セオドア大包囲網 その3
作戦開始から6分経過
「オオオオオオオオオオ!!!!!」
震天動地。電光石火。
待ち望んでいた全隊への能力使用許可は一気に心を躍動させ、一瞬で全員を動かした。
飛ぶ者から潜る者。炎を出す者に水を出す者。遠距離近距離と、ありとあらゆる能力が揃っている。
「こっちだッ!!奴を閉じこめた!!突撃しろォォォオ!!!!いけェェェェエーーーッ!!!」
とある隊員の能力により、セオドアは岩の壁に閉じ込められた。中ではセオドアが暴れているのか隊員が遠隔攻撃しているのか、爆発音が轟き、数千人の大胆不敵な攻撃はセオドアを撃滅しようとする。
もう策謀もへったくれもない大侵攻。しかし多勢に無勢が奴には最も効果的な作戦だ。
「無知は重罪……知識が乏しいと全てが上手くいかない………そうだ、明日はこあの子の誕生日だったかな。ケーキを買っておかなくっちゃ」
セオドアは暗闇の中、爪を噛む。
暗雲が立ち込める真夜中。大轟音、ソニックブームが広範囲に広がる。死の宣告であり、圧倒的な力の証。
全てを八つ裂きにし、全てを貫く拳に迷いはなく、超然たる男は死体の山に君臨する。
「君とみる月はよりいっそう輝いて見えるよ」
「……作戦開始から2時間46分…全隊、応答しません」
「陸海空軍は?」
「作戦に導入した分では……同様に応答無しです」
「生き残りに繋げないか?」
「できますが……時間の問題かと。生き残りも徐々に減らされています」
「繋げ。セオドアなら全滅するまで戦うはず。それなりの怪我を負っている今こそが潮時だ。俺と、もう一人か二人、ついて来てくれ」
無謀だとか徒労だとか、そんな言葉はハリーには通用しない。諦めるという思考はもう脳内から取っ払い、命を知らずに立ち向かう。
近年のFBIでは緊急時にのみ特異能力の使用が許可される。そのため、採用試験の際は特異能力によって配属先や地位が確立してしまう。14年前から、この世は生まれ持っての才能という言葉で支配されているのだ。
ハリー・ウエストウッド特別捜査官。熱意と正義感の強い彼は、比較的恵まれた能力を持っている。
そしてもう一人。4年前、厳しい採用試験を潜り抜けてきた男。アクセル・ウェバー。オールバックの紳士を真似た髪型が鼻につく。しかしかなりの有能新人ということで、ハリーと何度か同じ
事件を捜査したことがあり、この作戦に導入された。
FBIというのは特殊部隊ではない。しかし戦闘訓練は積んでいる。平和には戦いが付き物。二人は陸軍のような装備を身に纏い、決死の覚悟で瓦礫の上を登り進む。
ハリーは偵察し、何も無いことを確認する。
「今度は俺たちが奴をぶっ殺さなぎゃあならない」
「分かってます。これ終わったら彼女にプロポーズするつもりなんですよ自分」
「そういうことは口に出すもんじゃあない。もれなく死ぬぞ」
「ハリーさんはクールですね。必ず生きて帰りますよ」
「はぁ…そりゃ期待しないとな…………。とことんやってやる…かかって来いセオドア!!!」
ハリーの静寂を引き裂く雄叫びはセオドアの耳に入った。




