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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第二十話:執筆!テオへの愛は便箋十枚!?



 月光が青白く部屋を照らし、寄宿舎の静寂が深まる深夜。

 私は、カイル兄様が用意してくださった最高級の魔法銀の粉入りインクにペンを浸し、祈りを捧げるような敬虔な面持ちで机に向かっておりました。


「……ふぅ。これでようやく、三枚目。まだテオの右頬の柔らかさについての記述が終わったばかりですわ。先は長いですわね」


 机の上には、既に書き連ねられた便箋が数枚。

 そこには、ハルトマン家の公女としての気品溢れる筆致で、二歳の弟――テオドールの愛くるしさを讃える美辞麗句が、隙間なく、かつ整然と並んでいます。


 かつての私、剣聖アルスが、宿敵ゼフ・ハルトマンと刃を交える際に全神経を研ぎ澄ませたあの極限状態。今の私は、まさしくあの時と同じ――いえ、それ以上の集中力をもってこの手紙を綴っています。

 一文字書くたびに、私の指先から無意識に漏れ出す魔力がインクに混じり、文字が微かに紫色の光を放っていることにさえ、私は気づいておりませんでした。


(テオ。あなたが私のいない家で、どれほど寂しい思いをしているかと思うと、私の胸は千々に引き裂かれる思いです。……ああ、あなたのあの、ミルクとお日様が混ざったような香りが恋しい。今すぐこの手紙を鳥に変えて、あなたの元へ飛ばしてしまいたい……)


 私の募る想いは、物理的な重圧となって部屋の中に充満していきます。

 カリカリ、というペン先の音だけが響く室内で、大気が僅かに震え、窓ガラスが共鳴を始めました。


「リリア様。……あの、既に便箋が八枚目に突入しておりますが、インクの魔力濃度が『致死量』を超えつつありますわ」


 背後で控えていたアイリスが、頬を紅潮させながら、しかし僅かに危惧の色を滲ませて告げました。彼女は、私の放つ「愛のプレッシャー」を全身に浴びて悦びに浸りながらも、この手紙そのものが「極めて強力な魔導具」へと変貌しつつあることを察知しているようです。


「構いませんわ、アイリス。テオに私の今の気持ちを余すことなく伝えるには、十枚でも足りないくらいですもの。……それにしても、最近のインクは少々揮発しやすいのかしら。書いているそばから、空間が歪んで見えるようですわね」


「それはインクのせいではなく、リリア様の言霊が物理的に空間を侵食しているからですわ! ああ、なんて素晴らしい……! この手紙を受け取る郵便官は、前世でどれほどの徳を積めば、この『神託』を運ぶ光栄に浴せるのでしょうか!」


 アイリスの誇張された称賛を適当にいなし、私はついに、十枚目の便箋の最後に「あなたの愛しき姉、リリアより」と署名しました。

 

 その瞬間。

 十枚の便箋が重なり合った場所から、ズゥン、という地響きのような震動が発生しました。

 ただの紙の束のはずが、そこには一国の軍隊を壊滅させかねないほどの、濃厚で純粋な「意志」が封じ込められています。


「よし、完成しましたわ。アイリス、これを今すぐ学園の通信省へ。……明日の朝一番の飛竜便で、ハルトマン邸に届くように手配してくださる?」


「御意にございます、リリア様! この命に代えても、守り抜きますわ!」


 翌朝。

 私はアイリスと共に、学園の通信省――国内外の書簡を統括する機関へと向かいました。

 受付の職員は、いつものように気だるげな表情で窓口に座っていましたが、私たちが近づくにつれ、その顔面から急速に血の気が引いていくのが見て取れました。


「あ、あの……。本日は、どのようなご用件でしょうか、ハルトマン様……」


「手紙を一通、領地までお願いしたいのですわ。至急便で」


 私が、丁寧にリボンで縛られた十枚の便箋を窓口に置いた、その瞬間。

 

