最終話
満身創痍ながらも、最初に立ち上がったのはワードだった。
「フレソディア……お前、凄い能力を隠し持ってたんだな……」
「いや、俺自身も知らなかったんだ。悪いな、もっと早く気づけなくて」
「いや、いい。お前のおかげで、誰も死なず、兄さんを止めることができた。ここから先は、俺や、リィラでどうにかしなくちゃな。フレソディアは、少し休んでてくれ」
ワードは俺を持ち上げ、ラッキーにしまった。
「お疲れ様っす!兄貴!」
何故かその声は、ただ勝利したことへの労いじゃなくって、もっと大きなことに対しての言葉みたいに聞こえて、それで……。
「ん……」
次に目を覚ました時、俺は何か柔らかくてあたたかい感触に包まれてた。
「お、お兄ちゃんっ!?」
「んん……?リィラ……?」
「りーら?私だよ!妹の璃々!名前ちょっと間違えてるし、やっぱりどこか頭に悪いところが……まってて!今お医者さん呼んでくる!」
「まってくれ、ここどこだ?」
「病院だよ!お兄ちゃん線路に落ちて電車に轢かれて……覚えてない?」
あ、思い出した。俺は電車に轢かれて、それで、そのまま。そのままどうしたんだ?死んだと思ったが死んでいなかったようだ。うーん、それでそのまま長い夢を見ていたような……。
「でも本当にラッキーだったね、後少し早く落ちるか、電車が遅く止まってたら、死んでたって……」
「ラッキー……そうか、ラッキーだったのか……」
ラッキーという言葉にムズムズする。
「ん……?」
俺は妹の座っていた椅子にあるものが置かれているのに気づく。
「あ、これ?お兄ちゃんの好きなクロスワードだよ?けっこう難しいね……」
「クロス、ワード……クロスワードか……ん、ここは、サンスーシだぞ」
「うぇ、よくこんな高難度のできるね。ん?やっぱり頭に異常は無いのかな?あ、お医者さん呼ばなきゃ!待っててね」
「おう、ありがとな璃々」
妹の璃々は中学生だ。学校帰りにお見舞いに来てくれたのだろうか。ところで、璃々に良く似た少女と最近出会った気がするのだが、誰だったか。年齢も、名前も似ていたような覚えがあるが、朧げである。
俺はぼんやりと病院の天井を見つめながら、妹が医者を連れてくるのを待った。
*
それからしばらく入院生活を送り、体にも異常無しと認められたので退院することになった。
しかし、退院する日の朝、ちょっとしたハプニングが起こった。なんと、起きようとしたら金縛りにあったのだ……!
「あ!?あんだこれ!?体が動かねえ!?目も開かねえし!」
すると、脇から声がする。
「そりゃお前、剣だからな。まず目なんて無いだろ」
「でもフレ君、一人で動く能力持ってるんじゃなかったの?」
そちらに意識をやると、仲間の顔がある。
「ワード、リィラ……!そうだ、あの後どうなった!」
「どうなったじゃないぞ、お前突然喋らなくなるんだからな」
「記憶喪失になる前とおんなじだったっす!今回はちゃんとオイラたちのこと、覚えてるっすか?」
「おおラッキー……お前も元気か?」
てか、俺が転生する際、前の人格はどっかいっちゃったってことか?気にしたら負けかな……。
「あの後、兄さんは正気に戻って、罪を償うことを約束してくれたよ。俺たちもできる限りサポートしていくつもりだ」
「やっぱり聖剣を騙るあの剣が黒幕だったみたい。私たちの怪我もだいぶ治ったし、一件落着かな」
それを聞いて、ぐっと肩の荷が降りる。
「それはよかったぜ。……じゃあ、俺はそろそろ行くな」
「どこかに行っちゃうの……?」
リィラが不安そうな面持ちで尋ねてくる。
「ああ……待ってる人がいるんだ」
「そうか……また誰かを救うのか?お前はきっと、本当の聖剣なんだろう」
ワードは曇りのない顔をしていた。
「そんなんじゃねえよ……あの魔法、絶対俺は邪剣だろ!突然お邪魔するかもしれねえぞ?」
「兄貴なら大歓迎っすよ!」
「そう言ってもらえると嬉しいぜ。ラッキー、それまで俺の体、大事に守っておいてくれ」
「任せてくださいっす!」
「そんじゃあな、リィラ!ワード!ラッキー!」
「うん、またね」
「世話になったな」
「兄貴との日々、楽しかったっす!」
*
「ッ!」
俺は目を覚ました。腕や足があって、顔にパーツがあって、それらを動かすことができる。
「夢……なのか……?」
この奇妙な出来事は、夢なのだろうか。それとも本当に、俺の精神は異世界を旅していたのだろうか。
・・・と、当時はそう思った。当時、というのは、実はこれは6年前の出来事で、暇ができたのでノートに書き起こしているのだ。
もうあんなに前の出来事を、つい昨日のことのように覚えている。あの時の胸の熱さを、さっき起きたことのように思い出せる。
だから俺は、彼らとの出会いと別れを、本当にあった出来事だと信じている。ーーーーー
〜終〜