14 父の救出
ちょっと長いです。
第3騎士団をつれて、フリッツ達は公爵家の別邸へ向かった。
「旦那様はご病気のためお目にかかれないそうです」
目の前で見たこともない使用人が淡々と話した。
「私は公爵家の嫡男だ、父に会えないとはどういうことだ」
「誰であろうと面会は許可できないとバロウズ様から申し付けられております」
「バロウズ医師を呼んでくれ」
「今朝はまだお休みになっておられます」
公爵令息に対する態度としてはかなり無礼である。
「フリッツ、もういい、交代しろ」
後ろにいたアレクサンドルが声をかけた。
「もう一度言うが、マルクス公爵に面会を要求する」
「何度言われても、面会は許可できません」
よく顔を知らないのか、恐れ知らずなのか、使用人は馬鹿にしたように返事を返した。
「王命だ、マルクス公爵に直接面会をする」
そう言ってアレクサンドルはずかずかと中に入って行く。
「ちょ、ちょっと」
アレクサンドルを止めようとしたのか、使用人が腕をつかもうとした瞬間、騎士たちにより膝をつかされた。
「何をするんですか、こんな乱暴をしていいと思っているんですか?」
「貴様こそ、第2王子殿下に対して不敬である」
「だ、第2王子・・・殿下?」
使用人が拘束され、そのまま別邸の中を進んでいくと、バロウズが慌てた様子で走ってきた。
今まで寝ていたのだろうか、だらしのない恰好のままだ。
「フリッツ様ではありませんか、何事ですか?ここは父上が静養されておられるのですよ?」
「その父に会いに来た」
「ですから、まだ面会の許可は出せないと言ってます」
「そればかりだな」
「私は専属医師ですぞ、私のいうことに従っていただけないと、公爵様の容態に関わりますぞ」
「おい、御託はいい、公爵との面会は王命である」
「王命ですと?そんな無茶苦茶な!相手は病人ですぞ」
「黙れ」
アレクサンドルの合図でバロウズは拘束された。
「何をなさいますか!」
「第2王子による王命の行使を邪魔するなど不敬である」
公爵がいると思われる部屋の扉を開けた。
別邸の中でも端にある小さな部屋だ。
その中に入ると、部屋中が煙っている。
何かの香を焚きしめているようだ。
「おい、窓を開けろ」
香を吸い込まないように鼻と口を覆うと、騎士たちが次々と窓を開けて行った。
ベットで寝かされていたゼルマンは手足をベットに固定されていた。
やせた顔でフリッツを見た瞬間、ゼルマンは涙を流した。
「父上!こんなになるまで…申し訳ありません」
フリッツとグリーは手足の拘束をといていく。
連れてきていた王宮付きの医師にゼルマンの容態を確認してもらった。
「長いこと拘束されていたようですね。筋肉がかなり落ちています。
栄養状態も、動けないギリギリにおさえられていたようです。
ですが、意識ははっきりしておりますし、声も小さいですが、命の危険は今のところありません」
「ありがとうございます」
「フリッツ・・・」
「父上、もう大丈夫です」
「わしは・・・」
「命の危険はありませんが、衰弱がひどいです。
もう少し体調を戻してからゆっくり話をされるようにお勧めします」
王宮医師に言われて、ゼルマンはかすかにうなずいた。
「フリッツ・・・シャルは、シャルを頼む」
それだけ言って、ゼルマンは目を閉じた。
「この香りは、意識を混濁させる効果がありますね」
調査していた騎士団が燃え残った香を確認していた。
「持ち帰ってしっかりとした調査結果を報告してくれ」
アレクサンドルが指示を出す。
取調室でバロウズの取り調べが始まった。
「何故公爵をあのように監禁していたのだ」
「監禁などと、あれは患者が暴れないようにしていたまでです。純粋な医療行為ですよ」
「あれが医療行為?意識を混濁させ、手足を拘束させておいて?」
「それは患者自身の身を守るために・・・」
「その公爵本人が、監禁されていた、と証言している」
「公爵は精神の病気だったんですよ。そんな証言は当てになりませんよ」
バロウズはあくまでも医療行為だと言い張っている。
「のらりくらりと・・・こうなったら拷問でもして・・・」
「おいおい、物騒なことを言うな」
「しかし、このままでは・・・」
悔しがるフリッツに、アレクサンドルはにやりと笑った。
「ま、見ていろ」
連れてこられたのは別邸の使用人たちだ。
「さて、君たちが連れてこられたのは、公爵の監禁について罪を明らかにするためだ」
「公爵を監禁?どういうことですか?」
「私たちは何も知りません」
「偉いお医者さんの言うとおりにしていただけです」
「公爵ってどういうことですか?」
口々に自分たちは知らない、という。
騎士の一人が書類の束を読み始めた。
「この契約書によると、バロウズ医師の決めたことに従うように書かれていますね」
「それは、患者さんのためになるからでしょう?」
「患者とはマルクス公爵の事で合っているかね?」
「公爵ってどういうことですか?」
「どういうことって、君たちはマルクス公爵家の別邸で働いていたんじゃないのか?」
使用人たちは顔を見合わせている。
「あの・・、我々はバロウズ医師の療養施設で雇われました」
「療養施設?」
「はい、あそこは医師の療養施設でして」
どうやら別邸を自分の持ち物だと説明していたらしい。
「バロウズ、どういうことだ?」
「いえ、その何か誤解してるのでは?」
「何言ってるんですか、派遣ギルドにもバロウズ医師の療養施設での仕事って募集されていますよ」
「ほう、公爵家の別邸を勝手に私物化していたと」
「違います!」
「では公爵家の別邸にある調度品が売られた件については?」
「しりません!使用人が勝手に盗んだんですよ」
「何言ってるんですか!医師が業者を呼んで自分で売却していたじゃないですか」
「私は知らん」
「横領ですね」
「!!」
「別邸の予算は何に使われていたか知っているものは?」
入り口で無礼を働いた使用人が手を挙げた。
「私達使用人の給料に、医療施設で必要な経費すべてです。ただ、それ以外に、旦那様の、バロウズ医師の衣料品、ワインや葉巻といった嗜好品などを購入していました」
「そんなことはしていない」
バロウズは目を見開いて叫ぶ。
「お前の使用していた部屋からは、今の証言通りの嗜好品、どこで使うのかわからないが高価な衣装が出てきている」
「あ、それから、別邸の近くにある娼館にも頻繁に通っていたそうだね。
娼館からの証言も取れている」
バロウズは俯き、やがてぼそぼそと話し始めた。
始めは本当にゼルマンの精神を安定させようとしていたが、ふと、思ったのだ。
このまま公爵が病気であり続けていれば、自分は働かなくてもこのまま贅沢ができるのでは、と。
ほんのいたずら気分で公爵の事を知らない使用人に入れ替えた。
毎日が贅沢で、働かずにいられるのなら、と意識を混濁させ、手足を拘束しておいたのだと。
ただ、死なれては困るので、時々はきちんと診察をしていたそうだ。
「自分の職務を忘れて、贅沢のために人を苦しめる、本当に医師だったのか?」
騎士の言葉にバロウズは顔を上げることはなかった。




