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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
共感の子供
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セオドア大包囲網 その1




アレクから例の封筒を受け取ってから二日後。



夜の街。メリーランド州西部に位置するヘイガーズタウン郊外。ビル群等の大きな建物はほぼ無く、月光に照らされ、1900年代以前に誕生した様式の建築物がリッチな雰囲気を醸し出している。


「今日は君と一緒にいたい気分だ。さぁ、こちらへ」


「何を照れてるんだ。恥ずかしがることはなにもない」


「おっと、下品だな。縦筋があるじゃあないか、後で磨いてあげるよ」


その男は自身の一つも爪の無い指に、懐から取り出した明らかにサイズの合わない生爪を食い込ませた。




アメリカ史上最悪の連続殺人鬼 セオドア・ヴァン・ヴァリエート。神出鬼没なところや決して捕まらないところから「霧の悪魔」なんて一部界隈では言われている。

初めて殺人行為が確認されたのは2028年の11月。この時点からその狡猾さを発揮し、捜査技術が発達した現代でもセオドアは逃げ果せた。そして2030年の特異能力発現がセオドアの殺人衝動を加速させたのだ。


「合計殺人人数は確認されているだけでも715人……実際は証拠が無いだけで、800人強という考えられています。犯行の際は指紋や目撃情報などの証拠はほとんど残さず、ごく稀に足跡や衣服片があるだけ。………これまでは顔写真は無し。生まれた頃から偽装だらけの暮らしです。そして、そいつの下痢便みてぇな顔面と現在地がこちらです」


ハリーは夜の広大な会議室で、スクリーンに地図を表示させる。そして端には、男の顔が表示されている。赤髪混じりの黒髪に鋭い死魚目、鼻筋の通った顔。一般的に言えば、イケメンだ。

大学の講堂のような空間で、多くの捜査官達がその画面に目線を集める。


「ハリー捜査官。私情は挟まないように」


横に座っていた貫禄のある男に一喝されても、ハリーは怖じ気づかない。遂に追いつめた殺人鬼。今までやってきた事が報われたことで、感情が抑えきれない。


「セオドアの現在地はメリーランド州。ヘイガーズタウン郊外の住宅内にいます。この住宅はセオドアのものではなく、れっきとした所有者がいますが、生死は不明です。その所有者の目撃情報が2週間前から途絶えていることから、セオドアの潜伏開始は2週間前と推測されます。既に数千人規模の特殊部隊を動員し、現地で合流予定。周辺住民の避難は完了しました」


「詳細に関しましてはお手元の資料をご参照ください」




全国からかき集めた特殊部隊。念のため陸海空軍も遠方で見張っている。。メディアへの情報流出は一切無し。FBI捜査官も数人のみ司令員として派遣されている。

装備も万全。万が一の場合は、特異能力の使用も許可されている。


「全体、配置完了。予定通り11時半より作戦開始とします」


数千対一人。勝ちは明確。




ヘイガーズタウン。セオドアの潜伏している住宅前。

一人の少女がドアをノックする。


「バーナードさん。みんなどっか行っちゃったよ。バーナードさんも一緒に行こうよー」


純粋無垢は時として凶を迎える。

バーナードというのはこの家の所有者の名前。彼女はバーナード家の灯りだけがついている事に違和感を覚えたのだ。


「ダメーーーッ!!!オリビアちゃんッ!速くこっちに!!」


遠くから聞こえる母親の迫真の声は少女に聞こえた。しかし聞き間違えたのか、まだ言葉を覚えてまもなかったのか、オリビアという少女は動こうとしない。


その時、ゆっくりと扉が開く。軋んだ音を立てて、一人の男が顔を見せた。


「あ、バーナードさん。お母さんもいるから三人でみんなのいるところに行こうよ」


男は小太りで大量の髭を蓄えた男。

老けた顔に暗い影を作り、顔は少女に向かっていない。


「………」


「バーナードさん?おトイレ?大丈夫?」


突如として、ドサッと、バーナードという男の体はオリビアの目の前に棒のように倒れる。その男の体には下半身がなく、血も流さず、強烈な腐敗臭が少女の鼻を触った。


「そこの君……まだ幼いな…二次性徴はまだっぽいね」


次に細身の男が顔を覗かせた。赤髪混じりの黒髪の男。優しそうな雰囲気だ。


「おじさんだぁーれ」


「おじさん…………そう、昔の中国の人に、爪で人の性格を見極めた王様がいるんだけど。どうやったか知ってるかい?」


「知らなぁーい」


「切った爪の一つが無くなって、もし紛失した爪をを踏んで怪我したら大変だと言って部下に爪を探させたんだ。我武者羅に探す者に謝る者、その場で自分自身の爪を切って差し出す者。実は王様自身が爪を隠し持っていて、なくしたと嘘をついていた」


「変な王様。私なら掃除機で掃除する!」


「お嬢ちゃんは進化に適応している。野心家だね。ちなみに私なら………」


少女の頭に手を乗せた。

「アギッ……!」

すると一瞬で、少女の頭は地面の石畳に向かって激突し、止まることを知らずどんどんめり込んでいく。

まるで掘削機のように、穴を掘る。

突然頭だけが重くなった感覚だった。それは一瞬で、頭を支えることができなくなり、石畳とぶつかった衝撃で少女は頭から血を流し、やがて息をしなくなった。


深い穴を作る少女の頭に足を乗せると、めり込みは止まった。


「平凡だけれど、王様と同じ爪の形をしている人を見つけるまで人を殺す。かな」



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