そう思った・・・・

「私は・・・最低だ」

少し周囲を見回したあと、港へと続く階段を下り翼の生えたゾンビの倒れる場所まで戻る

「・・・・ルクミナ隊長・・・・・」

1つ認識票が足りなかったが、ローズにはもうそんなことはどうでもよかった

「部隊は壊滅しました・・・安らかに」

そう言うとテンペスト流の敬礼と一礼をし、少し離れた場所で眠るシグレの様子を見る

キラッと光るものがシグレのポケットから少し見え、まさかと思いローズはゆっくりと取り出す・・・・・それは認識票の残りの1つ、ローズと2年違いの先輩で、よくローズの面倒を見てくれていた隊員のものだった

「あっ」

ローズは、シグレがちゃんと認識票を取ってくれていたことに驚き、力が抜け膝から崩れ落ちた

シグレの右手を手に取り胸に顔を乗せ涙を必死でこらえようとするが、こらえればこらえるほど涙が溢れ出てくる


クレイグの戦いの痕跡を辿りながら、ソウザはその光景を見てため息をつく

いつゾンビ化するかもわからないシグレに、近づくことすら危ないというのに・・・・・

幸い他のゾンビのような土気色の顔をしておらず、静かに寝息をたてていた

咄嗟に思い立った腕の切断という機転だったが、噛まれたのが手のひらであったことが幸いであったとソウザは思っていた


「・・・・・重てぇな」

シグレが言葉を発すると、ローズは顔を上げる

「・・・なんだローズ・・・ひでぇ顔してるな」

「う・・ひぐっ・・シグレ・・さん」

眠りについてから10分弱、シグレは目を覚ましたのを見てソウザも近寄る

「ソウザ・・・お前、大丈夫か?」

足を引きずるソウザを見て、シグレは眉間にシワを寄せ心配している

「逆だろ、シグレ・・・あんたが大丈夫かどうかだ・・・覚えてるか?」

シグレは目を閉じると大きく息を吐いた

「ああ・・覚えてるぜ・・・ちゃんとな・・・・・以外と大丈夫だ」

ゆっくりと目を開けてソウザの顔を見る

「恨み言を言う余裕があるわけでもないんだろぉ」

「ふっ、まぁな」

「どうだった・・クレイグは・・」

「あぁ、アイルの言っていたというバケモノと戦った痕跡もある、ここで戦っていたのは間違いないようだが・・」

「それで?」

「それが、どうやらそのバケモンと共にこのドッグから海に落ちたようだな」

「そうか」

「クレイグの装備品と思われるものも海に浮かんでいた、落とされたのか、追いかけて行ったのかはわからん」

「ははは、やっぱり生きてやがったか、あいつが死ぬわけねぇんだよ」

「・・・・・・」

「おっと、そういやローズ、俺のポケットに・・・て、手、いつまで握ってんだ?まるで死んじまったみてぇじゃねぇか」

「あ、す、すいません」

思わず顔が赤くなり顔を伏せるローズ

「ポケットに、認識票?だったか、それっぽいもん、拾っといたんだが」

「はい、先ほどチラッと見えたので」

と言ってシグレのポケットから見えていた認識票をシグレの顔の前に出す

「私の、一番仲のいい先輩で、いつも面倒を見てくれていた人です」

ローズはそのシルバーの認識票を胸の前で両手でグッと握ると、ひとすじの涙がまたこぼれ落ちる

「すいません、私・・何か泣いてばかりで」

「ふん・・いい部隊だな」

「え?」

「俺のとこの団員たちは俺が死んでも誰も泣きそうにないな」

やれやれ、といった様子でシグレはそう言った

「俺が泣いてやろう」

ソウザがそう言うとシグレはすかさず

「よしてくれ、気持ち悪い」

と言い返す

「気持ち悪いとは・・・普通にひどいな」

「はは、お前がそんな冗談を言うとは思わねぇだろ」

