アヴェンジド・セヴンフォールド その1
アレクはタクシーに乗り、橋を渡る。
一旦ワシントンD.C.から離れ、父親の旧友に会うために車を走らせる。ユノから聞いたイトス様という男を捜すため、旧友自体は知らないらしいが、そこから数珠つなぎのようにして能力や情報を駆使して近づいていこうというワケだ。
しかしことあるごとに父親の人間関係には驚かされる。
プップーッ!!プーーーッ!!!
クラクションがやたらと鳴ると思い後ろを向くと、どうやらこの車から渋滞が起こっているようだ。
「…………!……オイ運転手。ちょっと遅すぎるんじゃあないか?この車のせいで渋滞が起こってるぞ」
「すいませんねェーなんだか力が入りづらくてェーー」
違和感を感じる。老いているのか、喋り方が遅い。
走った方がよっぽど速いスピードで走るタクシーの後ろでは、催促するクラクションのオーケストラが始まり、アレクも耳が痛い。しかしどんどんタクシーのスピードは下がっていく。
「おい聞いてるのかッ!!速度を上げろと言っているんだッ!!!」
「……まぁあってくだぁさぁいよォ~…………今ぁすぐに上ぁげますよォ~」
「……!?…………な、何言って……」
運転手の喋り方がスローになっている。
おかしい、これはほぼ確実に敵の攻撃。
そして、アレクの知る内で言動を遅くできる能力……それは一人。
戦慄的な空気が張り詰め、汗が噴き出す。
クラクションの音を遮断し、恐怖に怯える。心当たりは無いというわけではないが、なぜ自分という意味をなさない転嫁を思った。生命の危機を感じて頭をフル回転させ、最も安全であろう行動をとる。
「クッソッ!!!!」
アレクは咄嗟に扉を開け、後先考えずに飛び出した。
その瞬間。まだ空中にいる合間。
バンッッ!!!──
瞬きする暇も無く、タクシーが圧倒的なパワーでスーパーボールのように打ち上がり、視界の彼方に消え去った。そして川にタクシーが落水したと同時に、アレクの体が地面に触れる。
あと0.1秒でも遅く飛び出していたら死んでいた。
あまりにも速過ぎる。物理の法則が乱れたわけではない。それなりの尋常ではない速度によってタクシーは吹っ飛ばされたのだ。
奴の姿は既に無い。
「こいつはマジでピンチだぞ……助けを呼ぶ暇すら無さそうだ………」
アレクは唖然としながら立ち上がる。屋根も障害物もこれっぽっちも無い橋の上。
頭の中には勝利という感情は無い。ただあるのは生命維持の本能と人海戦術の意向のみ。犯罪に出くわすと足がすくんで動かないなんてことをよく聞くが、アレクにはそんな事をしている隙は無い。
「お、おい…早く出せよッ!巻き込まれる前によォー!」
タクシーのすぐ後ろでクラクションを奏でていた車の運転手と助手席の男がコソコソと話している。必然的に逃げるのだろう。
特異能力での犯罪行為は重罪。いくら小さな万引きや速度超過であろうと刑罰はえげつないほどに重い。
アレクはその当事者か主犯とでも思われているのだろう。
「奴が現れない………何を出し惜しんでいるんだ…?」
アレクは道路の脇で立ち尽くしたまま奴が姿を見せるのを待っている。反撃ができるかと言われれば、できないが。
ここで先程の車が発進し、アレクの目の前を通り過ぎて行く。
なんとなくは勘づいていた。今通り過ぎていった車が逃げられるわけがないと。
バンッ!!!──
「………ッ!」
真上からの一撃で車がプレス機にかけられたように潰され、一気に爆発まで到達した。アレクは至近距離からの爆発音と衝撃に膝をつき、ほんの一瞬だが、車が潰れた直後に跳び上がって行く人影を捉えた。
「………」
しかし人影を追ってはいけない。奴はおそらく自身の高速すぎる動きを制御できていない。アレクの位置を固定するためなのか、恐怖を植え付けるためなのか、詳しくは不明だが、今のうちに冷静に対処するべきだ。
奴は殺人鬼。行動の予測は難しい。
そして再び、機会が訪れる。
今度はアレクの前方に人影が現れ、それは車ではなく橋を叩いた。
瞬間的にヒビが走り、崩落への序章を始める。
「ウォォオオッ!!!!」
足元が覚束なくなり、すぐに足をつく場所すら消える。橋はまるで木の板のように真っ二つに割れ、崩落した。橋のワイヤーも切断され、当然の如くバランスなどとれなくなる。
助かろうとしても掴む場所や足を置く場所すらなく、アレクは空中に放り出された。
下は川。そして上からは瓦礫が降り注いでくる。
無論抗うことはできず、青く晴れ空のような水の深淵へと落ちていった。




