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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第十九話:粉砕!高慢令嬢の自尊心はゼロ!?



 不敬な噂を流した不届き者たちが、社会的な死、あるいは精神的な崩壊を迎えてから数日。

 学園内は、私の姿を見かけるだけで全員が壁際に吸い寄せられるという、極めて「安全」で風通しの良い環境となっておりました。


「……ふぅ。テオ。今日のお姉様は、中庭のテラスでお茶を楽しみながら、あなたへの五通目の手紙を書いていますわ。そよ風があなたの産毛のように心地よい午後です……」


 私が優雅にペンを走らせていると、カチャカチャと騒がしい靴音と共に、数名の女生徒たちがこちらへ歩み寄ってくるのが見えました。

 中央にいるのは、金髪を縦ロールにした、いかにも「私は物語のヒロイン、あるいは悪役令嬢です」と自己主張の激しい少女。彼女は公爵家の令嬢にして、この学園の女子生徒の頂点に君臨すると自負している、マルグリット・フォン・クロイツァー様でした。


(……やれやれ。ようやくお出ましですか。私の『お掃除』が行き届いていなかった場所がまだあったようですわね)


 私はペンを置き、淑女としての完璧な微笑を湛えて彼女たちを迎えました。


「ごきげんよう、マルグリット様。このような端の席に、何か御用かしら?」


「あら、リリア・ハルトマン様。貴女、ずいぶんと調子に乗っていらっしゃるようですわね? 騎士団長の娘という立場を利用して、周囲を脅して回っているという話ですわよ」


 マルグリット様は、扇で口元を隠しながら高笑いしました。背後に控える取り巻きたちも、くすくすと嫌味な笑い声を上げます。


「調子に乗る……? いえ、私はただ、皆様と仲良く過ごしたいと願っているだけですわ。……お茶を一杯、いかがかしら? ちょうど、ハルトマン家特製の『精神を安定させる』薬草茶を淹れたところですの」


「ふん、そんな野蛮な家系のお茶など、私の口には合いませんわ! 本物の貴族の嗜みというものを、私が直々に教えて差し上げますわよ」


 彼女は合図を送ると、取り巻きの一人が最高級の茶器セットを広げ始めました。どうやら、この場所でお茶会の作法を競い、私を「田舎者の野蛮人」として貶めようという算段のようです。


(……剣を抜かぬ戦い、というわけですわね。面白い。かつての戦場でも、茶の一服で和睦の条件が決まったものですわ)


 マルグリット様は、誇らしげに茶葉を躍らせ、流れるような動作で紅茶を淹れていきました。確かにその動作は洗練されており、並の令嬢であれば「流石は公爵令嬢」と感服したことでしょう。


「見ていらして? これが王宮でも称賛された、私の『黄金の抽出』ですわ。貴女のような剣を振るうことしか知らない無調法な方には、この香りの繊細さは理解できないでしょうけれど」


 彼女が差し出した一杯。

 私はそれを一口含み、すぐに優雅にソーサーへ戻しました。


「……マルグリット様。一つだけ、伺ってもよろしいかしら?」


「あら、降参の言葉かしら?」


「いえ。……貴女、茶葉の『魂』を、一粒も捉えられていませんわね」


 その瞬間、私の周囲の空気が、微かに歪みました。

 

「な……何を言っていますの!?」


「お湯を注ぐ際の手首の角度、茶葉が対流する速度。すべてが『形』に囚われすぎて、命が宿っていません。……それでは、戦場(お茶会)で相手の心を射抜くことは不可能ですわ。……アイリス、準備を」


「御意にございます、リリア様!!」


 影から現れたアイリスが、真っ白な手袋をはめ、私が普段から愛用している「テオの離乳食を作るのと同じ清らかな水」が入った水筒を差し出しました。


「見ていらして。これが、ハルトマン家の――いえ、剣聖の点て方ですわ」


 私は立ち上がることなく、ただ無駄のない動作で茶葉を器に落としました。

 

 一振り。一投。

 私の指先が動くたびに、周囲に不可視の「圧」が発生します。

 マルグリット様たちは、私の動きに魔法的な「美」を感じるのと同時に、まるで名工が研ぎ澄まされた名刀を鞘から抜いた瞬間のような、逃れられない殺気にも似た重圧に晒されました。


