オーディナリー・ワールド その4
名前 アーリー・エクトス
性別男 年齢不明 血液型AB型
常に無表情で、よく何者かの能力で生み出されたアンドロイドではないかと疑われる。人間の「性」に関する事に興味があり、学んだ心理学や巧みな話術を駆使し、数え切れない程の女性と性交を行い、そして数え切れない程の子供を作った。子供が産んだ後の女性は一人を除いて全員が行方不明になっているらしく、見境無く作られた子供は何人なのか、それはアーリーにさえ分からない。
「オラァッ!!」
アレクはアーリーの手首を掴んだまま片方の腕でアーリーの顔面を吹っ飛ばした。
アーリーは一切避けることはなく、一瞬で首から上がどこかへ吹っ飛んだ。
アレクはまだ自身に『ファイネスト・アワー』を発動させているため、腕力から脚力に至るまで、全てが千人力だ。しかしその分、人体の限界に達した場合にはデメリットもある。
「大丈夫…なわけないな。俺の声が聞こえるか!?」
アレクはルクセルの耳元で叫ぶ。
「ぁ…っ………」
目は開いており、手をルクセルに近づけた。
「「自分は怪我をしていない」そう心から願うんだ。仏教の念仏唱えるみたいに復唱でもいいから、いいな!?」
手がルクセルに触れる。
そうすることで『ファイネスト・アワー』は発動し、触れた者が「望んだ物事」を実現させる。限界はあるが、ルクセルは怪我をしていない状態となる。
「はぁ…はぁ…」
痛みや異物感は全て消え、ルクセルは起き上がる。
ただの応急処置にすぎないが、これで満足に戦える。
「あとはコリオを…」
アレクが周りを見渡し、倒れるコリオを見つけると、走り出す。
しかしその刹那、目をそらしたその一瞬、魔の手が忍び寄る。
「「生きる」ことは人間の求める究極の欲求……どんな強者でも支配者でも「死」という恐怖と絶望は確実に訪れる…しかしそれを克服したらどうなると思う?………最大の絶望が自分の中から消えればそれは同時に「死」以外のありとあらゆる恐怖をも克服することさえ出来る…」
パッ――と一瞬だった。その一瞬が命取りだった。
等身大パネルのような大きさの、今にも破れそうな紙がアレクの左側にヒラヒラと舞い落ちる。
「なッ!……」
首から上を吹っ飛ばしたはずのアーリーの体の手が既にルクセルに触れていた。
不死の能力を甘く見ていた。脳という司令塔さえ無くなれば一時的でも行動不動にできるのではないかという浅はかな憶測が愚かであった。
ルクセルは『ペイパー・ゴッド』により紙にされ、完全なる再起不能となってしまったのだ。
「…「不死」は全てを超越し、支配する最強の能力なのだよ…」
首無しのアーリーが話していた。
アレクは驚きの表情と共に、紙になったルクセルに手を伸ばす。
戻せないとはいえ、破られたら一巻の終わり。
地面スレスレのボールを取る野球選手のように飛び込み、死に物狂いで掴もうとする。
「リーチで言えばこちらの方が上だな…フフフ」
不気味な笑いは恐怖を生んだ。
関節を外してリーチを伸ばす?腕を千切って投げつける?。そんなことではない。
アレクの視界の隅から、「脚」が現れた。
スラックの切り取られた脚であった。
脚は地面に叩きつけられ、ビール瓶をテーブルに置いたように音を立て、豪快に立つ。
「オオオオオオオーーーッッ!!!!!」
声を張り上げ、掴んだ。
それと同時に、紙となったルクセルは「この世界」から消えた。
少しの間、辺りを静寂が支配する。その静寂が、ルクセルの消失と絶望的な状況を物語っている。
「さてと…これで一対一…だな」




