アヴェンジド・セヴンフォールド その4
三度現れた分身。
その姿は全方位どこから見てもセオドア。そして何より恐ろしいのは、今まで見た分身の場合は能力使用不可だったのに対し、今回は能力を使っている。まだ一回だけだが、明らかにセオドアの『アペタイト・フォー・ディストラクション』を使用している。
つまりは二人目のセオドアを相手にしなければならないということ。
「……アイツは素の力が強力だというのに、「覚醒」した能力を過信しすぎたのか、ただ実験が失敗したのか、虚を見せてしまった。しかし少しは貢献してくれたようだ。……そして…真の死の滅却へと導くのは私だ」
二人目のセオドアは、瓦礫を這い上るリルに顔を向ける。
爆発にモロに巻き込まれたリルと、果ての方向に吹き飛んだアレク。果たして、滅びずにいられるか。
「リル・ペルフ……君は危惧すべき人間だ。君を殺したら、あの隕石野郎から順にいこうか。…順序を大切に、過程を大切に、君を殺そう」
その異質で禍々しいオーラは、かつて見た男と酷似している。カルト宗教にハマった信者のような信念。そして手段を選ばず全てを求め彷徨う飽くなき執念。
命の危険を感じたリルは、掴まっていた橋の瓦礫を盾にするように掲げ、その影に隠れるように水中に潜った。
と同時に、リルには見えなかったが、瓦礫を砕いて水上にセオドアが一瞬で現れる。
水中ならばある程度はセオドアの動きを抑制出来ると考えたリルは、更に深くに潜り込み、奴を待つ。
リルの『ザ・ハートブレイク』なら、近づいてきた者は容赦なく殺すことが出来る。水中での動きの鈍い奴を、確実に抹殺する。
「その答えは不正解だッ!リル・ペルフッ!!」
水上でセオドアの声が発されたその瞬間、水面に揺らめく人影が腕を振る。海を割ったというモーゼのように、その高速で振られた腕は海を裂き、水流を乱した。
「!」
圧倒的水流が体を襲い、強風が吹き荒れたときのように体を激しく押し飛ばす。
間接的に、近づかずに殺そうという魂胆だろう。たしかに水中にいる今、対特異能力武具は一部制限されているし、自身の動きも鈍くなっている。
「だがこんな漣以下の水流なら、瓦礫と一緒にシェイクでもされない限りはこのリルはやられはしないぜェッ!!!」
リルはセオドアに対抗しようと、対特異能力武具である爆発の指輪を自身の靴の底に取り付けた。使えるかどうかは運次第。靴もまた対能力武具であり、強硬なため、爆弾に浸水しない技術でも搭載されていれば、超小型時限式爆弾によって大きく飛び上がれる。
「お望みとあらば、叶えてあげようッ!」
水上のセオドアは体を回転させ、高速で我武者羅に水を掻き回した。
その様はフィギュアスケートのように美しく、闘いに熱を入れない心の現れ。やはり先程から余裕をかましており、絶対的な自信があると見受けられた。ここでマトモに戦って倒しても意味が無いということは薄々思っている。
掻き回された水は螺旋を作り出し、電動ドリルで穴を開けたようにポッカリと見事な渦となる。かなり深く、瞬く間にリルを飲み込む。
これもまた威力が凄まじく、生身の人間ではどうすることもできない。体が振り回され、頭が回る。
そしてセオドアが落としたのか、瓦礫も渦に巻き込まれて、言ったとおり瓦礫と共にリルはシェイクされる。瓦礫が混入しても渦は止まることをしらず、どちらかといえば速くなっているような気がする。
「ッ!」
常に体中を細かい破片が切り裂き、時々大きな瓦礫がどうしようもない力で衝突する。頭と頭をぶつかり合わせたような鈍痛が常時響き、血と水が混ざり合う。拷問には慣れている、今はただ只管に上を向き耐えるのみ。
そしてやっと、タイマーがゼロを告げる。
「とことん付き合ってやるッ!!!」