 私は、沸騰したお湯を一点の曇りもなく注ぎ入れました。

 お湯が器の中で描く渦は、まさしく必殺の剣閃。茶葉が舞い上がる様子は、千の軍勢が一度に動くような威圧感を伴っていました。


 そして。

 香りが、爆発しました。


「な……っ!? この香りは……!?」


 マルグリット様の顔から、余裕の色が消え失せました。

 私の淹れた茶から立ち上る香りは、もはや単なる飲料の域を超えていました。それは、深遠な森の静寂、あるいは戦場に咲く一輪の花のような、強烈な意志を伴った「芳香の衝撃波」となって彼女たちの鼻腔を貫いたのです。


「……どうぞ。これが、私の『日常』ですわ」


 私が差し出したカップを、マルグリット様は震える手で受け取りました。一口、彼女がその茶を口に含んだ瞬間――。


 ――ガシャン。


 彼女の手から、公爵家自慢のカップが滑り落ち、石畳の上で無残に砕け散りました。

 マルグリット様は、その場に膝をつき、溢れ出る涙を抑えることもできずに震え始めたのです。


「……ああ……。何という、何という浅ましさ……。私が今まで『最高』だと思っていたものは、ただの泥水でしたわ……。この一杯に込められた、圧倒的なまでの……格の違い……っ!」


 彼女の目には、私が茶を点てている姿が、万軍を指揮する美しき将帥のように映っていたのでしょう。私の立ち振る舞い、視線の配り方、そして指先のミリ単位の制御。そのすべてが、彼女が一生をかけても辿り着けない「極致」であることを、彼女の魂が理解してしまったのです。


「マルグリット様、大丈夫ですの!?」

「リリア・ハルトマン、貴女、何を……っ!」


 取り巻きたちが私に詰め寄ろうとした瞬間。

 私が、ただ一度、視線を彼女たちに向けました。


 ――ッ!!


 落雷のようなプレッシャーが、彼女たちの足元を撃ち抜きました。

 

「……騒がしいですわね。お茶会の静寂を乱す者は、万死に値しますわよ?」


 私は微笑んでいました。

 ですが、その背後には、かつての宿敵ゼフ・ハルトマンさえも震え上がらせた、伝説の剣聖としての「殺気」が龍のように渦巻いていました。


「ひ……、ひいぃぃぃ……っ!!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」


 取り巻きたちは、文字通り脱兎のごとく逃げ出していきました。

 後に残されたのは、砕け散った陶器の破片と、その中央で魂を抜かれたように座り込んでいる「元・女王」マルグリット様だけ。


「マルグリット様。茶道も剣の道も同じです。……慢心は、己を曇らせるだけ。……この茶の味が理解できたのであれば、貴女はまだ、やり直せるはずですわ」


 私は、空になった私のカップを優雅に片付けると、まだ半分ほど書き残していたテオへの手紙に視線を戻しました。


「あ、ああ……。リリア様……。私は、なんて愚かな……。私は今日、初めて『真の貴族』というものを知りましたわ……っ!」


 マルグリット様は、石畳に額を擦り付けるようにして平伏し、そのまま嗚咽を漏らし続けました。

 

「リリア様! 流石でございますわ! 魔法も剣も使わず、ただの『茶』だけで公爵家の自尊心を粉砕するとは……。ああ、これぞハルトマン家の正道! 私、一生ついていきますわ!」


 アイリスが興奮で鼻血を垂らしながら拍手喝采を送っていますが、私はそれを適当にいなし、再びペンを走らせます。


(テオ、元気ですか。今日もお姉様は、お友達を一人『更生』させてあげましたよ。学園の皆様は、私の淹れたお茶に感動して、地面に這いつくばって喜んでくれる、とても礼儀正しい方ばかりです。いつかあなたにも、お姉様の特製ミルクティーを飲ませてあげたいですわ……)


 中庭に流れる、平穏(という名の、誰も逆らえない恐怖の沈黙)。

 学園の「女王」と呼ばれた少女の自尊心は、剣聖の一服の茶によって、文字通りゼロへと粉砕されたのでした。


 私の紫の瞳には、かつての宿敵にトドメを刺した時のような冷徹な輝きと、弟を想う深い慈愛が、奇妙な調和を保って宿り続けていました。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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