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今 10
もうだいぶ萎れてるなぁ、お供えの花。ひどくね? 俺のこともう忘れたの?
とかブツブツ言ってみるけど、どうせ聞こえはしない。もうこんな世界いいじゃんとも思うけど、やっぱり成仏したくない。せめて、神納さんが普通に笑えるまで現世にいる。
そのとき教室に、神納さんが入ってきた。手には、花束。え。
「由梨奈? その花は?」
保子さんは、少し安堵した様子で聞く。……神納さん、目に光がある。もう、立ち直れそう?
「ガーベラ。あと、カスミソウ。それとスイートピー」
聞いたことのある花だ。ガーベラの色はオレンジ、カスミソウは白、スイートピーは淡いピンク。かなり、目立つ色だ。
「お供え。枯れかけてたし」
短くテキパキと告げて、中の水を入れ替える。そして、もう斜めに切り揃えてあった花を入れる。かなり真剣な顔で、配色も考えつつ。
「どう? 愛美」
「いいと思う。……どうして、この花を?」
「家にあったから。それだけ」
違うでしょ、と俺は呟く。その花を選んだ理由は、たぶん俺しか分からない。