「・・・しかし、副団長なら泣いてくれるかもしれんが」

「イオリかぁ、あいつが泣くとしたらクレイグが死んだ時くらいだろ」

「・・・・・・・・」

「ふふふ」

2人のやりとりを見てローズは思わず笑ってしまった

「ごめんなさい、仲、いいんだなって思って」

「別に良くねぇよ」

「ああ・・良くはないな」

「そうなんですか?」

「あったりめぇだ、じゃなきゃいきなり俺の腕切らねぇだろ」

「ふっゾンビになってたほうが、うるさくなくて良かったかもしれん」

「なんだとぉ」

「もう、やめてください」

「・・・ちっ、とりあえず・・ここでの用事は済んだな」

「あぁ」

「じゃあ、ローズ頼めるか」

「はい、港まで呼びましょうか?」

「いや、ここだと船の出入り口も狭いし入りづらいだろう、左手の出口から浜辺まで出よう」

「わかりました、シグレさん、立てますか?」

「あぁ、大丈夫だ」

シグレはゆっくり立ち上がると、少しふらつきながら歩き出す

「気をつけろ、出血が多かったからな、痛みは薬を塗って痛覚を麻痺させているが、薬が切れるとかなり痛むはずだ」

「あぁ」

ソウザはシグレの切り落とされた左手を付近に落ちていた死体の衣服と思われる布でくるみ、持っていこうとする

「おいソウザ、そんなもんどうするんだ・・」

「持ち帰ってアンナに調べてもらう、もし治せるならそれにこしたことはないだろうし、噛まれて感染していく原因もわかるかもしれん」

「そうか」

少しだけ名残惜しそうに自分の左手を見つめると、それを断ち切るように視線を外す

その様子を見ていたローズは、何か声をかけるべきか迷った挙句、言葉を発することはできなかった


心も体も満身創痍の3人は、浜辺に出るとゾンビがいないことを確認し、ローズが竜笛でプルを呼ぶ

シグレにもソウザにも笛の音は聞こえなかったが、砦の物見台の上からものすごい速さでプルがやってきた

浜辺に降り立つと、プルは駆け寄ってきたローズの頬に顔を摺り寄せ、ローズはプルの顎を撫でた

「プル、この人たちも乗せてあげてね、私の命の恩人なの」

「グオオン」

鼻息荒く、プルは頷くように頭を下げ、乗りやすいように後ろ足をたたみ、お尻を地面につけた

「おお・・俺もいろいろ経験してきたが、竜に乗るのは初めてだぜ」

「・・・・・そうだな」

見本を見せるように、ローズが慣れた様子で首の付け根に乗り、シグレ、ソウザは背中に座るように乗った

「行きますよ、しっかりつかまっていてくださいね」

「おう、ちょっと待てよ、俺片手なんだからよ」

「・・・・滑りそうだな」

2人の心配をよそに、ローズは飛び立った

「うおおおお・・・おお、以外と、大丈夫だな」

飛び出すと以外と乗り心地もよく、揺れも少ない上バランスも取りやすかった


上空50メートル付近まで飛び上がったところでソウザが何者かの視線に気づき、闇の精霊の力を発動する

「ソウザさん・・何を?」

「北の空」

ローズはソウザの視線を追い北の空を眺めると、そこにはローズと同じように竜に跨る漆黒の騎士がいた

「仲間ではないな」

「は、はい、あれはテンペストではありません・・・竜も・・この距離と月明かりだけではよく見えませんが、私たちの遣うフォアドラゴンとは大きさも、翼の形も違います」

「そうか・・・精霊の加護でこちらは闇に隠れ見えずらくなっているはずだが、匂いで追跡される可能性もある、少し迂回して砦に戻れるか」

「わかりました」

2人のやりとりを意識が朦朧とする中なんとか聞いていたシグレだったが、すでに出血も多かった上、体力、精神的にも限界だったために気を失い、ローズの背中に寄りかかる