 ――ドォォォォォン。


 受付のカウンターが、その「重み」に耐えきれず、ミシミシと悲鳴を上げました。

 紙の束から放たれる圧倒的な魔力圧に、周囲の空気は物理的に停滞し、通信省内に設置されていた魔力計の針が一斉に振り切れて粉砕されました。


「な……な、なんですか、これは!? 手紙……? いえ、これは特級の呪遺物か、あるいは封印指定の魔導書では……っ!?」


 職員が震える手で封筒に触れようとした瞬間、バチリッ、と紫の火花が散りました。私の「テオ以外の者に読ませたくない」という無意識の防衛本能が、封筒に強力な拒絶結界を張っていたのです。


「何を仰るの。ただの姉から弟への、ありふれた近況報告ですわ。……少しばかり、内容が濃密なだけですわよ?」


「濃密……!? 空間が……空間がこの手紙を中心に収縮しているのですが!? 飛竜が……これを持たせたら、飛竜がプレッシャーで墜落してしまいますっ!」


 職員が泣きそうな声で訴える中、廊下からカチャカチャと軍靴の音が響きました。


「どけ! 通信省の業務が滞っていると聞いて駆けつけてみれば……。リリア、お前、また何かやったのか?」


 現れたのは、騎士科の制服を身に纏ったシオン兄様でした。彼は窓口に置かれた手紙を一瞥した瞬間、武人としての本能が警鐘を鳴らしたのか、反射的に剣の柄に手をかけました。


「兄様。失礼ですわね。私はただ、テオに手紙を出そうとしているだけですわ」


「……これが手紙だと? バカを言うな、これは完全に『戦略級の魔導爆弾』の気配だぞ。カイル! お前、これの魔力中和ができるか!?」


 背後から現れたカイル兄様が、手紙を魔導眼鏡越しに観察し、深い溜息をつきました。


「無理だよ。リリアの『愛』が術式として完璧に固定化されている。……通信省の諸君、安心していい。この手紙には、テオ以外の者が触れると精神を一時的に再起不能にする程度の『拒絶』しかかかっていない。……運搬には、僕が特別に用意した、重力相殺機能付きの魔法箱を使わせてあげよう」


「カイル兄様、助かりますわ。やはり家族は頼りになりますわね」


 私は優雅に微笑みました。

 通信省の職員たちは、震える手でカイル兄様の差し出した箱に手紙を(トングのような道具を使って)収めると、まるで爆弾を処理するような慎重さで奥へと運んでいきました。


「……ふぅ。これで一安心ですわ」


 私は、学園の空を見上げました。

 数時間後には、この手紙が空を越え、テオの元へと届く。

 あの子がその小さな手で封を切り、私の文字を目にしたとき、どんな顔をするかしら。

 

 二歳になったテオは、既に言葉を理解し始めています。

 あの子の左腕にある銀のブレスレットが、私の手紙から放たれる魔力と共鳴し、束の間の「姉の抱擁」を感じさせてくれるはずです。


(テオ。お姉様は、ここであなたの道を整えていますよ。不敬な者も、高慢な者も、すべてお姉様が『お掃除』しておきましたから。……早く、あなたと一緒に、この広い学園の中庭で音速の追いかけっこをしたいものですわ)


 私の紫の瞳には、かつて戦場を支配した時よりもずっと苛烈で、そして甘い光が宿っていました。

 

 手紙一通で学園の中枢をパニックに陥れたリリア・ハルトマン。

 彼女の「絶対序列」は、もはや魔法や剣の実力だけでなく、その「重すぎる愛」という形でも、学園に深く、そして不可逆的に刻まれていくのでした。


 通信省を後にする私の背後で、ようやく職員たちが「生き延びた……」と地面に崩れ落ちる音が響きましたが――私はそんな雑音など気にせず、次にテオに贈る「特製マフラー」の編み図について思考を巡らせることに、午後のすべてを捧げるのでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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