スカイフォール国立研究所
「モールス信号が示したのは……」
ユノの書いたメモに全員は視線を集中させる。
【ILLLEAVEITTOYOU】
綺麗な字で羅列されている大文字のアルファベットは、ぱっと見理解不可能なものであった。
こんな時に限って暗号を残すはずがないし、所々重なっているアルファベットなんて特に意味が分からない。モールス信号というものは理解しがたいものだ。
「何これ?」
「ルクセルがが言いたかったことはこうよ」
ユノは羅列の下に新しい文字を書き直し始めた。
その文を見て、ルクセルの身に起こった最悪の事態は現実だということが理解出来た。
【I'll leave it to you】
直訳すれば「俺はお前にそれを残す」みたいな事。言わずもがなそんな意味ではなく、ルクセルの意志はキッチリ込められていた。ルクセルは不器用な隕石によるモールスコールは、最終決戦への一言、それだけを示していた。
「「後は任せた」……か」
「そう、ルクセルは良くても再起不能。最悪の場合は死亡。ここからは、私達四人が頭を叩くのよ」
ユノはまだ見ぬイトスを恨み、宝石店を見る、
フィオリは生きているのでは、という質問は誰も発さなかった。フィオリとルクセルは共に行動していたことは四人とも知っていたし、ルクセルが最終手段をとったのはフィオリが再起不能になり、追いつめられたから。
フィオリもルクセルもリルいなくなった。
「新参者だけど、僕たちが意志を託された。行こう、正真正銘最後の戦いだ」
「お待ちしておりました。スカイフォール国立研究所は、こちらのエレベーターに繋がっております」
宝石店の老けた女店員が案内したのは、バックヤードにある場違いな小汚いエレベーターだった。
罠かもしれない。だがイトスはここでそのような手段をとるだろうか。
何の根拠も存在しない信用により、言われるがままにエレベーターに乗り込む。
エレベーターの中は比較的清潔で、派手というわけでもない。エレベーターに乗ると中にボタンは無く、突如勝手に動き出した。
「すごい緊張してきたなぁ」
緊張感を和ますためか、リアスもはそう言って胸をなで下ろす。エレベーターが延々と下る中、ふと今までの短い間を思い出す。
「ねぇ、皆一つずつ隠し事をぶっちゃけようよ」
「……何言ってんだお前」
いつも通りなのか素っ頓狂なコリオに、壁にもたれるアレクは非道な言葉を浴びせる。
アレクもアレクで鈍すぎるのもどうかとは思うが。突然言い出すコリオの狙いを、ユノは一つしか思い浮かばなかった。
「良いじゃない、とっても良い機会よ。ねぇ?コリオ」
ユノはコリオに睨むようなアイコンタクトを送る。冷やかす側は非常に心地が良い。
「えっ、なっ、何の事かなぁ!?」
「…はぁ………ホントダメねコリオは。……じゃあ私から。私の名前の本当の由来はね、女神の「ユーノー」からじゃあなくって、「you no」って意味。つまりはいらない子ってことよ」
「……なんでそんな暗い話に変えちゃうのォ。明るくいこうよ」
「じゃあリアスは?」
「僕は……うーん………母さんから聞いたことだけど、僕の父さんって宇宙飛行士らしいよ」
「イマイチ信憑性に欠けるな。俺は…そうだな……歯ブラシが好きだ。種類もストック数も常にニ桁以上は無いといけない」
「インパクトは十分ね。さあコリオ…!言い出しっぺが言わなくてどうするのよ……!」
「そ、そう、私が始めたのね。私はね……私は…………」
ユノの小声は幸いにも男二人組には届いていない。ユノのほうはどうなのよ、といった視線を送った後、コリオは深く考える。
顔を赤らめるコリオに、ユノは最後の眼差しを送る。
「……す………その……す………」
チーン
どうやら無事にエレベーターが研究所へと到着したようだ。
とてつもなく良い機会だったというのに、コリオは悔いを残したままエレベーターを出る。
「一人だけ逃げるのは許さないからな。ちゃんと後で言えよ」
アレクの勇ましい背中を見つめていると、視界が白色だらけになっていることに気づく。
積雪のような純白の部屋。消毒用のシャワー室や小部屋がある廊下を、抜けない緊張と共に通り抜けると、目の前に学校の理科室のような広い部屋があった。
何に使うか想像もつかない複雑な実験器具や、無数の戸棚。人気が全く無い部屋からは、またいくつもの部屋へと繋がる扉がある。
ここが全ての終わりとなる場所。四人とも緊張が汗や震えとなって体に出る。
正面奥にある扉を開け、初めて見る奴が姿を見せる。邪悪さも陰湿さも無いクールで無表情な顔。奇抜な髪型。
遂にイトスとの戦いの時が来る。
「ようこそ……私のスカイフォール国立研究所へ。セオドアもエリナもラービーも、どうやら皆死んだようだ。とても悲しいよ、とてもとても………ね。そしてもっと悲しいことに、私は仲間と認めた者の複製で戦わない主義なんだ。悲しいよ…」
「母さんを返せ!イトスッ!」
「落ち着けよ、手順は大事だぞリアス。ちゃんとした……「死」への手順が…」
イトスは後ろに回していた手を自身の前へと出す。重々しく四人に見えるようにして出されたその手には、人間のように見えるものが握られていた。
床を引きずり、イトスの手に握られた乱れた青い髪に、リアスは見覚えがあった。
「なッ………!?イトス…………それは……!?」
リアスは息を呑み、目の前の現実を直視してしまう。
「…ディアン・ペルフは私が知っている中で……百点満点の精神力を持っていたよ」
「そ、そんな……か、母さんを……お前…」
「進化のためには何かを捧げなければならない……分かるだろ?得と損は離しても離せない存在だ。彼女はもう息をしていない。とっくのとうに手遅れさ」
再会したディアンは既に、この世にはいなかった。
声を堪えた涙は、届いて欲しい人には届かなかった。
ちゃっちゃと終わらせにいきます。




