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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
共感の子供
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ティアーズ・フォー・フィアーズ その3




胸が鎖で締め付けられるような思い。悔いても、もう過去となった出来事には何も干渉できない。その過去は事実であり、もう抗いようのない現実。

絶望という言葉がこの場に最も適している。

倒れる体を必死に抱き抱えても、穴の開いた背中にもうかつての温もりはなく、冷えた血液と精一杯の小さな笑顔が心を穿つ。


「ハァーッハアッ!!ハァーッ…ハァーッ…ハァッ!……ああ…あああ……うあああ……ああ……あああっ…!」


信じたくない目の前の光景に、リアスは頬を濡らす。彼女の血は止まらず、目も開いていない。

息が苦しくなり、自分の愚かさに鞭を打つ。夢だと思いたい。イトスの能力か何かだと信じたかった。だが、その体温や涙はまごう事なき本物だった。


「うあぁぁあああぁぁぁぁあぁぁぁあ!!!!!」


悲しいという端的な言葉では1パーセントも表せないその感情が爆発し、リアスは思わず敵前で叫びを上げた。

コリオも涙も声にならない叫びを上げて、体を震わせる。


「ユノ……!!!…ッ……!」


リアスは歯を噛み締め、止まらない涙を止めようとする。


そして、複製達の波をかき分け、中心から奴が出てくる。その忌々しい奴の白衣は血に染まり、リアスに笑いかけてくる。

奴は、ホワイトハウス中の人間を殺して複製にしたのだ。相手は全員選りすぐりの特異能力者だというのに、ほぼ職員全員を複製として操っている。全員に銃を所持させ、全員に発砲させたのだ。


「……私は君が彼女を愛しているくらいに同じ……いや、その倍以上に神を信じている。だからこそ、神を理解し、神を蘇らせるために生きている。……君達をあえて殺さないのは、その気高さを評価しているからなんだ……その気高ささえあれば、正しい選択が判るはずだ…」


いつも通りの狂気の眼差しが、リアスを睨む。

イトスの後ろには大量の複製達、逃げるという手段は使えない。イトスの目の前にはリアス達、左にはコリオ。

イトスは顔を左を向け、コリオのポケットの膨らみを見る。


「コリオ・バトラー……そのポケットに入っている物を差し出せ。そうすれば、この医務室から取ってきた応急ジェルをあげるよ。後遺症は知らんが……その女の命ぐらいは助かるはずさ」


イトスが手に持っていたのは小さなチューブだった。

テレビで見たことがある。この前ユノに使った物と同じ、かなり高級品の応急処置用品だ。

コリオは不安な顔で、涙を流すリアスを見つめる。


「…リアス……ユノ……渡すしかないよね……」


涙を拭い、コリオはポケットに手を入れようとする。

仕方が無いことだ。ユノを助けるためならば、一つしか選べない選択なのだ。答えは最初から、一つだったんだ。


「………ダメだ……それをあいつにあげちゃあダメだ……!…今すぐ……破壊するんだ…!コリオ…」


まだ整わない震えた声で、意外な言葉をリアスは言った。

リアス自身も言いたくなさそうな声だった。耳を疑うその言葉を聞いたその時、ふとコリオはポケットの中の違和感に気づく。


「…応急ジェルを渡すとしか言っていない……僕達を逃がすとは言ってないんだ……!しかも本当に渡すとも分からない……元々僕達が有利になる確率なんて……ゼロに近い!」


「残り猶予は短いぞ!早く差し出せッ!」



「…………」


苦汁をなめる思いで、コリオは歩き始める。

一か八か、生か死かの賭け。

リアスにアイコンタクトを送りつつ、ポケットに手を突っ込んだままイトスの目の前に向かう。


「…正解だ。さあ、渡せ」


イトスはコリオに手を差し出している。ここに目玉を置けということなのだろうが、それがコリオにとっては好都合。

あらゆる記憶を洗い出し、覚悟を決める。

ポケットから手を出し、生命力が引き出した今までに無い素早さで、両手でイトスの肩辺りの白衣を掴み、片足をイトスの股間辺りに押し付け、鍛えてもいない筋力を使って思いっきり体重を後ろにかけて倒す。


