漲る闘志 似たもの同士!
アーリーの去っていたドアを開けた先には、再び部屋が広がっている。さっきの部屋とは打って変わって、比較的狭めで明るい雰囲気。そして部屋中に無数のベビーベッドや玩具などが置かれていた。
リアスは単身で進んでいる。
フィオリはアーリーが逃げた可能性を探って屋敷の外に出て、リルはまだ十分に動けないという理由でユノの治療を担当している。
もしアーリーに会っても、リアスは小型の追跡発信器を取り付けさえすればいいらしい。
「なんか…この部屋、見たことあるような……」
リアスは部屋中を見渡して、どこか既視感を覚えた。全体的に白を基調とした部屋に穏やかで安心するような香り。いや、ただの思い違いだろう。
さらに続くように、扉を挟まないダイニングらしき部屋が左にあり、さらにダイニングに入って右手にある扉を開けると廊下があり、またまた扉があった。
慎重に、スパイになったつもりで進む。誰もいないのか、やけに静かで恐さを感じる。
生唾を飲み込み、扉を開けた。
「…!」
今までとはまた違った、本棚が天井近くまである部屋。プラネタリウムの如く広大で、白く柔らかい光が包み込む。神秘的でロマンがあり、住んでみたいと心から思った。
そして、再び本を熟読するその姿を見る。
「…………」
アーリー・エクトスが、まーた呑気に本を読んでいる。
先程は物音一つ立てずに近づいても気づかれる始末だった。今回はさらに注意しなければならないが、おそらく不可能だ。
中心にある円状に広がったソファに座っているアーリーに、スローカメラで捉えた映像のようにゆっくりと近づく。
パタン―――とアーリーは本を閉じた。
やはり奴の探知能力は異常だ。
「やっぱあいつら、やられたか……」
「………」
リアスはひたすらに黙り込み、どの位置に追跡装置を付けようか考える。
「……元々判断力に欠けていた馬鹿共だった。エリックはヘイトスピーチと差別が大好きでな、警官隊に突撃して病院送りになっていた所を私がスカウトした。ビクターはドラッグと男色が好みのイカした野郎だった。死体はまだ残っているか?回収しておきたいんだが」
アーリーはコーヒーを飲み干し、振り向いた。
と同時にリアスの情け容赦ない拳が顔面を殴り抜ける。
「………」
殴られているにも無反応で、空を飛んで本棚にぶつかる。不意打ちだったのか受け身はとれなかった。
本当に殴れたのか?声も上げないためか、ダメージが全く入っていないようにも感じる。今までプライド高めの振る舞いのせいで、アホみたいな本心からの声を上げないように痩せ我慢でもしているのか。
「フィオリさんは戦わなくてもいいと言っていたけど…あんなもの見せられてちゃあ無理ってもんだ」
「ハハハ…とんだ失態だよ。この男が不老不死の能力だというのを忘れていた。これじゃ能力が使えないじゃあないか」
会話をする気は毛頭無いようだ。それはどうでもいいとして、感情に任せて殴り抜けたのは失敗だった。
奴に気づかれない位置。背中や太股辺りか。リアスは素早くアーリーに近づく。
「そういや君、あんなものとか言っていたね。多分あの悪趣味な額縁のことなんだろうけど、直させるなんて考えないほうがいい」
額縁とは先程の長い廊下で見た、あの紙にされた人間が飾られている物。思い出しただけで怒りが湧いてくる。
「ならあんたを再起不能にしてから考える」
「うーむ……隠し事は好かないとでも言い訳しておくよ。まず最初に…私はアーリー・エクトスじゃあない」
「………だよね……もう死亡…はしてないけど撃破したという報告はきているから」
「へぇ」
特には驚かない。
薄々は感じていた。自らの召使いを奴隷にしたり、ユノまでをも奴隷とするのを許可したりと、違和感はあった。
「だがしかし正体を明かすワケがない。あの女ならどうせ戦力つぎ込んで殺しにくるだろうからね。今は逃げの一択。発信器を付けるんなら、もう少し訓練を積んでから来て欲しいね」
なんだか表情が薄い男だ。なにもかもお見通しということか。
「気づかれたかと思って焦っちゃったけど、大丈夫だったみたい。作戦は完了済み」
リアスが渡された発信器は二つ。予備用として多く渡されていたのだ。そして今握っているのは一つ。
際限ない嬉しさ。形容しがたい喜びと闘志が湧いてくる。正直発信器なんてどうでもいいし、本来のリアスの目的はこれだった。既にリルの治療は完了し、奴隷として散々働かされていた際の疲労や怪我はそれなりに治った。
お互い運命や恋というものはどうやら信じたくない様子だ。
「ええ、大成功よリアス」
「よし、これからあいつをぶん殴るよ、ユノ」
アーリーはため息をつく。
「……血は争えない…か」
第一話から5日程しか経過していないという事は忘れてください。