「わっ!シ、シグレさん!?」

「大丈夫だ、寝かせてやってくれ」

そう言うと、ソウザはシグレが落ちないようにしっかりとつかみ、漆黒の竜騎士の動きを見ていた

漆黒の騎士は動かず、ただパストの様子を眺めているようだった


ローズはソウザの言うとおりに南の空を迂回し、街の西端の浜辺から東の砦へと向かう

ローズとソウザが爆破させ炎上した家は既に跡形もなく、ゾンビ達の群れはまだその周辺をウロウロと、何かを探し求めるかのようにさまよい歩いていた

その様子を、夜風を受けながら眺めるローズとソウザ・・これからの世界のことなど考える余裕もなく、ただ呆然と眺めていた


砦の物見台からは、無事たどり着いたグスタや町長、守備隊の生き残りが街の様子を見ていたのか、ローズの駆る竜に手を振っていた

物見台の屋根の上に竜を下ろし、2人で協力しながらシグレを守備隊の面々に受け渡した


一部始終を見ていた大きな竜にまたがる漆黒の騎士は、北の空へと飛び去った


一方王都へ向かったコーネリアとフレアは、時折ゾンビと出会いつつも、エルフ特有のフレアの鋭い聴覚と強い魔力から放たれる弓矢で撃退していた

「ふむ、どうやら私の出番はなさそうだな」

「フッ、ソンナ事ハナイサ・・・奴ラガ厄介ナノハ集団二ナッタ時ダ」

「確かに」

「ソノ時ハオ前ノチカラガイル・・」

「ふふ、任せておけ」

「・・・・何ガオカシイ・・」

「いや、別に」

コーネリアはフレアからの信頼を感じ、少し嬉しくなる

「オカシナ奴ダ」


暗い森の中をひたすら真っ直ぐ南に向かい歩いてきた2人、もうすぐ王都へとたどり着こうとしたその時、フレアが嫌な気配を感じる

「ム・・・コレハ」

「どうした?」

ざぁっと木々が揺れ、2人のすぐ上空を1頭の竜が通過していった

「わっ!竜??」

「誰カ乗ッテイタナ、少女二見エタガ」

「何?」

「マテ、来ルゾ」

コーネリアはフレアに頭を押さえつけられ、2人で身をかがめる

ゾンビの群れはコーネリア達に気づくことなく、竜に誘われるかのように同じ方向に走り去った

「どういうことだ、あの竜を追っていったのか・・・確かに大きな音だったが、テンペストか・・いや、あんな低空で飛行するということは、何らかのトラブルか・・・いずれにせよ追いつける速度ではない」

「ソウダナ・・・シカシ奴ラ・・王都ノ方カラキタガ・・王都ハドウナッテ・・」

コーネリアの顔に焦りが生じる

「急ごう」

「アア」

フレアも魔族狩りにあい捕らわれている妹の身を案じ、気持ちが焦りだす

草木を掻き分け、王都が見える崖の上までやってくると、2人の胸に絶望感が湧き上がった

「これは・・・・・」


既に王都はゾンビに侵食されており、戦いの只中にあったのだ

城下町のあちこちから火の手が上がり、人々は火災やゾンビから逃げ惑っている

その上空をテンペストの竜騎士たちが為すすべなく飛び回っていた

城の門は固く閉ざされ、ガーディアンズと呼ばれる重厚な鎧に身を包む重装騎士達によって、かろうじて守られているようだった

2人は少しの間その様子を見つめていたが、膝をつくフレアの腕をつかみ

「行こう!」

と一言

「・・・・・ワ、ワカッタ・・」

金色の獅子コーネリアと煉獄のフレア、人と魔族が共に王都へと入るため崖をくだる

そして先ほどその2人のすぐ上空を飛んでいった竜に必死でしがみつく少女は慣れない手綱を引きながらクイント要塞へと向かっていた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