あるひとりの少女との出会い
あの後、展示室から資料閲覧室へ移動し、そこで見つけた資料集にはこう書かれていたんだ。
■勇者召喚
転移者の居住区域を超え、
能力の適切な者がランダムで招かれる。
■召喚時の転移、転生者
勇者、賢者、大魔法使い、聖女
4名が召喚される。
■転移者のその後
魔王討伐後は、数刻だけ転移した場に帰還ゲートが開く
何の感情の抑揚のない資料だからこそ、真っすぐにその文字列は自分に響いた。
——元の世界に帰れるんだ!!
歓喜に満ちた気持ちが大半だけど、そうじゃない気持ちがあるのもわかる。
実際は、元の世界に帰っても血縁の近い者は叔父ぐらいで、それ以外に身内と呼べる人がいない。
実父に於いては、祖父母が生存していた時点で生死すら不明だ。もし、生きていても、死んでいても、正直今更、何とも思わない。
宿で泣いた夜、アルゼに伝えたように、私が戻らなければいけないと思う理由は、仕事の責任と、世話になった人への恩義だけだ。
エストラゴンに私を養女にしたい。と言われた事で、私がこちらの世界で生きて行って良いと認められたみたいに感じて、元の世界に戻る事に迷いが生まれ始めた。
ソージュが想いをぶつけて来るし、たとえ求めらたとしても、それだけの事ではこちらで生きて行く覚悟は、私には出来ない。
男女の関係は移ろいやすい。
でも、養女は勝手になれるものではないし、それを望んだ者に親としての責任が生じる契約的な物だ。
契約の方が、私には余程安心出来る。
心の中で帰れる事実に驚き喜んでもいるけれど、悩みと迷いも生まれる。そんなジェットコースターのような感情に振り回されていた時
「……あの?突然申し訳ありませんが少しお時間頂けませんか?」
と、資料閲覧室の本棚に背を向けて座っていた私の後ろから、声を掛けて来た少女がいた。
少女も資料を探していた様で、手元に幾つかの資料と書き写すの為のノートがあった。
「あ、もしかして、この資料使いますか?私は急いでないのでお先にどうぞ?」
資料集を渡そうと席を立ち彼女を見ると
「あ、違うんです!ちょっと、えっと、なんて言えばいいかな?2人だけでお話がしたいんです!」
周りに配慮して、小さな声で伝えて来るが、なぜ話をしたいのか私には分からない。
「なぜ?2人だけで話す意味は?」
少し警戒してしまい、子供相手なのに声色は冷たくなってしまった。
「……日本の話です」
彼女は、周りをキョロキョロした後、極々小さな声で伝えて来た。
「えっ!?」
私は驚き一瞬声が出たが、慌てて口を押さえて黙った。彼女も声に驚いたのかパッと顔を上げて目を丸くしていた。
よく見ると彼女はとても小さくて可愛らしく、まるで昔飼っていたジャンガリアンハムスターみたいにちんまりしている。
話はしたいけど、どうしようかと考えていた時
「チャコ、どうかしたか?」
ソージュが慌た様子でこちらに向かって来た。私の一瞬出た声に気づいたのだろう。彼には私を探知するセンサーがついているようだ。
「あー、(何で言ったら良いかなぁ、彼女日本知ってるみたいだから、転生者かもだけど、他人に知られたくないかもしれない)何でもないですよ?ちょっと可愛らしい少女にぶつかってしまって、お喋りしていただけです」
とりあえず様子見かな?
「……お初にお目にかかります。私はゴルドファブレン王国の学園生
ティーフロート・シュピネルと申します。
貴方はもしかして、騎士科のアウスリーベン先生ではありませんか?」
彼女はソージュを知っているようだ
「ああ、シュピネル家のご令嬢か、こんな所で何をしていたんだ?課題か?」
ソージュは彼女を軽く警戒しながら話を聞き出した。
「騎士科のヘルグラウ・フェルトシュパートはご存じでしょうか?彼から勇者の事を聞いて興味が湧いたので調べに来たんです」
彼女は、普通ににこにこしながらソージュと会話をしている。
——魂の転移者、勇者パーティーの可能性は高いかな?
「ヘルグラウ?王子殿下の護衛騎士だな。で?貴族の令嬢が彼女に何の用だ?」
王子の護衛の友人と知り、ソージュはより彼女に対して警戒を強めた。私を背後に庇い、彼女を見る視線の温度が下がって行く。
「ソージュ、彼女は多分大丈夫ですよ?」
クイっと袖を引き、ソージュの張り詰めて来ている空気を緩める
「チャコ、何を根拠にそんな事を?」
ソージュは、眉間に皺を寄せて厳しい顔をしている。
「だって、ソージュの目を見て話しても彼女、顔色すら変えずに平気な顔してますよ?」
——それって魂の転移者じゃない?
ソージュははっとして、彼女に目を向ける
彼女はそんなソージュに気付き又普通にニコッと笑いかけた。
「……確かに?」
そう言いながらソージュはまだティトを見ている
「ね?平気でしょ?」
ティトはじっと様子をうかがっている。
「いや、子供だからではないか?」
ソージュは納得できていないようだけど、
「いままで関係ありましたか?」
その顔、老脈男女問わずですよね?
「……試してみるか。ダメだったら急いででるぞ?」
そう言ってソージュは周りに人がいないのを確認して、認識阻害眼鏡を外して少女の顔を見つめた。




