信頼と勇気と保全と
ファストフード店や住宅が立ち並ぶ昼過ぎの道で、アレクはバス停のシェルター内にて携帯電話を耳に当てる。
「今からオーケーですか。ええ、そうですよ。……いや、そんな面食らわなくても………多分6か7時頃までには………いやそんなことは……では」
今アレクはセオドアの情報を握っている。
どこかに誰か付け狙っている人間がいるのではないかと過度な心配をついしてしまう。
「はぁ……」
バスが来ねぇ。バス会社がストライキでも起こしたんじゃないか。
電話の相手は父親の知り合い。ハリー・ウエストウッド。FBI捜査官で、セオドアを長い間捕まえられない事でやけくそになっているのかアリスに会ったと言った時は音割れするくらいには驚いていた。
そりゃ14年以上もおよそ週一のペースでアメリカ中の人間を殺す奴を捕まえられずにいるのだ。周囲からの重圧もしかり、世間からの批判も数え切れないぐらいあるだろう。
特異能力発現での大混乱もほとんど収束してきたが、特異能力を駆使しても捕まえられない男。少し気になる。
フィラデルフィア中心部。ビルが連なる中にある今風のカフェにて、ハリー・ウエストウッドと落ち合った。
ピッチリとしたスーツに威圧感が凄まじいスキンヘッドの厳つい顔面。本人曰くダニエル・クレイグに似ているとよく言われるらしい。
「よおアレク。かなり久しぶりじゃあないか。もうガールフレンドとは一発やったか?」
「………どうも。ハリーさんこそ右手という名のガールフレンドとはそろそろお別れしましたか」
「女との出会いが少ないんだ。そこは勘弁してくれよ」
軽く握手を交わし、席についた。周辺に不審な人物は見当たらない。カフェの奥側に座ったから狙撃なんて妄想は実現されないだろう。
「それはそうと、何故カフェなんかに?支部局じゃあダメなんですか」
「まあ……それはごもっともなんだが………以前に、13年前にここら一帯に奴が潜伏していたときがあったろ?…あの時にも一人、逃げのびた女がいたんだが、そいつは警察署に逃げ込んで来てな」
「だけど奴に警察署にいた人間全員が殺されたと」
「まあ実際には数人生きてたんだが、結局目撃者はゼロ。室内だったから逃げ場も外から見えやすい場所も無かったってわけだ」
ハリーはコーヒーを慎重にすする。
ちなみにさっきから奴と呼称しているのはセオドアのこと。過剰だが、どこにいるかも判らないセオドアに悟られないためだ。
「………でも、カフェなら人が死んでもいいと」
アレクは少し顔に影を浮かべる。
確かに今後の被害者が減るならいいかもだが、なんだか腑に落ちない。
「……それに関しては弁明の余地もない。一応はこのカフェにはお前以外は同業者しかいないようにしている。窓際に人が多いだろ?ありゃ全部そうだ。すぐに窓ぶち破って逃げられるように窓際にいる」
「なんかすいません。それはそれとして、これが例の封筒です」
アレクはゆっくりと、周囲にいらぬ警戒をしつつ封筒を差し出した。
ハリーはそれを受け取ると、封筒を外から少し触っただけで、封筒を仕舞う。
「唯一の生還者に贈られた封筒……なんだか勲章じみてるが、ホントにイカれた野郎だな奴は。よし、これだけで足跡は完璧だ。居場所と奴の薄汚い顔面がお披露目されたところで奴の人生は終わりだ」
「あの……」
「ん?」
「いや、何でもないです」
一瞬、俺達も同行させてください。と、言おうとしたが飲み込んだ。こんな若造が同行していいわけがない。
コリオに復讐させてやりたいという愚かな願望もある。しかしこればかりは国家の存亡に関わるかもしれない重大事案。
アレクはハリーと別れた後、二人の捜査官に家に送られた。アリスのもとに帰りたいとは言ったけど、危険が倍になるのでとほぼ強制的に家に送り返された。
その後も家の外に見知らぬ男達が彷徨いていた。
そしてなんとなんと、数日は外出禁止と、お偉いさん直々に伝えられた。




