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過去 9

「ねぇ、由梨奈ゆりなちゃんのお父さんってどんな人?」

「あっ、気になる!」

「ねぇどんな人なの?」

 私は多少引きつった笑みを浮かべて、周りを囲む3人を見上げる。高田たかださんに、井門いかどさんに、岡野おかのさん。ザ・女子って感じの面倒な人たちだ。ついでにクラスのボス猿。


「別に……普通の人だよ?」

「仕事は?」

「優しい?」

「顔は?」

 言えない。絶対言えない。母子家庭ですとか言えねー。

 この学校は今時珍しいほどの金持ち学校で、「一人親家庭って存在するの?」っていうお坊ちゃまやお嬢様ばかりの学校だ。私みたいな家庭環境の人は数えるほどしかおらず、当然、ほとんど知られていない。言わないから。言うと面倒だから。


「だって、参観日とか来ないじゃん?」

「気になってー」

「忙しいの?」

 知るか。今は他人だ。

「普通の会社員だよ。優しいかな」

 あまり色々な情報を付け加えると、後が面倒だ。


「他には?」

「ねぇ、教えて?」

「休みの日とかは?」

 ここまでしつこくされて、私はようやくある可能性に気づく。……こいつら、


 私の家のこと、知ってる?


 ああそういうこと。あーそうだね、こいつら私のこと嫌ってるやつらだ。陰口とか言ってんだっけ? あとは私の好きな人でっちあげて面白がってたね。それとありもしないカンニングの噂立てたり、私が悪口言いふらしてるって言ったり。

 ああ、面倒くさい。でも、これも勉強っちゃ勉強。まぁサンプルだから。

「答えられないっておかしくない?」

「もしかして、いないの?」

 その言葉に、顔を少し歪めてみせる。この餌に食いついたら、お前らの負け。加害者にしてあげる。


「えーっ、嘘でしょお?」

「そんなわけないよねぇ?」

「今までお父さんいるって嘘いてたの?」

 わざとらしい大声が教室に響く。クラスの目が一斉にこっちに向く。……これが中学生の精神年齢なのかな。これに合わせるべき? いや、却下。私のキャラ的に、これはない。


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