活路とお届けもの
幾つかに縛られた白く煌やかな髪。ワンピースにも似た水兵服であろう服を着用し、清潔さは保っているようだ。
大きくなったアリスが顔を見つめてくるもんで、アレクはつい顔を逸らしてしまう。
「あれは……怪我は治ってんのか?」
アレクは視界に入った屋根裏部屋の床でうずくまるコリオを眺める。
「大丈夫、適当に処置しておいたよ。万が一にも死ぬなんてありえないありえない」
「適当ってお前な………それにしても、ありゃ何してんだ?」
コリオは高熱が出たときのように顔を火照らせて苦しそうにしている。太股に手を挟み、息も荒いようだ。
「それは女の子だけの秘密。お兄ちゃんは気にしなくていいから」
「そ、そうか」
幸いこっちにはリルやフィオリといった変な職業に就いている奴らのおかげで病院いらずみたいなものだが、一応はその内病院にでも連れて行こう。
ここまでは久しぶりに再会した喜びによる他愛ない話。
「それで、話って何」
「……単刀直入に言おう、お前にセオドアの件について警察に話してもらいたい。そうすればすぐに解決できるはずなんだ」
「やだ」
「…………」
軽やかな即答だ。
アリスは強気でいるが、セオドアの件は相当精神にダメージを与えているはず、無理は言わない。しかし唯一の生還者であるアリスから情報を引き出さないと他に方法が無い訳だ。警察でも辿り着けなかった今ここの場所にいるアレク達がやらなければならない。
「じゃあ……警察、実際にはFBIの人間がここに来るっていうのは?これなら外に出なくてもいいし、一手間省け」
「やだ」
「そうだ、何か証拠とか無いのか?いや、さすがにそれは無いか」
「あるよ」
「あるのか………あるのか!!?」
アリスは怠そうに立ち上がると、一つの封筒を振り子時計の裏から取り出し、アレクに渡した。
おそらく振り子時計の裏に隠していたのだろうが、この封筒がなんだというのか。
「………」
アリスは黙り込んでいる。
セオドアの殺人の悲惨さとアメリカ全土に広がる恐怖はアレクだって知っている。
ここは気を利かせて許可を得ずに封筒を開ける。
「手紙と……これは…な、なんだこれ……気色が悪い」
一枚の手紙、それともう一つ透明な袋に、異様に生々しい黄ばんだ何かが入っていた。
「木材?………い、いや、これは爪…!生爪だッ!ウゲッ、気持ち悪ッ!」
生爪。根元から剥がれた人間の爪だった。アレクは生爪の入った袋を即座に封筒に戻し。手紙の方を見る。
正直手紙の方も見たくはなかったが、見ない限りは進まない。嫌々折り曲げられた紙を開く。
『愛するアリス・コールマンへ
おめでとう。君は逃げた。おめでとう。
セオドア・ヴァン・ヴァリエートより』
いや、まさかとは思ったが、そのまさかだった。かなり薄気味悪い文章、贈り物をしてきたということならアリスの住所が特定できているということ。そりゃ恐怖の増大に繋がるのも当然だ。
おそらくこれは警告も兼ねているのだろう。
本当にセオドアからの贈り物ということなら十分な証拠となる。今の捜査技術なら特殊な捜査法も確立し、物体の持ち主を特定したりもできる。
「ありがとうアリス。これを届ければ完璧だ。よしコリオ、引き上げるぞ」
踵を返すアレクの服の裾を、アリスが掴んだ。
「待って……いかないで」
顔を俯き、涙目で訴えてくる。
アレクは涙に弱いのか、頭を掻く。だが申し訳ないことにアレクはFBIにいる父親の知り合いにこれを届ける使命がある。
「ったく、手間のかかる従妹だな。でも俺は行かなきゃいけないし…コリオ一人を置いといても不安しかねぇな………あとは……」
「てことで頼みました」
「頼まれました。………っじゃないよ!そこ普通ペルフとユノに頼む展開だよね!?なんでこうなるの!?」
「そうだぞアレク。俺の能力はこの屋敷を破壊することしかできないぞ!」
「いや、おっさん二人じゃむさ苦しいしアリスも困ると思うんでコリオも置いておきますから。あの仲良しコンビは後始末やら受験やらで忙しいでしょうし、あのスパイコンビも調査中ですし、暇なのは二人だけだったんで仕方ないです」
「あのセオドアを捕まえるってのはまあ至極関心するがね……女子に頼まないのかそこは」
「そうだそうだ」
「文句が多いですね。そんなに文句言ってると老化が促進されますよ。んじゃ、よろしくお願いしますおっさん二人」




