今 8
神納さんが神納さんじゃないみたいだ。最近はすっかり本当の笑顔だったのに、今は笑顔すらない。ぼんやりとしている。大丈夫かな。いつもは、もっと元気で。もっと笑顔で。
やっぱり、俺のせいなのか。
なんで幽霊って視えないんだ? 神納さん、そういう能力ないのかな。
(俺、ここだよ。視える? ねぇ、神納さん)
声は相変わらず幽かで、これじゃあどうあがいても無理だと思った。
「リューくん、ちょっといい?」
保子さんだった。リューちゃんは読んでいた本に栞を挟んで、保子さんを見上げる。
「由梨奈、1年生の頃に戻っちゃってる」
「それより、ひどいよあれは。お葬式のときの顔、見た?」
見た。昏くて、淀んだ目をしていた。そして、誰も近寄れないような空気を放っていた。
「あれは、絶望だよ」
ぐらりと自分の体が揺れる。体と一緒に、心も。絶望。そんなに、そんなに辛いことなのか。
なんで、神納さん。なんで、そんなに傷つくんだよ。俺、神納さんに傷ついてほしくないのに。どうして?
俺のせいで、また神納さんに仮面を着けさせるのか。
俺のせいで、神納さんの心は抉られたのか。
俺のせいで、神納さんは……絶望しているのか。
俺なんか、いなきゃよかった。そしたら、神納さんはいつか、自分で仮面を外したかもしれない。だったらきっと、ずっと心からの笑顔で過ごせていたかもしれない。
もしかして、俺が、神納さんの未来を奪うのか? 笑顔を、奪ってしまうのか?