靴に付けていた超小型爆弾が爆発し、リルの体を真上に押し上げる。魚雷のように進み、渦をものともしない。
水中を抜け、遂に水上に出た。
目の前にはセオドアがおり、風船が割れるような音が響き、心臓の破裂を確信した。
「やり返してみろッ!セオドアァッ!!」
「カスが……調子に乗るんじゃあない」
すぐに、そこにはセオドアの姿は見えなくなった。高速で移動しようとしたのだろうが、もう遅い。「ザ・ハートブレイク」で心臓は破裂し、動く力は一瞬で無くなる。
ざまあ見やがれ、と思ったが。次の瞬間に目を丸くする。
あれは確かに奴の仕業だろう。だが何故あんな体力があるのだ。奴は心臓が破裂したのだぞ。あんな事をするのならば、意識なんてとうに吹っ飛ぶか、体に力が入らないないはず。最後の力を振り絞った、というオチなのか。
リルの体を、巨大な影が覆うだけであった。
それより少し前、スクエアにて。
「オイ!テレビ見たか!?近くの橋が崩れたらしいぜ!」
「ああ見た見た!こっからクソ近ぇとこにあるあの橋だろ!俺もう家に帰れねーよー!」
呑気な若者二人が、橋の崩落についてを談笑している。
そしてそれを近くで盗み聞きしていたとある勇者が三人。
「……さっきからアレクとリルさんに電話が一切繋がらないと思ったら……そういうことだったのね……」
「私、行ってくる。二人は待ってて、特にユノなんかはこの前の脳の反動がまだあるんだからね」
コリオは二人に背を向ける。
アレクとリルが心配でならない。手を伸ばせばすぐそこにある鍵。イトス様というのを紐解くには迅速な行動が要になる。
「コリオ一人で行っちゃダメ。私達じゃなくてもルクセルかフィオリ、二人以上じゃないと。リアスも何か言ってあげて」
「……僕は…ただの勘だけど、セオドア脱獄と何か関係あると思う。ほら、アレクってセオドアの証拠を提出してるしさ。だから、確実に倒すためには、複数人必要だと思う」
リアスとユノは子供を叱る夫婦のようにコリオを説得する。確かにコリオは子供っぽく無理をするところが多々ある。一人では行かせてはならない。
「こんなことしてる内にアレク達は戦ってるんだよ!?なのにダラダラと待ち合わせしてる時間なんてない!」
「落ち着いてコリオ、心配なのは私達も同じ。でもね、コリオは特攻隊になっちゃいけない。皆で助かって、皆で笑って帰れるようにしないといけないの」
「もう私の親は死んでるの!ちゃんとした顔ももう思い出せないし、最期がどんなのだったのかも忘れた!思い出したくないから!私は皆で笑うために決着をつけないといけない!運命に決着をつけるの!」
本当のトラウマは脳が自然と封印するという。コリオの幼い頃に殺されたということもあってか、両親の事は分からない。祖母に育てられ、両親の生い立ちを聞くと、宇宙飛行士だといつも茶化していた。
コリオはどうしても決着をつけて、救いたいものがある。
「私も親はいないも同然だけど、あなたの気持は全く分からないわ。私達は誰も失いたくないの、より確実に、確率の高い方法を選んで進んでいかないといけないの。あなたの親に対する気持ちは変えられない何かがあるかもしれないけど、私達にもあなたに対する変えられない気持ちがある。一人の自分勝手な感情で動かないで」
「うるさいッ!!!セオドアを殺すために私は生きてるの!1%だろうとなんだろうと!奴を殺すためなら私は死んでもいい!!」
意外なコリオの切迫さに二人は驚く。
「……時間を無駄に使っちゃった。…ごめんね……私は行くから」
二人はコリオの走り去っていく背中をただ漠然と見つめるしかなかった。コリオの復讐心には、底の知れない闇があるのかもしれない。二人には到底理解できないような、何かがあるのかもしれない。
水中で喋ってるのは気にしないでください。




