アヴェンジド・セヴンフォールド その2
川に落下している途中。
「ダメだ!下に瓦礫が!」
何の障害物にも当たらずに水中に潜れれば良かったが、丁度真下に巨大な橋の欠片がある。
このまま落ちれば瓦礫に衝突し、そして上からの瓦礫の追撃でお陀仏だ。足が下に向いていれば良かったものの、完全に背中が下になり、『ファイネスト・アワー』で力の増強を行ったとしても生還は不可能に近い。
ここで終わってしまうのか。短い人生だった。
「アレェェエーーーークッ!!!!掴めェェーーッッ!!!」
突然ワイヤーがアレクの肌に触れ、反射的にそれを鷲掴みにした。すると一瞬で引っ張られ、釣り餌に引っかかる魚の気持ちを味わう。
「オオオオオオオォーーーッ!!!!」
狭い瓦礫の隙間を巧みにすり抜け、山なりに引っ張られて空中に出た。視界が開け、意外な人物がワイヤーの持ち主だと判明する。
てっきりフィオリが来たのかとばかり思い込んでいたが、ワイヤーの射出元は掌ではなく、腕に付けたハイテクそうな機械。大きめのボートをドリフトで華麗に乗りこなし、颯爽と現れた。
「アレクッ!覚悟決めろよォッ!!!」
「リルッ!!?」
予想外、助っ人はリルだった。アレクはまたどこかから盗んできたであろうボートに、体を叩きつける覚悟を決める。
「なッ、何だテメーはよォーーッ!!!」
ボートが近づいてくるその瞬間、急に方向が乱れる。
ワイヤーの中間地点を押す力が一つ。ボウガンの弦を引っ張るみたいに、奴が手でワイヤーを引っ張っていた。圧倒的なスピードを制御できていないなんてことはなかった。確実に、的確にワイヤーを乱していた!
「セオドアァァアッ!!!」
憎しみと冷酷が混じった眼をこちらに無言で向け、セオドアがハッキリと姿を見せた。
野球部がタイヤを引っ張って練習に取り組むように、どんどん方向は曲がり、ボートへと続く道は川に打ちつけられる道に車線変更しそうになる。
「クソッ!!こりゃあフィオリのワイヤーみたく切れないわけじゃあねェッ!畜生がァアーーッ!!」
フィオリのワイヤーが絶対に切断不可能なのは衆知の事実。しかし今使っているワイヤー射出装置のワイヤーは脆いというわけではないが、切ることは可能。
なんてこったい。このままいけばワイヤーは断たれ、アレクが川にドボンしてしまう。どうにかしなければ。
そこで先に行動したのはアレクだった。
「この俺がこんな大チャンスを私情で逃すと思うかよォォォォーーーッ!!!」
「何やってんだアレクーーッ!!!!!」
驚くことに、アレクがワイヤーを掴む手を離した。
「はッ!…理解したぜアレクッ!あとは私に任せて水泳でも楽しんでなァッ!!」
驚きと共に考えを察したリルは、即座に指輪をワイヤーに接触させた。それは例の数十万ボルトもの電気が放出される対特異能力用の武器。リルのように厳しい訓練を積んでいなければ、感電死は免れない。
カチッと小さく音が鳴り、刹那的に電撃がワイヤーを伝っていく。
バチバチバチッ!──と、現在のセオドアの速度が電気の速度に勝るはずもなく、確然に電撃を食らわせた。
しかしあろうことかセオドアはワイヤーを掴んだまま離さない。硬直しているわけではない、憤怒の目がリルを睨みつけていた。
「浅はかな感情だけでつけあがるんじゃあないッ!!!せいぜい死に急いでいろッ!!」
「なんで生きてんだアイツはァッ!!」
リルはセオドアの異常な運動能力や耐久力を知らないため、当然の反応だろう。
それよりも驚くべきなのは、いつの間にかセオドアが燃えている事だ。手に炎を纏っており、それは徐々に広がっている。
そしてもう一つ、ワイヤーが引き戻す状態のまま反応せず、セオドアをリルへと引き寄せているのだ。装置を外すためにはいくつかのベルトを外さなければならないが、そんな時間は無い。
「クソッ!!ワイヤーがさっきの電撃で壊れてやがるッ!」
いくらボタンを押しても反応無し。
もしや、奴が燃えているのも先程の電撃のせいなのでは?奴の速度を操る能力ならば火花でも起こして引火させるなりなんなり簡単に出来るはず。そしてあの電撃を耐える体なら、体が燃えるのを耐えることだって可能。
「我が『アペタイト・フォー・ディストラクション』に平伏し悲嘆しろォォォォォオオオッ!!!」
烈火のセオドアはボートに突撃し、爆発が轟いた。
「リルーーーーーーーッッ!!!!!!」
やっとの思いで顔を出したアレクの目の前に広がる悲惨な光景。その声を掻き消すように、爆音と衝撃波が水面を揺らした。




