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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
序章
9/88

表裏一体 不離一体? その1




緊迫感を上回る憂鬱とした気分で迎えた月曜日。

黒いリュックサックを抱えたリアスは、いつもの道をいつもの時間に帰宅する。

「(今日はまともに授業受けられなかったな…)」

晴天の空の下に佇む角張ったデザイン性の高い校舎を出ると、屋根のせり出した部分に巨大な柱が3本ほど立っている。

リアスの横にいた数人の生徒達が、柱のほうを指差して何かヒソヒソと話していた。

「ねぇあれ……」「脚がグンパツだ…」「グンパツだな…」

どうせ通りすがりの美人だろうと思い、そそくさと足を運ぶ。といってもリアスは男。純粋な部分は多いが、やはり欲望には勝てるはずもない。

柱の横を通る際にチラッと、目が痛くなるほど黒目を横に向けた。

短めのダッフルコート。ブーツ。ジーンズ。いつもとは違って下ろされた髪には、また一味違う大人の美しさがあった。

「あ、やっと来た」

まさかとは思ったが、そのまさかだった。

この前はアメリカ人にとっては珍しい高校の制服だったので記憶に濃く残っていたが、今回は私服。コイツはいつまで家出をするつもりなんだと心で毒を吐きながら、リアスは「げっ」という言葉を無意識に漏らすと、ユノをなめまわすように見つめた。

「さぁ、行きましょ」

「え……?」

「連絡したじゃない、護衛を優先させるために母親探しに終止符を打つって」




街中に違和感満載で建っているレンガ造りのまるで聖堂のような見た目をした建物の、扉の真横の看板に『アウル探偵事務所』と小さく刻んであった。

「探偵事務所…?」

建物を見上げ、シャーロック・ホームズのような典型的な探偵を思い出す。

「今どき事件に巻き込まれたかもしれない人の家族に警察から連絡が一切来ないなんておかしいでしょ?これは最終手段よ、昔一度だけ来たことあるから安心して」

リアスが喋り出そうとする前にユノは建物に入っていった。



無駄に広大で整った部屋には、茶色を基調としたいかにも高級そうなソファや机、高い天井や理解不能な抽象画や本の詰め込まれた本棚が見事なバランスでモダンな雰囲気を出している。

「いやぁ、大きくなったねぇ」

椅子に座った初老のスーツを着た男性がユノに向かって笑顔で言った。シワは深く、髭を蓄え、貫禄のある顔をしている。

「お久しぶりです。早速ですが、今回は私ではなくこちらの少年からの依頼です」

机に置かれた紅茶の湯気を払うように手でジェスチャーすると、リアスが分かっているくせに俺?といった顔をする。

「最近はもっぱら警察が仕事を奪っていくから、依頼人が来るなんて久しぶりだよ。それで、内容は?」

「あー、えーと……母が帰ってこないんです」

探偵といっても能力を駆使するタイプなのか心の中で葛藤が起きたが、単刀直入に言ってみた。

得体の知れない奴らに拉致された、なんてことは嘘でも口に出来ない。能力を使うタイプだと信じてみる。

「君のお母さんのお名前は?」

「ディアン・ペルフです」

「少々お待ちくださいね」

初老の男が机の引き出しを開け、巨大なアメリカの地図を開く。次に男は咳き込むと

「おいアレク!」

男が大声を出すとほぼ同時に、後ろの扉が開いた。リアスのユノは後ろを振り向く。

「毎回忘れるのはどうかと思うよ」

「いやー私も年かねぇ」

ブロンズの髪に大きく澄んだ茶色い瞳。リアスよりも身長は高く、シャープな骨格はまさに美少年といった印象を受ける。

「あ、こちら息子のアレクです」

アレクというリアスと同じぐらいの年齢であろう青年は足早に歩くと、ペティナイフを初老の男に手渡した。

ペティナイフを渡すと欠伸をしながら怠そうに入ってきた扉に向かった。

「君、可愛いね」

「アレク」

「はいはい」

ユノに放った言葉は初老の男の親らしい注意によって遮られた。

初老の男は腕をアメリカ地図の上にやると、受け取ったペティナイフを手首に優しく当てた。

「血とか苦手でしたら目を瞑っていてくださいね」

初老の男が手首を軽く切った。手首からは一筋の血がゆっくりと腕を伝わり、地図上に落ちた。

リアスのユノは唾を飲み込み、血が落ちた地図をじっと見つめる。

「今、血を落とした場所がほぼ現在地です。ここから君のお母さんの動向が分かります」

落ちた微量の血はひとりでに動き始めた。机が傾いているわけでもないのに、血痕を残しながら進んでいく。

血はペンシルベニア州南東部、つまり現在地から南西に向かって不規則な動きで進んだ。

「ここは…」

動いていた血が止まった。3人は地図上に顔を集める。

「……ワシントンD.C.…!?」

血がピタリと止まった場所はワシントンD.C.。能力の解釈が正しいのであれば母は首都に行ったまま戻ってこないことになる。

「君のお母さんは今、D.C.にいる。しかしこれは「生きているまで」の動向。今現在、必ずそこにいるとは限りません」


コンコン――

緊張が走ったその瞬間、扉がノックされた。

「父さん、客です。今すぐ会わせろって」

扉を開けると先程の青年アレクと、2人の男が悠々と立っていた。

「すまねェな、明明後日って言ったけど怒られたから今日にした」

ロングコートを羽織った茶髪の男。一昨日リアスの自宅にて襲ってきたミュラスという男と共に消えた男だった。

呑気な声は逆に2人を恐怖させる。

明日だと思い現実逃避するように安心しきっていたが、連絡なしの急ピッチ。はたしてこの状況で勝てるのか、コリオを呼んでおいたほうがよかったな、などと今になって思えてくる。

「律儀に玄関から来てやったんだし、感謝しろよ」

「……」

異変に気づいたのかアレクは振り向きながら後ずさりをし、目を細める。

もう一人の比較的髪が長めの薄紅色の髪色をした、端整な顔立ちの男は無言で睨んでくる。

「俺らはこの前の奴とは違う。今回の目的はそっちのリアスとかいう奴じゃなくてユノ様、あんただよあんた。親からの苦情処理ってわけだ」

「親……」

ユノは歯を噛み締める。脳裏には光の無い眼をした男が浮かび上がった。

「屈託なく、楽しもうぜ」



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