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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第二十一話:震撼!実習の魔法は演習場を消す!?



 抜けるような青空の下、王立アカデミーが誇る広大な第十屋外演習場は、若き魔導士候補生たちの熱気と、それ以上に「焦げ臭い匂い」に包まれておりました。


「――火よ! 我が命に応じ、敵を穿つ礫となれ! 『ファイア・ボルト』!」


 前方で、一人の男子生徒が必死に杖を振りかざしました。数秒の詠唱の後、彼の杖の先から放たれたのは、拳ほどの大きさの火の玉。それは放物線を描いて二十メートルほど先の標的に当たり、ぱしゃりと頼りなく弾けて消えました。


「やったぞ! 標的に命中だ!」


 周囲から沸き起こる拍手。……私は、それを見つめながら、手にした扇をぱちりと閉じました。


(……やれやれ。あのような『火遊び』を称え合わねばならないとは、この学園のレベルの低さには、もはや眩暈がいたしますわね。テオがミルクを吹き出した時の方が、よほど破壊的なエネルギーの奔流を感じますわ)


 私の思考は、常に領地の邸宅にいる愛しき弟に向けられております。あの子が成長し、私の後を追ってこの学園に来たとき、こんな退屈な授業を受けさせるわけにはまいりません。私が「教育改革」の必要性を痛感していると、演習場を監督していた魔導主任のバルタザール教授が、脂ぎった顔に歪な笑みを浮かべてこちらを見ました。


「さて、次はリリア・ハルトマン君だ。……入学式や座学では異彩を放っていたようだが、この屋外実習は誤魔化しが効かんぞ。君のその『ハルトマン流』とやらが、いかに実践的かを見せてもらおうではないか」


 教授の言葉には、あからさまな敵意と試すような色が混じっていました。おそらく、前回の座学でゴーレムを「消失」させた私の実力を、何らかの奇術か、あるいは父上の威光を借りたハッタリだと結論づけたのでしょう。


「……バルタザール教授。実践的、ですか。……では、一つお伺いしてもよろしいかしら? この演習場、少々『汚れ』が目立つように思いますの。……実技の前に、少しお掃除をさせていただいても構わないかしら?」


「掃除だと? ……ふん、何を言い出すかと思えば。好きにしたまえ。君の魔法が掃除の役に立つというのなら、精々励むことだ」


 教授は鼻で笑い、私を嘲弄するように手で促しました。

 私は優雅に一歩前へ踏み出しました。

 

 手には杖も持たず、ただ、母エリナ――かつて「氷炎の魔女」と恐れられたあの女性から教わった、ハルトマン家伝来の『生活魔法』を脳裏に描きました。


(お母様は仰っていましたわね。『リリア、お掃除の基本は、不要なものを根源から切り離すことよ』と……)


 私は、右手を静かに広げ、演習場の地面へと向けました。

 

 魔力を練る必要はありません。ただ、私の体内を流れる「元剣聖」としての濃密な意志を、母から教わった「掃除」の概念へと流し込むだけ。


(対象は……この演習場全体。不純物、汚れ、そして『余計な構造物』すべて……)


 瞬間、私の周囲の空気が、キィィィィン……という、耳鳴りのような高周波を立てて震え始めました。

 

 ――ッ!!


 閃光さえありませんでした。

 ただ、私が「お掃除」を執行したその場所から、世界が書き換えられたのです。


 突如として、演習場の中心から「絶対的な静寂」が放射状に広がりました。

 

 ズズ、ズズズ……。


 大地が震えるような音ではありません。それは、存在そのものが空間から「拭き取られていく」物理的な摩擦音。

 標的の木偶人形も、防御壁の石積みも、さらには地面の芝生や土、そして演習場を囲っていた強固な防壁までもが――まるで見えない巨大な消しゴムで擦られたかのように、一瞬で「無」へと還元されていきました。


