13 テストの日
「最悪ね」
エマーリアが不快そうに吐き捨てた。
「だからあの子の事嫌いなのよ」
「エマ、まだ本当に起こるかどうかわからない話だし、王族に対して不敬だよ」
「いいのよ、私達しかいないんだから。
それにしても、シャーロットへの一般科の生徒の態度もひどいわね。
教師たちは何をしていたのかしら」
「おそらく、一般科の教師たちに見つからないようにしていたのでしょうね」
「それにしてもフリッツ、お前、連絡手段を作っておくとかなかなかやるな」
「いや、使用人たちが協力してくれたからで、そもそも、うちの待遇がいいことと、シャルや母上がきちんと彼らに向き合っていたからですよ」
「ここからはちょっと辛い話になるんです」
「つらい話?」
「シャルが・・・」
ちょっと涙ぐむフリッツに、グリーが声をかけた。
「そういう未来にならないためにも、旦那様と奥様にも聞いていただかないと、対策がとれません。
フリッツ様、シャーロット様の為です」
「そうだな」
深呼吸をしてから再度話し始めた。
第3王子に絡まれている、という情報を得たフリッツは、すぐに第2王子アレクサンドルに伝えた。
「あの野郎!俺のロティに手を出すとは!」
「まだ殿下のものじゃないですが、ってそんなことより、1度帰国させてください。
父の様子もわかりませんし、シャルの、妹がひどい目にあっているなら助けてやりたいのです」
「もちろんだ、すぐに父上に連絡をしよう」
そういってアレクサンドルは国王に緊急連絡の伝令を飛ばした。
隣国の国王にも、一時帰国の打診をして準備を進めた。
その頃のシャーロットは、友人の家にかくまわれ、学園は休みを取っていた。
保険医から担任と学園長に話があり、身の危険があるため、しばらくは休学することを認めてもらえたのだ。
ただし、テストだけは受けに来るように、と言われた。
これだけは贔屓と言われないためにも必要なことだから、と担任が申し訳なさそうに伝えてくれた。
テストの日は雨が降っていた。
友人たちと教室に向かう。
ウィリアムがこちらを見ていたが、何も言ってこなかった。
ほっとして、テストを受けることができた。
テスト終了の合図で、シャーロット達は教室の外に出た。
ウィリアムはいつの間にかいなくなっていたので、彼女たちは安心して帰る用意を済ませた。
廊下の角を曲がったところで、いきなり、友人たちが押されて転んだ。
「きゃあ」「いやっ」「あっ」「キャっ」
「皆大丈夫?」
そう声をかけたシャーロットは腕をつかまれた。
「なにするの!」
そのまま口にハンカチで猿轡をされた。
腕は後ろに回され、両方から捕まれている。
まるで犯罪者の扱いだ。
シャーロットはそのまま連れていかれた。
倒された友人たちは、あちこち怪我をしていたが、一刻を争う事態に、それぞれ支えあいながら助けを求めに動いた。
シャーロット達が襲われる1週間前、フリッツ達は帰国していた。
王宮には直接寄らず、宰相のタウンハウスを借りている。
ウィリアムやメルダ達に帰国が分かると、何かしら動かれてしまう可能性も考えられたため、隠密行動となった。
宰相の護衛の形で王宮に入ったアレクサンドル達は、内密に王と王妃に面会することができた。
「挨拶は良い、今後の計画を話してくれ」
膝をつこうとしたフリッツ達を王が遮った。
「まずはマルクス公爵の現状を知るところからですね」
「バロウズが完全に囲い込んでいますから、成人前の私達ではどうしようも・・・」
「父上、見舞いという名目で勅命をお願いします」
「うむ、ゼルマンの容体はワシも気にしておったところだ、直接顔を合わせるように命令書を出す」
「陛下、発言をお許しください」
「許す」
「わが父ゼルマンの無事を確認できましたら、バロウズを捕縛できるようにお願いいたします」
「わかった、第3騎士団を連れて行くといい。全権はアレクサンドルに託す」
「ありがとうございます」
「父上、ウィリアムは今どうしておりますか?」
「シャーロット嬢が避難しているからな、おとなしくしている」
「今後の処遇はどうされるおつもりですか?」
「・・・まだ、考えておる」
「いい加減に覚悟をお決めなさい」
王妃が横からばしり、と王の腕を叩いた。
「わかっている、このままにはしない」
王は眉間に深いしわを刻みながらため息をついた。