「何ッ!?」


「オルァァァァァァアア!!!!」


コリオは至って本気で、『セヴンズ・スター』の鏃(やじり)も活用して巴投げを炸裂させる。不意を喰らったイトスはモロに巴投げを喰らい、背中を打ちつける。


「ガハッ……!」


イトスは痛みの中、瞬時に複製達を動かし始め、弾幕が二人を襲う。イトスが射程内におり、急なことだったため、御粗末な弾幕となってしまう。

その隙を狙い、二人は立ち上がって走り出す。


「リアス!早くユノ持って!!」


「う、うん!…」


リアスは血だらけで動かないユノを抱えて、足の反発を使ってみると、無事跳び上がった。

複雑な気持ちではあるが、ユノが近くにさえいれば反発は使えるらしい。これが、ユノの生きている証拠ならいいのだが。


二人は能力で不安定な弾丸から身を守り、すぐ近くにあった部屋に飛び込んだ。

うろ覚えではあるが、ここはマップルームという部屋のはず。モダンな雰囲気のイスやテーブル、暖炉やシャンデリアが貴族のような優雅さを物語る。やはり人っ子一人おらず、銃声だけが聞こえる。


「ごめん……あの変な玉なくしちゃった。でも、これは奪ってきたよ!」


コリオは、悲しみを紛らわすために微笑み、イトスの持っていた例のチューブをリアスに渡す。

目玉はいつの間にか消えていた。しかし先程の巴投げの時に鏃を使って奴のポケットから応急ジェルを奪っておいた。


それを受け取ったリアスは、唾を呑む。

リアスに残された弾丸を取り出す方法は、ユノのように吸い出すのではなく押し出す方法のみ。背中からユノは撃たれたため、胸側に触れる必要がある。

いや、女子の胸に触れるとかを考えている暇は無い。まだ生きていることを願って、反発を使って弾丸を押し出す。




「チューブが丁度良い感じで使い切った。けど……さっきから静かすぎる。足音も聞こえないし……」


応急ジェルは全ての弾痕に入れられた。しかしまだ、体温は戻っていない。いつまでも不安は消えないまま。

それよりも、周りが物音一つしないことに、胸騒ぎがする。


「この間にあの変な玉を探し回ってないのを祈るしか──」



突如として、壁の奥から何かを打ちつける鈍い音と単調な銃声音が聞こえる。地震かと思うくらいの震動が部屋を襲い、軋む音も聞こえてくる。


「何!?」


「まさかあいつ……壁を壊してる!」


心臓に響くような音は鳴り止まない。

そこは窓も扉も無い壁。あの人数なら分厚い壁を壊すことは容易いだろう。わざわざその壁を破壊する理由は不明だが、このままでは複製達が雪崩れ込んできてしまい、追い詰められる。


「マズいッ!逃げないと!」


リアスは即座に立ち上がり、ユノを抱えつつ入ってきた扉を開けようとする。ドアノブに手を掛け、押し開けようとする。


「嘘だろ!?」


疲労も重なり、片手とはいえ、扉を開けるくらいの力があるはず。だというのに、扉はビクともしない。

誰かが外側から抑えている。


ならばぶち破ろう、と思ったその時、壁が轟音と共に崩壊する。瓦礫が槍のように鋭く吹き飛び、塵が舞い上がり、夕日が部屋へと差し込む。

モダンな部屋は跡形も無くなり、自分達がステージ上にいるかのような気分になってしまう。


そして特殊部隊が突入するかのように、再び大量の複製と奴が現れる。

埃を払い、イトスは真ん中に立つ。そしてイトスが手に持っていたのは、あの目玉だった。


「…私は選ばれた……この固体オルドリクセンの能力は……「戦力的に有利な人間に近づく」能力だ。最初は大統領へと向かったが……私がホワイトハウスの人間を殺し、まだ複製もあまり創っていなかったため、お前達のもとへと向かった。だがしかし、私が大量の複製を従えていることに反応して私のもとへとやってきた……」


二人の前に目玉を見せ、天高く掲げる。


「私は今!非常に気分が良いッ!君達を私自らの手で抹殺してやろうッ!」


遂に、イトスは目玉を口へと放り込んだ。



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