「な……っ!? な、なんだ、何が起きている……!?」


 バルタザール教授が叫びました。しかし、彼の目の前で起きている現象は、魔術の常識を遥かに超越していました。

 

 私の放った「生活魔法」は、不純物を除去するという概念を突き詰めすぎた結果、『存在することそのものが空間への汚れである』と定義されたすべての物質を、この世界から排除し始めたのです。


 十秒後。

 

 私の前には、何もありませんでした。

 いえ、文字通り「何も」ないのです。

 

 広大な演習場があった場所には、深さ数十メートルに及ぶ、完璧な円形状の「虚無の穴」が口を開けていました。底には土の一粒も残っておらず、鏡のように滑らかな、世界の深淵とも言える暗黒だけが広がっています。

 

 周囲を飛んでいた鳥も、風に舞っていた埃も、すべてが「清掃」された空間。


「……あら。少々、広範囲に拭き取りすぎてしまいましたかしら」


 私は、何事もなかったかのように右手を下ろし、優雅に扇を開きました。

 

 周囲の生徒たちは、もはや悲鳴を上げることさえ忘れて石化していました。何名かは、あまりの光景に正気を保てず、泡を吹いてその場に崩れ落ちています。

 バルタザール教授に至っては、自身の杖を握りしめたまま膝をつき、目の前の「虚無」を見つめてガタガタと震え続けていました。


「き……君……っ、今、何をした……!? 消失魔法……? いや、古代の崩壊術式か……っ!? なぜ、生活魔法の動作で……っ!」


「ですから、申し上げたではありませんか。お掃除ですわ、と。……ハルトマン家の家訓には『常に清潔であれ』という言葉がございますの。……この程度の『汚れ』、お母様の機嫌が悪い時の雑巾掛けに比べれば、微々たるものですわ」


 私は、完璧な淑女の微笑みを教授に向けました。

 

 ですが、私の瞳の奥には、かつての戦場で一振りの剣で万軍を薙ぎ払った「剣聖」の冷徹な光が宿っていました。教授はそれを見た瞬間、本能的な恐怖で失禁し、そのまま白目を剥いて穴の縁に倒れ込みました。


「リリア様ぁーーー!! さすが、さすがは私のお慕いするリリア様ですわ! 世界そのものを洗浄し、純粋な無へと昇華させるその御業! ああ、今の衝撃波で私の服の汚れまで落ちた気がいたしますわ!!」


 アイリスが、削り取られた穴の縁ギリギリで、狂信的な歓喜の叫びを上げています。


「リリア。……やりすぎだよ。演習場の再建費用、ハルトマン家の予算から出すのは僕の仕事になるんだから。……まあ、いいけどね。学園長には『リリアのくしゃみの余波』だとでも報告しておこう」


 カイル兄様が、呆れたように眼鏡を直しながら歩み寄ってきました。

 

「あら、カイル兄様。私はただ、バルタザール教授のご要望にお応えしただけですわよ? 実践的なハルトマン流を、とお仰いましたから。……これで、私の実力に疑いを持つ不敬な方は、もういらっしゃらないでしょう?」


 私は周囲を見渡しました。

 そこには、私と目が合った瞬間に、命を乞うようにその場に平伏する生徒たちの群れがありました。もはや彼らにとって、私は「クラスメイト」などではなく、怒らせれば世界そのものを「掃除」される絶対的な神性へと昇華されてしまったようです。


(テオ。見ていましたか? お姉様、学園をとても綺麗にしましたよ。……あなたがいつかここへ来た時、足元を汚すような砂利一つ残さないように、お姉様がすべてを美しく磨き上げておきますからね)


 私は、消滅した演習場の空に浮かぶ太陽を見上げ、愛しき弟を想って慈愛に満ちた(周囲を凍りつかせるような)微笑みを浮かべるのでした。


 ハルトマンの絶対序列。

 それは、ただの「生活魔法」一発で、学園の物理的な地図をも書き換えるという、取り返しのつかない形で刻み込まれたのでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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